脳科学関係の書籍を紹介する。
渡辺正峰 「脳の意識 機械の意識 脳神経科学の挑戦」中公新書
2017年発行
はじめに
深層学習が近年進展している。そのアイディアの大元は、初期の脳科学ででてきた神経回路網のモデルがヒントになっている。GPUに代表される計算能力の拡大は、1980年代のback propagation を実用的な問題に適用可能にした。しかも、アルゴリズムの改良も大きい。
深層学習の話はいったんおいといて、脳科学の実験の進展が何があるのかが読めるのがこの本だ。
私達が、日常見ているものは、「ありのままの外界」ではない。
「私たちが見ているように感じるのは、眼球からの視覚情報をもとに、脳が都合よく解釈し、勝手に創りだした世界だ」
そのことを実感できる例を、この本では紹介している。
両眼視野闘争もその一つだ。
この本には、まさしく両眼視野闘争を経験するページが含まれている。
利根川進 著「私の脳科学講義」岩波新書の中でも両眼視野闘争の実験が紹介されている。
図2.5 サルを使った視覚交代実験 p.69 がかかれている。
神経伝達の時間差を意識しないのはなぜか
また、人の神経細胞を通じた情報の伝達と知覚処理は、遅延を持っている。複数のセンサ(感覚器)からの到達して知覚されるはずの時間は違っているはずなのに、その時間差を意識していない。
人工システムである監視カメラなどでは、処理の遅延が無視できない。NTSCのアナログの監視カメラの時代より、デジタルの監視カメラでは、撮影と表示の間でさえ遅延が無視できない。デジタルカメラの前で手のひらを左右に振ってみて、どれくらい遅れているのかを見てみるとよい。さらに、ターゲットの検出処理が入ると、検出結果が得られた時には、ターゲットは更に移動してしまっている。
しかし、ヒトを含む生き物の知覚処理は、そのような遅れを意識することなく、移動している物体を手にとることができるものになっている。
その秘密は、どこにあるのか考えてみることです。
自分で考えてみることが大切だと思うので、その答らしい情報はここでは述べないことにします。
よい実験とは何か
また、2つの本に共通なことは、よい実験とはどういうことかが書かれているということ。
よい実験とは何かを知っていることは大切で、よい実験を知っている研究者の弟子は、よい研究を成し遂げることが多いらしい。
ノーベル賞の受賞者の弟子にノーベル賞受賞者がいたりすることがあるのは、よい実験とは何かを知っていることから出てくるらしい。
利根川進 氏の脳科学への研究は、遺伝子組み換え技術でノックアウトマウスを作り、それを脳の研究に結びつけたという点において、脳科学の進歩を創りだしたものということだ。