シリーズ: 「Databricks × Salesforce × watsonx、全部無料で繋いで確かめてみた」
- Part 1(この記事): 似た機能が多いので整理する ← いまここ
- Part 2: 全部無料でファンAI基盤を作ってみた(予定)
- Part 3: Zero Copy / BYOM / MCP で本番アーキテクチャを組む(予定)
はじめに
最近 watsonx、Salesforce、Databricks を触っている。3つとも触っていると気づくのが、似たような機能がけっこう多いということ。データ基盤もAI/ML機能もAgent構築機能も、それぞれ持っている。
「これ、どこがどう違って、どう使い分けるんだ?」
整理しておかないと、チーム間で話が噛み合わなくなりそうだったので、機能マップを作って比較してみた。すると「似ているけど、深さがまったく違う」ということが見えてきた。しかも3社は公式にパートナーシップを組んでいて、組み合わせて使うことが想定されている。
この記事ではその整理結果を共有する。
マーケティングチームが Databricks でデータ分析をしていて、営業・カスタマーサポートのチームは Salesforce を使っている。最近はそれぞれの基盤でAIエージェントを作り始めていて、さらに業務横断の自動化として watsonx Orchestrate も検討に入ってきた。なんてケースを想定して、Part 2 では、実際に3つを無料環境で繋いで動かしてみる予定だ。
機能マップ: 5レイヤーで並べてみる
3製品を Data Layer / ML Layer / AI Layer / Agent Layer / Governance の5レイヤーで比較する。
Data Layer
| 機能 | Databricks | Salesforce | watsonx.data |
|---|---|---|---|
| データ基盤 | Delta Lake + Unity Catalog | Data 360(旧 Data Cloud) | Presto / Spark |
| データ取り込み | Lakeflow Connect, Auto Loader | Data 360 connectors | watsonx.data pipelines |
三者ともデータレイクハウスを持っている。注目すべきは、三者とも Apache Iceberg に対応していること。Databricks は自社開発の Delta Lake を標準フォーマットとしつつ Iceberg との相互運用にも対応しており、Iceberg が異なる基盤間でのゼロコピーデータ共有の共通基盤になりつつある。
ML Layer(予測・分類モデル)
| 機能 | Databricks | Salesforce | watsonx.ai |
|---|---|---|---|
| ML モデル開発 | AutoML, 自由なコード(scikit-learn, XGBoost, PyTorch等) | Einstein Prediction Builder / Model Builder(ノーコード) | AutoAI, Notebook, SPSS Modeler |
| 実験管理 | MLflow 3 | — | — |
| Model Serving | Model Serving(REST API) | Einstein Prediction API | デプロイ |
「このリードは受注するか?」「このファンは次にどのイベントに来そうか?」といった予測・分類タスクのためのML。三者とも開発からAPI公開まで一通りできるが、自由度に大きな差がある。
Databricks は Python で好きなライブラリを使って何でも書ける。MLflow による実験管理も含めて、データサイエンティスト向けのフル機能。Salesforce はクリック操作でCRMデータから予測モデルを作れる管理者・業務ユーザー向けの設計。watsonx.ai は AutoAI(ノーコード)、Notebook(自由なコード)、SPSS Modeler(GUIベースのビジュアルモデリング)と幅広い選択肢を持っている。
AI Layer(基盤モデル / 生成AI)
| 機能 | Databricks | Salesforce | watsonx.ai |
|---|---|---|---|
| 基盤モデル利用 | AI Gateway(Llama, Claude, GPT等) | Atlas Reasoning Engine + LLM選択(GPT-4o, Claude, Gemini等, BYO LLM) | Model Gateway(Granite, Llama, Mistral等) |
| Fine-tuning | Mosaic AI Model Training | — | Tuning Studio, InstructLab |
| プロンプト管理 | Prompt Registry(MLflow) | Prompt Builder | Prompt Lab |
| Vector Search / RAG | Mosaic AI Vector Search | Data 360 Vector Database | Milvus + AutoAI RAG |
テキスト生成・推論・要約などを担う基盤モデル(LLM)周り。こちらも三者とも対応しているが、差が出るのは Fine-tuning の有無だ。Databricks は Mosaic AI Model Training で本格的なモデルカスタマイズができる。watsonx.ai も Tuning Studio や InstructLab を持っている。一方、Salesforce は Fine-tuning 機能を持たず、外部で調整済みのモデルを持ち込む(BYO LLM)アプローチを取る。
なお、Databricks は ML と GenAI を 同じ Model Serving インフラで統一的に扱える のが特徴で、scikit-learn のカスタムモデルも Llama のような基盤モデルも同じエンドポイントからサービングできる。
Agent Layer
| 機能 | Databricks | Salesforce | watsonx Orchestrate |
|---|---|---|---|
| Agent 構築 | Agent Bricks(Supervisor Agent, Knowledge Assistant) | Agentforce Builder, Agent Script | No-code / Pro-code |
| 特徴 | 合成データ + ベンチマーク自動生成で最適化 | CRMネイティブ、Hybrid Reasoning(LLM + 決定論的ロジック) | 700+システム連携、150+プリビルトAgent |
| マルチAgent | Supervisor Agent | Atlas Reasoning Engine + Topic routing | Multi-Agent Orchestration |
| オープン標準 | MCP server 対応(UC functions, Genie, Vector Search) | MCP + A2A 対応(AgentExchange) | MCP + A2A 対応(ADK) |
Agent Layerも全員参戦。それぞれの特徴を簡単に補足する。
Databricks Agent Bricks は、タスクの説明とデータを渡すだけで Agent を自動構築できる仕組み。合成データとタスク固有のベンチマークを自動生成し、品質を定量評価しながら最適化してくれる。Knowledge Assistant(ドキュメントQA)と Supervisor Agent(複数Agentの協調)の2つのユースケースが用意されている。
Salesforce Agentforce は CRM データにネイティブ接続された Agent 基盤。Agentforce Builder でノーコード構築でき、Agent Script で「この場面では必ずこの手順を踏む」という決定論的ロジックを埋め込める(Hybrid Reasoning)。Atlas Reasoning Engine がリクエストの分解・計画・実行を担い、Topic routing で適切な Agent に振り分ける。AgentExchange というマーケットプレイスでパートナー製の Agent やツールも利用できる。
watsonx Orchestrate は複数の業務システムを横断する Agent 基盤。700以上のシステムとの連携コネクタと150以上のプリビルト Agent を持ち、HR・営業・調達といった業務特化のAgentがすぐに使える。Agent Development Kit(ADK)でローカル開発も可能。No-code の Agent Builder と Pro-code の両方に対応している。
オープン標準として MCP(Model Context Protocol) には三者とも対応しており、Salesforce と watsonx Orchestrate はさらに A2A(Agent-to-Agent Protocol) にも対応している。Databricks は現時点では MCP に注力しているが、プラットフォーム上で A2A サーバーを構築すること自体は可能だ。「どの基盤で作った Agent でも、標準プロトコルで繋がる」世界が現実になりつつある。
Governance
| 機能 | Databricks | Salesforce | watsonx.governance |
|---|---|---|---|
| ガバナンス基盤 | Unity Catalog(リネージ, ABAC, PII自動分類)+ AI Gateway(ガードレール) | Trust Layer(データマスキング, 監査証跡, ゼロデータ保持) | モデルインベントリ, ドリフト・バイアス検知, 説明可能性 |
ガバナンスも全員持っている。
ここまでの結論: Data / ML / AI / Agent / Governance、5レイヤーすべてでカバレッジが高い。似た機能がたしかに多い。
でも「深さ」が違う
機能の有無だけ見ると「全部同じに見える」が、実際に触ってみるとどこに力を入れているかが結構違う(それぞれの製品が生まれた文脈を考えれば当然か)
Databricks —「データの頭脳」
Databricksの本丸は大規模データの処理・分析・モデル構築だ。
Spark / Photon エンジンによる処理性能、MLflowによる実験管理、Unity Catalog によるデータからモデルまでの一気通貫ガバナンス。「データがあるところでAIを作る」という思想。
MLとGenAIを同じプラットフォームで統合的に扱えるのも特徴の一つかも。scikit-learn で作った予測モデルも、Llama のような基盤モデルも、同じ Model Serving エンドポイントからサービングできる。「予測AIと生成AIを別基盤で管理する」という面倒がない。
Agent Bricks は2025年6月に発表されたまだ比較的新しい機能だが、ユニークなのは合成データとタスク固有のベンチマークを自動生成して、エージェントの品質を定量評価できる点。「評価なきAgentは本番に出せない」という課題に対する回答としてわかりやすい。
また、2026年に入ってからは Managed MCP Server が Public Preview になり、Unity Catalog の関数や Genie スペース、Vector Search インデックスを MCP 経由で Agent に接続できるようになっている。
一言でまとめると: データレイクの上でモデルを作り、評価し、APIとして出す。ここが強みなのかな。
Salesforce(Agentforce)—「顧客の窓口」
Salesforceの強みはCRMデータとの一体化だと思う。
Agentforce は Salesforce のデータ(取引先、商談、ケースなど)にネイティブ接続されていて、Data 360(旧Data Cloud)を通じてゼロコピーでデータにアクセスする。「顧客に一番近いところでAgentが動く」という設計思想だ。
Atlas Reasoning Engine は単純なLLM推論だけでなく、Hybrid Reasoning(LLMの柔軟な推論 + Agent Script による決定論的ロジック) を組み合わせる。これにより「この場面では必ずこの手順を踏む」という業務ルールをAgentに埋め込める。金融や医療など規制の厳しい業界で重要になる機能。
AgentExchange というマーケットプレイスも成長しており、パートナーが作ったAgentやMCPサーバーを見つけてすぐ使える仕組みが整いつつある。
一言でまとめると: 顧客データの上で、顧客接点のAgentを動かす。
watsonx Orchestrate —「業務の手足」
watsonx Orchestrate の強みはマルチシステム横断の業務自動化。
700以上のシステムとの連携コネクタ、150以上のプリビルトAgent。SAP、Workday、ServiceNow、Salesforce などの業務システムを横断して、「この申請を出して、あの承認をもらって、結果をまとめて」という一連の業務フローをAgentに任せられる。
Agent Development Kit(ADK)というCLIツールも提供されており、ローカル開発環境でAgentを構築・テスト・デプロイできる。MCP ツールキットのインポートや A2A プロトコル(v0.3対応)による外部Agent連携もサポートされている。
IBMならではの特徴として、ハイブリッドクラウド(オンプレミス対応) と IBM Granite モデルがある。データを社外に出せない要件がある企業にとっては、これが決め手になるケースもある。
一言でまとめると: 複数システムをまたぐ業務プロセスの自動化。ここが強い。
3行でまとめると
| 製品 | 得意領域 | 役割 |
|---|---|---|
| Databricks | データ処理・モデル構築・評価 | データの頭脳 |
| Salesforce Agentforce | 顧客データ・顧客接点Agent | 顧客の窓口 |
| watsonx Orchestrate | マルチシステム横断の業務自動化 | 業務の手足 |
かぶっているように見えて、深掘りしている領域がまったく違う。
実は公式にパートナーシップを組んでいる
似た機能が多いなら競合なのかと思いきや、実はこの3社は公式にパートナーシップを組んでいる。
Salesforce × Databricks
この2社の連携は特に深い。
- Zero Copy 双方向連携: Salesforce の Data 360 と Databricks の Unity Catalog を、データコピーなしで相互参照できる。Iceberg フォーマット経由で、ストレージ層から直接アクセスする仕組みだ
- BYOM(Bring Your Own Model): Databricks で構築したMLモデルを Salesforce の Einstein Model Builder に登録し、Agentforce から直接推論を呼び出せる
- Lakeflow Connect for Salesforce: Salesforce の CRM データを Databricks にノーコードで取り込める(GA済み)
つまり「データとモデルは Databricks で作り、顧客接点は Salesforce で動かす」という分業が、公式にサポートされている。
Salesforce × IBM
こちらも公式パートナーシップが発表されている。
- watsonx Orchestrate → Agentforce 統合: Orchestrate で作った Agent を Agentforce に展開できる
- Granite on Agentforce: IBM の Granite モデルを Agentforce 上で利用可能
- Data Gate for watsonx: IBM Z メインフレームや Db2 のデータを Agentforce で活用できる
「業務システム側の自動化は Orchestrate、顧客接点は Agentforce」という棲み分けが、ここでも成立する。
IBM × Databricks は?
この2社の間には、大型のパートナーシップ発表はない。watsonx.data と Databricks Lakehouse はデータレイクハウス市場で直接競合する関係にあるからかな?
三者共通のトレンド
パートナーシップの裏側には、2つの大きな技術トレンドがある。
1. MCP / A2A のオープン標準への収斂
2. MCP / A2A — Agent をつなぐ通信プロトコル
MCP(Model Context Protocol)はAIエージェントが外部ツールやデータソースに接続するためのオープンプロトコル。A2A(Agent-to-Agent Protocol)は異なるプラットフォーム上のAgent同士が直接通信するための標準プロトコル。三者ともこの両方に対応しており、「どの基盤で作ったAgentでも、標準プロトコルで繋がる」世界が現実になりつつある。
3. Apache Iceberg — データをつなぐ共通テーブルフォーマット
MCP / A2A が Agent 間の「通信の共通語」なら、Iceberg は「データの共通語」。三者とも Iceberg に対応していることで、異なるプラットフォーム間のゼロコピーデータ連携が技術的に可能になっている。
じゃあ、組み合わせたら何ができる?
ここまで整理してみて、「3つを組み合わせると面白いのでは?」という仮説が出てきた。
たとえば、冒頭で書いたようなケースを考えてみる:
マーケティング部門 営業・CS部門
│ │
▼ ▼
Databricks(データの頭脳) Salesforce Agentforce(顧客の窓口)
├─ 顧客データの分析・加工 ├─ 商談管理・顧客対応
├─ 予測モデルの構築 ├─ 営業支援Agent
└─ Model Serving API └─ 「この顧客の受注確率は?」
│ │
└──────────┬─────────────────────┘
▼
watsonx Orchestrate(業務の手足)
└─ 部門横断の業務Agent
「今週フォローすべき顧客を
DatabricksとSFから横断で抽出して」
- Databricks がデータとAIモデルの「頭脳」を担う(マーケティング部門が主に利用)
- Agentforce が顧客と対話する「窓口」を担う(営業・CS部門が主に利用)
- Orchestrate が部門をまたいだ業務プロセスを自動化する「手足」を担う
各部門がそれぞれの基盤でAgentを作りつつ、Orchestrateが横串を通す。3つのAgent基盤が同じデータを共有しながら、それぞれの得意領域で役割を分担する構図。
しかも全部無料で試せる
どの製品も、無料で使える環境がある。
| 製品 | エディション | 期限 | 主な制約 |
|---|---|---|---|
| Databricks | Free Edition | 無期限(日次クォータあり) | サーバーレス限定、非商用 |
| Salesforce | Developer Edition(Agentforce + Data 360) | 無期限(45日ごとにログイン要) | 開発・テスト専用 |
| watsonx Orchestrate | Trial | 30日(延長申請可) | Standard 全機能利用可 |
注意点:
- Databricks: かつての Community Edition は廃止(予定)。2025年6月以降は Free Edition を使うこと。Notebook、MLflow 3、Model Serving、Unity Catalog、Agent 機能まで使える。日次クォータがあるが、99%のユーザーは到達しない水準とのこと
- Salesforce: 2025年3月に発表された新しい Developer Edition を使うこと。旧 Developer Edition には Data 360 / Agentforce が含まれないので注意
- watsonx Orchestrate: 30日制限があるので計画的に。延長申請も可能(Extension Request Form あり)
まとめ
- Databricks、Salesforce Agentforce、watsonx Orchestrate は似た機能が多いが、得意領域が結構違う
- 3社は公式にパートナーシップを組んでいる。MCP / A2A / Iceberg というオープン標準で繋がる世界に向かっている
- しかも全部無料で試せる環境が揃っている
次回予告: Part 2
各製品の共通点や特徴はわかった。となれば、実際に繋いでみたい!
Part 2 では、架空のプロ野球球団 「大正ブルーベルズ」 を題材に、ファンエンゲージメント向けのAI基盤を構築してみる。
- Databricks でファンの来場・購買データからリコメンドモデルを構築
- Agentforce でファン向けAgent(「おすすめのイベントは?」に答える)を構築
- Orchestrate でスタッフ向け業務Agent(「ターゲットリスト作って」に答える)を構築