はじめに
Databricksには、自然言語でデータ作業を行える Genie Code が搭載されています。ノートブックやSQLエディタ上でETLパイプラインの構築、MLモデルのデプロイ、ダッシュボードの作成など、データエンジニアリングからMLまで幅広い作業を自然言語で指示できる強力なエージェントです。
では、Genie Codeがあれば十分でしょうか?
Genie CodeはDatabricksワークスペース内のデータ作業に最適化されていますが、プラットフォーム全体の管理・構築やローカル開発環境との連携は対象外です。例えば以下のような作業はGenie Codeではカバーされません。
- Databricks Appsの開発・デプロイ
- クラスタやウェアハウスの作成・設定変更
- Unity Catalogの権限管理・セキュリティポリシーの設定
- Vector Searchエンドポイント・インデックスの構築
- Lakebaseデータベースの管理
- ジョブの作成・更新・削除(※Genie Codeはジョブの監視・障害対応が中心)
- ローカルファイルの編集、Git操作、PRの作成
Claude Code + Databricks AI Dev Kit は、この領域をカバーします。Genie Codeが 「ワークスペース内でデータを扱う」エージェント なら、Claude Code + AI Dev Kitは 「Databricksプラットフォーム全体を構築・管理する」エージェント です。
Claude CodeはAnthropicが提供するAIコーディングアシスタントのCLIツールです。AI Dev Kitと組み合わせることで、50以上のMCPツールを通じてDatabricksのリソースを自然言語で操作・開発できます。
Genie Code と Claude Code + AI Dev Kit の使い分け
| Genie Code | Claude Code + AI Dev Kit | |
|---|---|---|
| 得意領域 | データ作業(EDA、ETL、ML、ダッシュボード) | プラットフォーム構築・管理・アプリ開発 |
| 動作環境 | Databricksワークスペース上(ブラウザ) | ローカルのターミナル / VS Code |
| データ操作 | ノートブック・SQLエディタでコード生成・実行 | MCP経由でSQL実行・テーブル操作 |
| パイプライン | 構築・実行・監視・障害対応 | 構築・実行・ジョブのCRUD管理 |
| アプリ開発 | - | Databricks Appsの構築・デプロイ |
| インフラ管理 | - | クラスタ、ウェアハウス、UC権限、Vector Search、Lakebase |
| ローカル連携 | - | ファイル編集、Git、PR作成、ローカルテスト |
両者は競合するものではなく、補完関係にあります。ワークスペース内のデータ作業はGenie Codeで、プラットフォーム全体の構築・管理・ローカル開発はClaude Code + AI Dev Kitで、という使い分けが効果的です。
さらに、Claude CodeのバックエンドモデルとしてDatabricksがホストするClaudeモデルを利用することで、AIの利用状況をDatabricks AI Gatewayで一元管理でき、企業のAIガバナンス要件にも対応できます(詳細は付録を参照)。
本記事では、この開発環境を構築する手順を解説します。
本記事のインストール手順(手順1〜5)はWindows環境を対象としています。手順6以降のDatabricksホストモデルの設定やAI Dev Kitの構成はOS共通です。Mac/Linuxをお使いの方は手順1〜5を各OSのインストール方法に読み替えてください。
前提条件
- Windows 10/11(ARM64またはx64)
- Databricksワークスペースへのアクセス権限
- PowerShellが利用可能であること
必要なソフトウェアの確認
以下のソフトウェアが必要です。既にインストール済みのものはスキップしてください。
PowerShellで以下のコマンドを実行し、インストール状況を確認できます。
git --version # → 未インストールなら手順1へ
python --version # → 未インストールなら手順2へ
uv --version # → 未インストールなら手順3へ(オプション)
databricks --version # → 未インストールなら手順4へ
claude --version # → 未インストールなら手順5へ
| ソフトウェア | 必須/オプション | 対応する手順 | 用途 |
|---|---|---|---|
| Git | 必須 | 手順1 | Claude Codeのインストールに必要 |
| Python | 必須 | 手順2 | AI Dev Kit等のツール実行に必要 |
| uv | オプション | 手順3 | AI Dev Kit利用時に必要 |
| Databricks CLI | 必須 | 手順4 | ワークスペースへの認証・操作に必要 |
| Claude Code | 必須 | 手順5 | 本記事のメインツール |
全体の流れ
以下の順序でセットアップを進めます。既にインストール済みの手順はスキップしてください。
ソフトウェアのインストール(Windows固有)
- Git for Windowsのインストール
- Pythonのインストール
- uvのインストール(オプション)
- Databricks CLIのインストールとログイン
- Claude Codeのインストール
Databricks連携の設定(OS共通)
6. Databricksホストモデルの設定
7. VS Codeのインストール(オプション)
8. Databricks AI Dev Kitのインストール(オプション)
ソフトウェアのインストール(Windows)
1. Git for Windowsのインストール
重要: Claude CodeのインストールにはGitが必要です。必ず先にインストールしてください。
- Git for Windows公式サイトにアクセス
-
Standalone Installerからお使いの環境に合ったセットアップファイルをダウンロード
- ARM64の場合:
Git-2.49.0-arm64-bit.exe(※バージョンは時期により異なります) - x64の場合:
Git-2.49.0-64-bit.exe
- ARM64の場合:
- ダウンロードしたインストーラーを実行し、デフォルト設定のまま進める
インストール後、PowerShellで確認します。
git --version
# 出力例: git version 2.49.0.windows.1
Gitのインストール手順の詳細はこちらの記事も参考になります。
2. Pythonのインストール
PowerShellで python と入力して実行すると、Microsoft Storeのインストール画面に案内されます。
python
Microsoft Storeが開いたら、Python 3.12以降をインストールしてください。
インストール後、PowerShellを再起動して確認します。
python --version
# 出力例: Python 3.12.x
3. uvのインストール
uvは高速なPythonパッケージマネージャーです。後述のDatabricks AI Dev Kitのインストールが高速になります。
uvはオプションです。インストールしなくてもAI Dev Kitは標準のpipで動作します。
powershell -ExecutionPolicy ByPass -c "irm https://astral.sh/uv/install.ps1 | iex"
インストール確認:
uv --version
# 出力例: uv 0.x.x
4. Databricks CLIのインストールとログイン
インストール
WinGetを使ってインストールします。
winget install Databricks.DatabricksCLI
インストール後、PowerShellを再起動して確認します。
databricks --version
# 出力例: Databricks CLI v0.xxx.x
ワークスペースへのログイン
OAuth認証(U2M)でログインします。
databricks auth login --host https://<your-workspace-url>
実行するとブラウザが開き、Databricksのログイン画面が表示されます。認証を完了すると、CLIにプロファイルが保存されます。
動作確認:
databricks clusters list
クラスタ一覧が表示されれば成功です。
5. Claude Codeのインストール
インストール
PowerShellで以下を実行します。
irm https://claude.ai/install.ps1 | iex
PATHの設定
claude コマンドが見つからない場合、PATHにインストール先を追加する必要があります。
- Windowsの 設定 → システム → バージョン情報 → システムの詳細設定 を開く
- 環境変数 ボタンをクリック
- 「ユーザー環境変数」の Path を選択し、編集 をクリック
-
新規 をクリックし、
%USERPROFILE%\.local\binを追加 - OK で閉じる
PowerShellを再起動して確認します。
claude --version
WinGet (winget install Anthropic.ClaudeCode) でもインストール可能ですが、自動アップデートされません。定期的に winget upgrade Anthropic.ClaudeCode を実行する必要があります。
Databricks連携の設定(OS共通)
ここからの手順はWindows / Mac / Linux共通です。
6. Databricksホストモデルの設定
Claude CodeのバックエンドをDatabricks AI Gatewayに向けます。
6.1 設定ダイアログを開く
- Databricksワークスペースにログイン
- 左メニューから Serving ページを開く
- Coding Agents をクリック
- 「Integrate coding agents」ダイアログが開く
- Other Integrations タブを選択
- 「Select a Coding Integration」ドロップダウンから Claude Code を選択
6.2 Step 1: モデルの選択
ダイアログの Step 1. Select your models で使用するモデルを選択します。
| 設定項目 | 説明 | 必須 |
|---|---|---|
| Default Anthropic Model | Claude Codeがデフォルトで使用するモデル | 必須 |
| Default Opus Model | "opus"エイリアスで使用するモデル | オプション |
| Default Sonnet Model | "sonnet"エイリアスで使用するモデル | オプション |
| Default Haiku Model | "haiku"エイリアスで使用するモデル | オプション |
ドロップダウンからワークスペースで利用可能なモデルを選択してください。
利用可能なモデルはワークスペースによって異なります。例としてdatabricks-claude-opus-4-6、databricks-claude-sonnet-4-6、databricks-claude-haiku-4-5などがあります。
6.3 Step 2: settings.jsonの生成と保存
ダイアログの Step 2. Update settings.json in Claude Code to point to Databricks セクションで、Generate API Key ボタンをクリックします。
すると、~/.claude/settings.json に保存すべきJSON設定が自動生成されます。右上のコピーボタンでコピーできます。
# ディレクトリ作成(存在しない場合)
New-Item -ItemType Directory -Force -Path "$env:USERPROFILE\.claude"
生成されたJSONをそのまま ~/.claude/settings.json として保存してください。以下のような形式です。
{
"env": {
"ANTHROPIC_MODEL": "<Step 1で選択したモデル>",
"ANTHROPIC_BASE_URL": "https://<workspace-id>.ai-gateway.cloud.databricks.com/anthropic",
"ANTHROPIC_AUTH_TOKEN": "<生成されたAPIキー>",
"ANTHROPIC_CUSTOM_HEADERS": "x-databricks-use-coding-agent-mode: true",
"CLAUDE_CODE_DISABLE_EXPERIMENTAL_BETAS": "1"
}
}
| 環境変数 | 説明 |
|---|---|
ANTHROPIC_MODEL |
Step 1で選択したデフォルトモデル |
ANTHROPIC_BASE_URL |
AI GatewayのエンドポイントURL |
ANTHROPIC_AUTH_TOKEN |
自動生成されたAPIキー |
ANTHROPIC_CUSTOM_HEADERS |
Databricksコーディングエージェントモードの有効化 |
CLAUDE_CODE_DISABLE_EXPERIMENTAL_BETAS |
実験的機能の無効化 |
6.4 動作確認
claude
Anthropicへのログインを求められずに、直接Claude Codeのセッションが開始されれば設定成功です。
7. VS Codeのインストール(オプション)
Claude CodeはVS Code拡張機能としても利用できます。
- VS Code公式サイトからインストーラーをダウンロード
- インストール後、拡張機能マーケットプレイスで Claude Code を検索してインストール
手順6で設定した ~/.claude/settings.json はCLI・VS Code拡張機能の両方で共有されます。VS Code側で別途Databricksの接続設定を行う必要はありません。
8. Databricks AI Dev Kitのインストール(オプション)
Databricks AI Dev Kitをインストールすると、Claude CodeにDatabricks固有のスキルとMCPツールが追加されます。SQLの実行、テーブル操作、ジョブ管理などをClaude Codeから直接行えるようになります。
インストール
irm https://raw.githubusercontent.com/databricks-solutions/ai-dev-kit/main/install.ps1 | iex
対話形式でセットアップが進みます。プロンプトに従って設定を完了してください。
インストールオプション
# スクリプトをダウンロードしてから実行する場合
irm https://raw.githubusercontent.com/databricks-solutions/ai-dev-kit/main/install.ps1 -OutFile install.ps1
# グローバルインストール(全プロジェクトで利用可能)
.\install.ps1 -Global -Force
# 特定のDatabricks CLIプロファイルを指定
.\install.ps1 -Profile DEFAULT -Force
デフォルトではプロジェクトレベルにインストールされます。インストールしたディレクトリからClaude Codeを起動する必要があります。-Global オプションを使うと全プロジェクトで利用可能になります。
トラブルシューティング
Claude Codeのインストールに失敗する
- Gitがインストールされているか確認してください
- PowerShellを管理者として実行してみてください
Databricksホストモデルに接続できない
-
ANTHROPIC_BASE_URLのURLが正しいか確認(末尾のスラッシュに注意) - Personal Access Tokenが有効か確認(
databricks auth tokenで確認可能) - ワークスペースのServingページでモデルが有効になっているか確認
AI Dev Kitのインストールに失敗する
-
uvがインストールされているか確認 - Databricks CLIで認証済みか確認(
databricks auth token)
まとめ
本記事では、Claude Code + Databricksの開発環境を構築する手順を解説しました(インストール手順はWindows向け)。
この環境により、データエンジニアリングからGenAIアプリケーション開発まで、Databricks上のあらゆる作業を自然言語で指示できるようになります。AI Dev Kitが提供する50以上のMCPツールでDatabricksリソースを直接操作できます。
ぜひ実際にClaude Codeを起動して、「Unity Catalogのテーブル一覧を見せて」「サンプルデータでダッシュボードを作って」など、自然言語で話しかけてみてください。
参考リンク
- Claude Code公式ドキュメント
- Claude Code LLMゲートウェイ設定
- Databricks AI Gateway
- Databricks AI Dev Kit
- Databricks CLI インストール
付録: DatabricksホストモデルによるAIガバナンス
本記事の手順6で設定した通り、Claude CodeのバックエンドとしてDatabricks AI Gatewayを利用できます。これは単に「もう一つのAPIエンドポイント」ではなく、企業がAIコーディングツールの利用をガバナンスするための仕組みです。
AI Gatewayが提供するガバナンス機能
| 機能 | 説明 |
|---|---|
| 利用状況の一元管理 | 誰がどのモデルをどれだけ利用しているかをsystem.ai_gateway.usageシステムテーブルで確認可能 |
| レートリミット | ユーザー・グループ単位でトークン使用量の上限を設定可能 |
| 推論テーブル | リクエスト・レスポンスをUnity Catalogのデルタテーブルに自動記録 |
| ダッシュボード | 利用状況をリアルタイムで可視化するダッシュボードを標準提供 |
| アクセス制御 | DatabricksのPATで認証するため、個々の開発者にAnthropicアカウントを配布する必要がない |
Anthropic直接利用との比較
| 観点 | Anthropic直接 | Databricks AI Gateway経由 |
|---|---|---|
| 認証 | 開発者ごとにAnthropicアカウントまたはAPIキーが必要 | DatabricksのPATで一元管理 |
| 利用状況の把握 | APIの利用ログを別途管理する必要あり | システムテーブル・ダッシュボードで自動集約 |
| 利用制限 | Anthropic側のレートリミットのみ | 組織のポリシーに合わせてカスタマイズ可能 |
| 監査ログ | 自前で構築が必要 | 推論テーブルに自動記録 |
特に企業環境では、個々の開発者がそれぞれAPIキーを管理するのではなく、Databricksのワークスペース管理者が一括してアクセス制御できる点が大きな利点です。