概要
AWSのデータ移行・ハイブリッド接続サービスであるDataSync、Storage Gateway、File Gatewayの特徴と違いを比較し、用途別の最適な選択方法を実例とともに解説します。オンプレミスとクラウド間のデータ連携で迷っている方必見です。
目次
はじめに
企業のクラウド移行やハイブリッドクラウド構成において、オンプレミスとAWS間でのデータ連携は避けて通れない課題です。しかし、AWSには似たような名前のサービスが複数存在し、どれを選ぶべきか迷うことも多いでしょう。
特に、DataSync、Storage Gateway、File Gatewayは、いずれもオンプレミスとクラウド間のデータ移行・連携に関わるサービスです。これらのサービスは名前こそ似ていますが、設計思想や適用場面が大きく異なります。適切なサービスを選択することで、コストを抑えつつ効率的なデータ管理を実現できます。
本記事では、これら3つのサービスの違いを明確にし、どのような場面でどのサービスを選ぶべきかを実践的な観点から解説します。
各サービスの基本概要
AWS DataSync:一時的なデータ転送の専門家
AWS DataSync is an online data transfer service that simplifies data migration and helps you quickly, easily, and securely transfer your file or object data to, from, and between AWS storage services.
DataSyncは、まさに「データの引っ越し業者」のような存在です。一度に大量のデータを効率的に移行することに特化しており、継続的な同期ではなく、計画的なデータ転送を目的としています。
主な特徴:
- オンプレミスからAWS、AWS間でのデータ転送
- 転送スケジュールの設定による自動化
- データの整合性チェック機能
- 転送時の暗号化とデータ圧縮
- 転送状況の詳細なログとモニタリング
AWS Storage Gateway:ハイブリッドストレージの橋渡し役
AWS Storage Gateway gives your applications on-premises and in-cloud access to virtually unlimited cloud storage.
Storage Gatewayは、オンプレミス環境とクラウドストレージを透過的に接続する「橋」の役割を果たします。アプリケーションから見ると、従来のオンプレミスストレージと同じように使えながら、実際のデータはクラウドに保存されます。
Storage Gatewayの3つの構成:
- File Gateway(S3 File Gateway): NFS/SMBプロトコルでS3へのファイルアクセス
- Volume Gateway: iSCSIプロトコルでブロックストレージアクセス
- Tape Gateway: 仮想テープライブラリ(VTL)でバックアップソフトとの連携
File Gateway:ファイル共有のクラウド拡張
Amazon S3 File Gateway enables your existing file-based applications, devices, and workflows to use Amazon S3, without modification.
File GatewayはStorage Gatewayの一機能として提供されており、既存のファイルサーバーをクラウドに拡張する役割を担います。オンプレミスのアプリケーションが変更なしでS3を利用できるようになります。
主な特徴:
- NFS v3/v4.1、SMB v2/v3プロトコル対応
- S3への1対1オブジェクトマッピング
- ローカルキャッシュによる高速アクセス
- POSIX権限とタイムスタンプの保持
詳細比較表
項目 | DataSync | Storage Gateway | File Gateway |
---|---|---|---|
主な用途 | データ移行・一時転送 | ハイブリッドストレージ | ファイル共有の拡張 |
データフロー | 一方向(スケジュール実行) | 双方向(リアルタイム) | 双方向(リアルタイム) |
プロトコル | 専用エージェント | iSCSI, NFS, SMB, VTL | NFS, SMB |
デプロイ方法 | エージェントソフトウェア | VM, ハードウェア, EC2 | VM, ハードウェア, EC2 |
対象ストレージ | S3, EFS, FSx | S3, Glacier, EBS | S3のみ |
ローカルキャッシュ | なし | あり | あり |
料金体系 | 転送データ量課金 | ゲートウェイ使用料+ストレージ料金 | ゲートウェイ使用料+S3料金 |
継続的同期 | スケジュール実行のみ | 自動同期 | 自動同期 |
帯域制御 | 可能 | 可能 | 可能 |
具体的なユースケース別の選択指針
大量データの初期移行:DataSyncが最適
シナリオ: オンプレミスのファイルサーバーに蓄積された数TBのデータをS3に移行したい
DataSyncは、このような「一度きりの大規模データ移行」に最も適しています。Reduce on-premises storage costs by moving data directly to Amazon S3 Glacier archive storage classes.のように、アーカイブ用途のデータもダイレクトに低コストストレージクラスへ移行可能です。
選択理由:
- 転送効率が高く、大容量データの移行時間を短縮
- データ整合性チェックで確実な移行を保証
- S3の各ストレージクラスに直接転送可能
- 転送完了後はエージェントを削除可能
継続的なバックアップ:Storage Gatewayを選択
シナリオ: 既存のバックアップソフトウェアを使い続けながら、バックアップ先をクラウドに変更したい
この場合、Tape Gateway構成のStorage Gatewayが適しています。既存のバックアップワークフローを変更することなく、仮想テープライブラリとしてクラウドストレージを活用できます。
選択理由:
- 既存バックアップソフトとの互換性
- テープの物理的な管理が不要
- 自動的なアーカイブ機能(Glacier、Deep Archive)
- 災害対策の観点からも有効
ファイルサーバーのクラウド拡張:File Gatewayで解決
シナリオ: オンプレミスのファイルサーバー容量が逼迫し、クラウドストレージで容量を拡張したい
Local caching provides low latency access to recently used dataという特徴を活かし、File Gatewayなら頻繁にアクセスするファイルはローカルキャッシュで高速アクセスを維持しながら、容量をクラウドで無制限に拡張できます。
選択理由:
- アプリケーションの変更が不要
- 既存のNFS/SMBクライアントがそのまま利用可能
- S3の冗長性とスケーラビリティを享受
- アクセス頻度に応じた自動的なデータ配置
ディザスタリカバリ:組み合わせ利用が効果的
シナリオ: 本社のデータを遠隔地のAWSリージョンにレプリケーションしたい
初回の大容量データ移行はDataSyncで実行し、その後の継続的な同期はStorage GatewayのVolume Gateway構成で実現する組み合わせが効果的です。
実装時の注意点とベストプラクティス
ネットワーク要件の事前確認
A minimum of 100 Mbps is required to successfully download, activate, and update the gateway.すべてのサービスで安定したネットワーク接続が必要ですが、特にStorage GatewayとFile Gatewayでは継続的な接続が求められます。
推奨事項:
- 専用線やVPN接続での安定した接続確保
- 帯域制御機能を活用した業務影響の最小化
- ネットワーク監視とアラート設定の実装
コスト最適化の考慮点
各サービスで料金体系が異なるため、使用パターンに応じた最適化が重要です。
DataSync: 転送データ量に応じた従量課金
- 大容量の一度きり転送では高いコストパフォーマンス
- 頻繁な小容量転送では割高になる可能性
Storage Gateway/File Gateway: ゲートウェイの稼働時間とストレージ使用量
- 継続利用では月額料金が発生
- S3のライフサイクルポリシーとの組み合わせで長期コスト削減
セキュリティ設定のベストプラクティス
- 転送時および保管時の暗号化設定
- IAMロールによる適切な権限管理
- AWS DataSync assumes an IAM role that you provideのように、各サービスで必要最小限の権限設定
- CloudTrailによるAPI操作ログの記録
運用監視の重要性
- CloudWatchメトリクスによる転送状況の監視
- SNSと連携したアラート設定
- 定期的なデータ整合性チェックの実行
終わりに
DataSync、Storage Gateway、File Gatewayは、それぞれ異なる設計思想で作られたサービスです。DataSyncは「効率的なデータ移行」、Storage Gatewayは「透過的なハイブリッドストレージ」、File Gatewayは「既存システムとの親和性」に重点を置いています。
適切なサービス選択のポイントは、データの利用パターンと継続性にあります。一度きりの移行ならDataSync、継続的なハイブリッド運用ならStorage Gateway、既存ファイルサーバーの拡張ならFile Gatewayという基本方針を軸に、具体的な要件と照らし合わせて判断することが重要です。
また、これらのサービスは排他的なものではありません。大規模な初期移行でDataSyncを使用し、その後の運用でStorage Gatewayに移行するなど、フェーズに応じて組み合わせることで、より効果的なクラウド活用が可能になります。
次のステップとして、実際の環境での検証を行い、転送性能やコストの詳細な測定を実施することをお勧めします。AWSの無料利用枠を活用して、小規模な検証から始めてみてください。
参考文献・参考サイト
AWS公式ドキュメント:
- 「What is AWS DataSync?」AWS Documentation, https://docs.aws.amazon.com/datasync/latest/userguide/what-is-datasync.html
- 「What is Amazon S3 File Gateway」AWS Documentation, https://docs.aws.amazon.com/filegateway/latest/files3/what-is-file-s3.html
- 「AWS DataSync FAQs」AWS Documentation, https://aws.amazon.com/datasync/faqs/
- 「AWS Storage Gateway FAQs」AWS Documentation, https://aws.amazon.com/storagegateway/faqs/
技術記事・参考資料:
- 「How FORMULA 1 uses AWS DataSync and AWS Storage Gateway for backup and archiving」AWS Blog, 2022年2月, https://aws.amazon.com/blogs/storage/how-formula-1-uses-aws-datasync-and-aws-storage-gateway-for-backup-and-archiving/
- 「Data migration - AWS Prescriptive Guidance」AWS Documentation, https://docs.aws.amazon.com/prescriptive-guidance/latest/configuring-storage-offload-vmware-cloud-aws/data-migration.html