📝 はじめに
AI を使った開発手法について調べていると、AI-DLC / 仕様駆動開発(SDD) / バイブコーディング など、似ているようで微妙に違う言葉がいくつも出てきます。
しかし実際にチームや個人で利用しようとすると、
- どれがどう違うのか
- どんな場面で使い分けるべきなのか
- どこが重複していて、どこが全然違うのか
が曖昧なままです。
自分自身もここを整理しないと迷走しそうだったので、理解をまとめるために自分なりにまとめてみた内容になります。
📘 本記事の対象者
- AIを使った開発手法の違いを整理したい人
- チームの開発プロセスに AI を取り入れたい人
- AI-DLC・仕様駆動・バイブコーディングを比較したい人
- とりあえず情報の交通整理がしたい人
📄 3手法の定義まとめ
🔷 AI-DLC(AI-Driven Development Lifecycle)
AI を前提に、要件定義〜設計〜実装〜運用までソフトウェア開発プロセス全体を再設計する手法。
AI が計画・仕様案・コード・テストを生成し、人間が意思決定して進める「AI+モブ開発」スタイル。
🔷 仕様駆動開発(SDD)
人間が仕様書(Spec)を作ることを中心に据える手法。
AI に正しく仕事をさせるため、指示書として仕様書を精密に作る。
「仕様が神」「仕様が唯一の真実(Single Source of Truth)」という思想。
🔷 バイブコーディング
AI と会話しながら作りたいものをどんどん作っていくスタイル。
仕様や設計の静的文書に依存せず開発していくイメージ
最速で作れるが、設計意図が残りにくい。
📊 比較表(要件〜実装〜テストまで)
| 項目 | AI-DLC | SDD(仕様駆動) | バイブコーディング |
|---|---|---|---|
| 要件定義・設計 | AI+人間の共同作業で要件作成 | 人間が仕様書を作成 | 会話しながら柔軟に決定 |
| 実装 | AI主導 | AI(仕様書に基づく) | 人間+AI |
| テスト | AIが計画・生成 | 仕様をもとにAI生成 | 仕様が曖昧で不安定 |
| メリット | プロセス一貫性・統合 | 品質安定・TDD適合 | 最速・柔軟 |
| デメリット | プロセス設計が必要 | 仕様作成が重い | 品質・再現性が低い |
| 向いてる場面 | 大規模・組織標準化 | 中〜大規模・品質重視 | 個人・小規模・プロトタイピング |
🧠 メリットのマッピング(どの手法が何に強い?)
ここでは、各観点を軸にどの手法のメリットについてまとめてみました。
🏗️ 1. 大規模開発への向き
| メリット | AI-DLC | SDD | バイブコーディング |
|---|---|---|---|
| 大規模開発に向く | ◎(プロセスを AI で構造化し、要件〜実装〜運用を一貫統合できるため。チーム間の認識齟齬が起きにくい) | ◎(仕様が唯一の真実になるため、複数人でも整合性を保ちやすい) | ×(会話ベースで仕様が散逸し、コード品質も揺れやすく破綻しやすい) |
🧩 2. コード・設計の一貫性
| メリット | AI-DLC | SDD | バイブコーディング |
|---|---|---|---|
| 一貫性が出る | ◎(AIが設計意図を保持しながらコード生成するため。Boltごとに整合性が保たれる) | ○(仕様書によって一貫性は担保できるが、仕様更新を怠ると破綻) | ×(都度プロンプト次第/人間次第で揺れるため一貫性が出にくい) |
🧪 3. テストの安定性
| メリット | AI-DLC | SDD | バイブコーディング |
|---|---|---|---|
| テストが安定する | ◎(AIが要件→テストを一貫生成するため、意図のズレが起きにくい) | ◎(仕様→テスト の流れが確立されているため、TDD/BDDと相性が良い) | ×(仕様が曖昧なのでテストの基準がブレやすい) |
⚡ 4. スピード(プロトタイピング・実装速度)
| メリット | AI-DLC | SDD | バイブコーディング |
|---|---|---|---|
| スピード | ○(AIが要件分解〜実装まで補助するので早いがプロセス定義が必要) | ×(仕様書作成が重いため初動が遅い) | ◎(仕様なしで AI と会話しながら最速で形にできる) |
📐 5. 設計意図の保存・トレーサビリティ
| メリット | AI-DLC | SDD | バイブコーディング |
|---|---|---|---|
| 設計意図が残りやすい | ◎(AIが生成した設計・会話ログ・計画がリポジトリに残る) | ○(仕様書が残るため残りやすい) | ×(設計意図がチャットの流れで消えやすく、後から追えない) |
👨👩👧👦 6. チーム開発向きか?
| メリット | AI-DLC | SDD | バイブコーディング |
|---|---|---|---|
| チーム開発に向く | ◎(AIが中心で統一された開発プロセスを提供するため、誰が参加しても再現性が高い) | ○(仕様さえ保守されていれば複数人で開発しやすい) | ×(プロンプトや個人の癖に依存するため標準化しにくい) |
🔄 7. 変更耐性(リファクタ・機能追加)
| メリット | AI-DLC | SDD | バイブコーディング |
|---|---|---|---|
| 変更に強い | ○(AIが影響範囲を考慮して再提案しやすい) | △(仕様変更コストが高い) | ◎(仕様が緩いので即変更できる。ただし破綻リスクあり) |
🧭 8. 運用/保守
| メリット | AI-DLC | SDD | バイブコーディング |
|---|---|---|---|
| 運用・保守性 | ◎(AIが一貫したコンテキストを保持したまま改善指示に対応できる) | ○(仕様書更新を続ければ保守性が高い) | ×(意図が残らず長期保守が困難) |
🪶 9. 初心者フレンドリーか?
| メリット | AI-DLC | SDD | バイブコーディーディング |
|---|---|---|---|
| 初心者向き | ○(AIに任せられる領域が広い) | ×(仕様を書くのがそもそも難しい) | ◎(会話だけで作れるので最も入りやすい) |
🎯 まとめ
■ AI-DLC が“強い”理由
- 開発プロセス全体を AI と人間の協働で再構築する
- 設計意図・会話ログ・テスト・コードが一貫した流れで残る
- 大規模開発や組織標準化と相性が圧倒的に良い
■ SDD が“強い”理由
- 仕様書がソース・オブ・トゥルースになるため品質が安定
- 仕様→テスト→実装という古典的で堅牢な流れが作れる
- 複数人でも破綻しにくい
■ バイブコーディングが“強い”理由
- とにかく最速で作れる
- 小規模・個人には最高の開発体験
- 会話中心なので扱いやすい
📚 どんな場面でどれを使うべきか?
🔥 個人・小規模 → バイブコーディング
個人開発や、少人数でまずは動くものを触りたいフェーズでは、バイブコーディングがもっとも相性が良いと考えています。
「きれいな設計」や「完全な仕様書」よりも、とりあえず今すぐ動くものがほしい場面では、AI に対して会話ベースでどんどん指示を出しながら実装していくスタイルがとても強力です。
- 新しいアイデアをすばやく形にして試したい
- プロトタイプを何パターンも回して感触を確かめたい
- 仕様を書くより、とりあえず動かしてフィードバックを集めたい
といったケースでは、学習コストが低く、スピードも出るバイブコーディングが一番しっくりきます。
🔥 中規模・品質重視 → SDD(仕様駆動)
一方で、ある程度の規模になってきて、品質や一貫性をちゃんと担保したい場合は、SDD(仕様駆動開発)の出番になります。
このフェーズでは、「とりあえず動けばいい」だけでは足りず、
- 仕様書に書かれていることが真実として扱われる
- その仕様を基準に、テストもコードも一貫して設計される
- どのメンバーが触っても、同じ前提・同じルールで議論できる
という状態が望ましくなります。
特に、テスト設計をきっちり固めたい場合や、**コードの一貫性が重要になるプロダクト(長期運用前提・複数チームでの開発など)**では、SDD のように「まず仕様をしっかり書く」というアプローチが効いてきます。
AI はその仕様書を入力として実装やテストを生成するので、仕様がきれいであればあるほど成果物のブレが少なくなる、という構造になります。
🔥 大規模・標準化したい組織 → AI-DLC
さらにスケールして、「プロダクト単位」ではなく組織全体で開発プロセスを標準化したい段階になると、AI-DLC のような「AI 前提で組み直された開発ライフサイクル」が効いてきます。
- チームごとのやり方の差分を小さくして、組織全体の生産性を底上げしたい
- AI を一時的な“便利ツール”ではなく、正式にプロセスの中に組み込みたい
- 要件定義〜設計〜実装〜テスト〜運用までを、AI と人間の協働プロセスとして一貫化したい
といったニーズに対して、AI-DLC は「AI がやること」「人間が意思決定すること」をあらかじめフレームとして用意してくれます。
単に「AI を導入する」のではなく、AI を前提にした新しい SDLC を採用するというイメージに近いです。
🏗️ 3手法を組み合わせると最強
ここまで見るとわかる通り、AI-DLC・SDD・バイブコーディングはどれか一つを選ばないといけないものではなく、むしろ組み合わせて使う方が現実的だと考えています。
たとえば:
- プロダクト全体としては AI-DLC の枠組みで要件〜運用までのプロセスを整えつつ、
- 仕様が重要なコアドメインや対外公開 API などは SDD でしっかり仕様を書き、テスト設計も固める
- 逆に、小さなバグ修正や軽いUI調整、ちょっとした機能追加のように重いプロセスを回したくないタスクは、バイブコーディングでさっと直してしまう
というような住み分けができます。
つまり、
- 「プロセスの土台」:AI-DLC
- 「品質と一貫性が特に重要な部分」:SDD
- 「スピードと柔軟さが欲しい部分」:バイブコーディング
という形で レイヤーごと・タスクごとに役割分担させると、3つの手法がうまく噛み合ってくれるイメージです。
この記事の内容を参考に自分のプロダクトにどういった手法が取り入れられそうか参考になれば幸いです!