はじめに
こんにちは。
今回はAWS Billing Transfer の設定についてご紹介します。
実際に複数のOrganizationsの請求を1つの支払いアカウントにまとめてみたので、その手順を共有します。
AWS Billing Transferとは?
ざっくり言うと、複数のAWS Organizationsの請求書・支払いを1つの管理アカウントに集約できる機能です。
ポイントはこんな感じ:
- 請求の一元管理ができる(invoiceの集約・支払い処理・コスト分析)
- 各Organizationsのセキュリティ・ガバナンスはそのまま独立して維持
- AWS Billing Conductorと連携して、料金の可視性をコントロールできる
- AWSパートナーのリセール業務にもフィット
従来は各Organizationsの管理アカウントに個別にログインして請求を確認・支払いする必要がありましたが、Billing Transferを使えばそれが1箇所で完結します。
こんなときに使えそう
💡 原価+マージンを載せて社内課金・再販したい場合
- 情シスやCCoEがAWSをまとめて契約している
- 各部門や顧客に対して利用料を請求する必要がある
例えばこんなイメージ:
| AWS実コスト | 社内請求額 | |
|---|---|---|
| 開発部門A | 50万円 | 55万円(10%マージン) |
| 開発部門B | 30万円 | 33万円(10%マージン) |
| 開発部門C | 20万円 | 22万円(10%マージン) |
Billing Conductorと組み合わせれば、マークアップ(上乗せ)込みの請求データを生成できます。
💡 環境ごとにOrganizationsを分離している場合
- セキュリティ要件で開発・検証・本番のOrgを分けているが、請求は一元管理したい
- 環境分離を維持しつつ、支払い処理やコスト分析は1箇所で行いたい
登場する用語を整理
設定に入る前に、用語を押さえておきましょう。
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| Bill-Transfer Account | 請求を受け取って支払いを行う側のアカウント(集約先) |
| Bill-Source Account | 請求を移管する側のアカウント(各Organizationsの管理アカウント) |
| Billing Transfer Invitation | Bill-Transfer AccountからBill-Source Accountに送る招待 |
| Two-level Billing Transfer | Bill-Transfer Accountがさらに別の外部管理アカウント(Bill Receiver)に請求を転送する2段階構成 |
イメージとしては、Bill-Transfer Accountが「うちで請求まとめて払うよ」と招待を送って、Bill-Source Accountが「お願いします」と承諾する流れです。
なお、Billing Transferは2段階の転送(Two-level Billing Transfer)にも対応しています。Bill-Transfer Accountが自身の請求とBill-Source Accountの請求をまとめて、さらに別の外部管理アカウント(Bill Receiver)に転送できます。Bill-Source Accountが招待を承諾すると、Bill Receiver側にCloudTrail通知が送信され、自動的にBill-Source Accountの請求管理を引き受ける仕組みです。
構成イメージ
今回やりたいことはこんな感じです。構成図を作ったので載せておきます:
前提条件
- Bill-Transfer Account、Bill-Source Accountともに 管理アカウント(Management Account) であること
- 招待を送れるのはBill-Transfer Account側のみ(一方向)
- AWS Billing Conductorの設定が必要(コンソールから設定する場合)
- 招待は開始日の 24時間前(UTC) までに承諾する必要あり
- 転送の開始日・終了日はカレンダー月に合わせて設定される(開始は月初 00:00:00 UTC、撤回時の終了は当月末または翌月末 23:59:59 UTC)
- Volume discount tiers、Reserved Instances、Savings Plansの計算は転送後も各Organization単位で適用される(計算境界は変わらない)
設定手順
Step 1: Bill-Transfer Account側でBilling Transferの設定画面を開く
- Bill-Transfer Accountの管理アカウントでAWSマネジメントコンソールにログイン
- 請求とコスト管理(Billing and Cost Management) コンソールを開く
- 左メニューから 設定とプリファレンス(Preferences and Settings) → 請求転送(Billing Transfer) を選択
日本語表示の場合は「請求転送」という表示になります。
Step 2: Billing Transfer Invitationを送信する
- 招待の送信(Send invitation) をクリック
- Bill-Source Accountの アカウントID(12桁) を入力
-
開始日(Start date) を指定
- 月の初日が開始日になります(例:2月1日開始なら、1月30日 19:00 EST までに承諾が必要)
-
料金設定(Pricing configuration) を選択
- AWS managed pricing plan(Billing Conductorの利用料なし)
- Customer managed pricing plan($50/Organization)
- 内容を確認して 招待の送信(Send invitation)
Step 3: Bill-Source Account側で招待を承諾する
- Bill-Source Accountの管理アカウントでログイン
- 請求とコスト管理(Billing and Cost Management) → 設定とプリファレンス(Preferences and Settings) → 請求転送(Billing Transfer) を開く
- 届いている招待を確認し、承諾(Accept) をクリック
承諾すると、開始日以降の請求はBill-Transfer Accountに移ります。Bill-Source Account側ではAWSの請求書が届かなくなるので、事前に関係者への周知をお忘れなく。
Step 4: 転送が有効になったことを確認する
- Bill-Transfer Accountに戻る
- 請求転送(Billing Transfer) 画面でステータスが アクティブ(Active) になっていることを確認
- 複数のOrganizationsに対して同じ手順を繰り返す
Step 5: Billing Conductorの設定(任意)
Bill-Source Account側に見せるコストデータをカスタマイズしたい場合は、Billing Conductorで料金の見せ方をカスタマイズできます。詳細はAWS公式ドキュメントを参照してください。
設定後に確認しておきたいこと
コストデータの確認
Bill-Transfer Accountでは、Billing Viewsを使って各Organizationsのコストデータを確認できます。
CUR(Cost and Usage Report)の再設定
Billing Transfer開始後、Bill-Source Account側の既存CUR設定は Unhealthy になります。
パートナーとしてチャージバックにCURを使っている場合は、転送開始後〜請求サイクル終了前 にCURを再設定してください。
注意点・ハマりポイント
ここは事前に押さえておきたいポイントです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 過去データへのアクセス | 転送後、Bill-Source側ではCost Explorer・Budgets・Cost Anomaly Detectionの過去データが見れなくなる。事前にダウンロード推奨 |
| クレジットの扱い | Bill-Source側ではクレジット残高の確認ができなくなる。Billing Conductorで明示的にモデリングが必要 |
| サポート料金 | Pro forma billing dataにはサポートプラン料金が含まれない |
| 時間粒度の制限 | Bill-Source側のCost Explorerでは日次・月次のみ。時間単位はCURを使う |
| RI/SP推奨 | 推奨購入額は正確だが、節約見込み額は公開料金ベースなので実際より高く出ることがある |
| Rightsizing推奨の制限 | Bill-Source側はpre-discount(割引前)の推奨のみ利用可能。post-discount(割引後)の推奨は使えないため、既存のRI/SPインベントリと照らし合わせて検証が必要 |
| コストカテゴリ・タグ | Bill-Source側で設定したコストカテゴリやコスト配分タグは、Bill-Transfer側が設定したCURに反映される |
| Invoice Configuration | 転送先アカウントのTax SettingsとSeller of Record(SOR)がデフォルトで適用される。Bill-Source Accountごとに異なるTax Settings/SORを設定したい場合は、Invoice Configuration機能で個別に変更可能 |
| 転送の撤回タイミング | どちらのアカウントからでも転送を撤回できる。撤回した場合、終了日は当月末または翌月末の23:59:59 UTCとなる |
料金について
- AWS managed pricing plan を選択した場合、Billing Conductorの利用料は無料
- Customer managed pricing plan の場合、$50/Organization
- 2026年5月31日まで無料トライアル が提供されています
まとめ
Billing Transferを使うことで、複数Organizationsの請求管理がかなりスッキリすると思います。
特にAWSパートナーとして複数のお客様環境を管理している場合、これまでの「各Orgに個別ログインして請求確認」という運用から解放されるのは大きいです。
設定自体は招待→承諾のシンプルなフローなので、ハードルは低いと思います。
ただし、過去データのアクセスやCURの再設定など、事前に把握しておくべきポイントは
いくつかあるので、本番適用前にしっかり確認しておくことをおすすめします。
本記事はAWSが公式で提供しているドキュメントを元に作成しています。本記事に記載されていない内容や不明点については、AWSサポートにお問い合わせください。
この記事が、同じようにマルチOrg運用で悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。
