POSシステムの売上データをNetSuiteとバッチ連携する構成において「POSからデータを送信する」か「NetSuiteがPOSデータを参照してそのデータを取得する」かの方式比較を中心とした記事です。
連携方式の分類(Push型 vs Pull型)と構成の違い
POS(クラウドPOS)からNetSuiteへのデータ連携には、大きく Push型 と Pull型 の2通りの方式があります。Push型はデータ発生元であるPOS側からNetSuiteへデータを送信する方式、Pull型はNetSuite側からPOSのAPIへリクエストを送りデータを取得する方式です。それぞれ構成に違いがあり、次のように整理できます:
- Push型連携: POSで売上データが生成された後、POS側(または中間の連携サーバ)がNetSuiteのREST APIエンドポイント(例えばRESTletスクリプト)に対してデータを送信します。NetSuite側では受信したデータを処理し、売上取引(トランザクション)レコードとして取り込みます。リアルタイム連携が可能ですが、今回はバッチ方式を想定しているため、例えば1日分の売上をまとめて送信するといった形になります。
- Pull型連携: 定期的なスケジュールでNetSuite側のスクリプト(後述のScheduled Scriptなど)を実行し、POSのAPIから売上データを取得します。NetSuiteが自発的にPOSへ問い合わせる構成で、POSからの直接呼び出しはありません。バッチ方式では、例えば毎日夜間に当日分の売上データをNetSuite側から取りに行く、といった運用になります。
Push型ではNetSuiteに外部から呼び出せるAPI受け口を用意する必要があり、Pull型ではNetSuite側が外部通信(アウトバウンド通信)を行うための仕組みが必要になるという違いがあります。
各方式のメリット・デメリット比較
Push型とPull型それぞれに利点と留意点があります。バッチ処理前提で両方式を比較すると、以下のようなメリット・デメリットが考えられます:
-
Push型のメリット:
- POS側のデータ発生に合わせて送信できるため、(設定次第で)ほぼリアルタイムに近いタイミングでNetSuiteにデータ反映が可能です。
- データ連携のトリガーをPOS側で管理できるため、NetSuite側のスケジュール設定が不要です。
- 外部のミドルウェアやバッチサーバ等を用意すれば、NetSuite外でデータ変換・クレンジングを行ってから取り込むフローを構築しやすいです。
-
Push型のデメリット:
- NetSuite側にRESTletなど受信APIを実装・公開する必要があります。外部からNetSuiteを呼び出すには認証やトークン設定も必要で、セキュリティ面の考慮が増えます。
- POSから直接NetSuite RESTletを呼ぶ機能がない場合、結局中間サーバやインテグレーションサービスを開発する必要があります。バッチ方式でまとめて送る場合も、外部でスケジューラを動かす手間が発生します。
- トランザクション数が多いとNetSuite受信側で処理が集中しやすく、エラー発生時のリトライ処理などの実装も外部側で用意する必要があります。
-
Pull型のメリット:
- NetSuite内で完結した仕組み(スケジュール実行のSuiteScript)で実装できるため、追加の外部サーバやサービスが不要です。既存のNetSuite環境で管理でき、シンプルな構成になります。
- NetSuite側で実行タイミングを自由に設定できます(例:毎日深夜に1回実行など)。店舗の営業終了後にまとめて取得するなど、タイミングを制御しやすいです。
- NetSuite側スクリプト内でPOSAPIから取得→取込処理まで一貫して行えるため、処理全体のエラーハンドリングやログ出力をNetSuite上で統一的に管理できます。
-
Pull型のデメリット:
- NetSuite上で外部API呼び出しを行うためのSuiteScript開発が必要です。特にデータ量が多い場合、SuiteScriptのガバナ制限(APIコール数やメモリ上限)に注意し、場合によってはMap/Reduceなどを検討する必要があります。
- スケジュール実行間隔次第では、NetSuiteへのデータ反映にタイムラグが生じます(リアルタイム性は低下します)。バッチ実行頻度を上げすぎるとNetSuite側の負荷も増えます。
- POSAPIから大量データをPullする際、ネットワーク障害や一時的なAPIエラーがあるとデータ取得漏れのリスクがあります。そのため再取得ロジックや取得範囲の管理(どの日付まで取得済みか等)が必要です。
以上を踏まえると、リアルタイム性が必須でないバッチ連携では「NetSuite標準機能内で処理が完結する」「追加インフラが不要」といった利点からPull型の方が運用負荷が低くなる傾向があります。
POSのAPI仕様に基づく制約(認証・取得条件・レート制限など)
POSの提供するAPIを利用して売上データを取得する際には、API仕様上いくつか押さえるべきポイントがあります。
-
認証方式
-
取得条件の必須化: 売上データ(取引情報)を参照するAPIでは、無条件ですべての取引を取得することはできず、何らかの検索条件を指定することが必須となっています。例えば「取引ID(範囲指定可)」「取引日時(From-To期間指定)」「更新日時(From-To期間指定)」などの条件のうち、1つ以上を指定しないとエラーになります。したがって、日次バッチであれば「取引日時を当日分の範囲指定」といった形で条件を付けてAPIを呼び出す必要があります。
-
検索期間と件数制限
-
データ更新頻度: 売上データはリアルタイムで更新される可能性がありますが、バッチ取得の場合は通常「前日までの確定した売上」を対象にするなど、取得タイミングと範囲を決めて運用します。
NetSuite側で利用するSuiteScriptのタイプと活用可能性
NetSuiteでは、上記の連携を実現するためにSuiteScript(サーバサイドJavaScript)を活用します。今回のようなバッチ処理では主に次のスクリプトタイプを検討できます:
-
Scheduled Script(スケジュールスクリプト): 指定したスケジュール(例えば毎日深夜や毎正時など)で自動実行されるサーバサイドスクリプトです。POSAPIとの連携では、Scheduled Script内でNetSuiteのHTTPモジュール(N/https)を使ってPOSのREST APIにアクセスし、売上データを取得・処理する形になります。スケジュール実行は管理画面から簡単に設定でき、バッチ処理に適しています。取得データ量が多い場合には、Scheduled ScriptからMap/Reduceスクリプトを呼び出して並列処理することでパフォーマンス向上も可能です。
-
RESTlet: NetSuite上で独自にREST APIエンドポイントを公開できるSuiteScriptです。外部システムからHTTPリクエストを受け取り、NetSuite内の処理を実行できます。Push型連携を採用する場合、POS側(もしくは中間サーバ)からNetSuiteのRESTletに対して売上データをPOSTし、RESTlet内でトランザクションを作成する実装が考えられます。RESTletは柔軟な実装が可能ですが、外部公開するため**認証(トークンベース認証やBasic認証)**の設定や、URLを第三者に知られない管理が必要になります。またNetSuiteのRESTletには1リクエストあたりの処理時間やサイズ制限もあるため、大量データを送信する場合は注意が必要です。
-
その他のスクリプト: 上記以外では、処理内容次第でMap/Reduce(大量データのバッチ処理向け)、Suitelet(カスタムWebアプリ画面や外部公開もできる汎用スクリプト)なども候補になります。ただしSuiteletを外部から呼ぶ場合はRESTlet同様に認証が必要になるため、単に外部からデータ受信する用途であればRESTletの方が適しています。ユーザイベントやスケジュールトリガーが使えないケースで外部連携を即時実行したい場合に、SuiteletをWebhook受信エンドポイント的に使う方法もありますが、NetSuiteでは一般的にRESTletの方がWebhook受信用途に向いています。
今回のPOS→NetSuite一方向連携(バッチ)では、Pull型であればScheduled Scriptを用いて定期実行する構成が基本となり、Push型であればRESTletを用いて外部から呼び出す構成が基本となります。
本ケースでPull型(NetSuite側でのデータ取得)が推奨される理由
前述の比較を踏まえ、本ケース(POSPOS売上データをバッチでNetSuite取込)ではPull型のアプローチが推奨されます。その主な理由は以下のとおりです:
-
構成のシンプルさ: Pull型であればNetSuite標準のスケジュール実行機能だけで完結するため、追加のインフラやサービスが不要です。特に今回のように一方向(POS→NetSuite)連携の場合、NetSuite内で処理を閉じるPull型の方がシンプルなアーキテクチャになります。
-
POS側の制約: POSのWebhook機能を利用すれば取引発生ごとに通知を受けることも可能ですが、リアルタイム性が不要なうえに取引件数が多い場合はWebhoookが乱発されレート制限に抵触する恐れもあります。バッチでまとめて取得するほうがPOSAPIへの負荷制御もしやすく、API呼び出し回数も抑えられます。
-
NetSuiteでのデータ統合: NetSuite側で取得と取込処理を一括して行えるため、エラー時の再試行(リトライ)や、データ変換ロジックをNetSuiteスクリプト内で集中管理できます。例えば前回取得日時を記録しておき、それ以降の更新分のみ取得する制御もPull型なら容易です。Push型だと外部側でこうした制御を実装し、NetSuite側と分散管理する必要があり複雑になります。
-
セキュリティと運用: Pull型ではNetSuiteから外部に出て行く通信のみで完結するため、NetSuiteへのアクセス認証情報を外部に渡す必要がありません(POSのAPI認証情報はNetSuite内で保持)。一方Push型ではNetSuiteのRESTlet呼び出し用にトークンや認証情報を外部に配置する必要があり、管理範囲が広がります。運用面でも、NetSuiteスクリプトのスケジュールはNetSuite管理者が変更できますが、外部サービスの設定変更は別管理になるなど、Pull型の方がNetSuite開発者にとって扱いやすいと言えます。
以上の理由から、リアルタイム性よりデータ確実性・運用性を重視する本ケースではPull型が適しています。POSAPIの仕様上、一定期間まとめて取得するバッチ処理は問題なく可能(条件指定とページングで対応)であり、NetSuite側もScheduled Scriptでの定期実行に適しているためです。
次回以降の「実装編」では、上記前提に基づいて具体的なSuiteScriptコードや設定手順を紹介していきたいと考えていますが、具体的な製品との連携となりますので連携する製品のデモ環境やサンドボックスをご協力いただいてからとなります。
本記事の内容を前提知識とし、実際のコーディングに進んでいきます。