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430Bトークンが示した勝負——Hermes Agentが問う「育つAI」と任せ方の設計

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AIエージェントの競争は、いま「どのモデルが一番賢いか」だけでは決まりにくくなっています。会話のたびにリセットされるチャットボットの延長ではなく、作業環境に常駐し、経験を残し、次の仕事に活かす設計が、利用の中心に入りつつあるからです。

その流れをはっきり示しているのが、Nous Researchが開発するオープンソースAIエージェント Hermes Agent です。OpenRouterのApp & Agent Rankings(2026年5月22日時点)では、当日の利用量として Hermes Agent が 430B tokens、OpenClaw が 165B tokens と表示されており、少なくとも OpenRouter 上のトラフィックでは Hermes Agent が大きく先行しています。もちろんこれは OpenRouter 経由の利用に限られた指標であり、全世界のエージェント利用をそのまま代表する数字ではありません。同じページの累計利用量では、Hermes Agent が約 8.29T tokens、OpenClaw が約 7.02T tokens と表示されており(いずれも2026年5月22日時点)、当日の数字だけの話ではない動きも示唆されます。それでも重要なのは順位そのものより、「賢さのベンチマーク」より 実際にどれだけ動かされているか が見える場所で、経験を蓄積する型のエージェントに需要が寄っている、という読み方です。

本記事では、Hermes Agent が何を目指しているのか、OpenClaw との違いはどこにあるのか、そして IT 技術者や教育・業務現場が押さえるべき設計の論点を、公開情報に沿って整理します。エージェントの権限や止めどころの考え方は、AIエージェントを使うとき、どこまで任せてどこで止める?——Anthropicの実測研究が教えてくれたことAI活用の次の地図——指示する仕事から委任する仕事へ、IT技術者のための3ステップ実装読本 でも扱っています。あわせて読んでいただくと、今回の話の位置づけがつかみやすいと思います。


利用量の先にあるもの——「答える」から「積み上げる」へ


数字だけを追う必要はありません。ただ、OpenRouter の説明文が Hermes Agent を「self-improving(自己改善型)」「memory across sessions(セッションをまたいだ記憶)」「reusable skills from experience(経験から再利用可能なスキル)」と紹介している点は、競争軸の変化を表しています(Hermes Agent(OpenRouter))。

従来の AI アシスタントは、会話が終われば基本的にリセットされる存在でした。会話履歴やメモリ機能はあっても、多くの場合は「前に話したことを覚えている」程度にとどまります。Hermes Agent が目指しているのは、その一歩先です。失敗した作業、直した手順、ユーザーの好み、繰り返し発生する仕事の流れを蓄積し、次の仕事に活かす。つまり、AI が 道具 から 経験を積む作業者 に近づいている、という見方ができます。

Nous Research の GitHub では、Hermes Agent を「self-improving AI agent」と説明し、経験からスキルを作成し、使用中に改善し、過去の会話を検索し、ユーザー理解を深める仕組みを持つとされています(公式ドキュメント)。ここでいう「自己改善」は、モデルそのものが夜中に学習し続ける、という意味ではなく、使うほど手順とスキルが厚くなる、という運用面の改善に近いです。


OpenClawとの違い——接続の広さと、技能の深さ


OpenClaw も強力なオープンソース AI エージェントです。メッセージアプリとつながり、Web 閲覧、ファイル操作、メール送信、コマンド実行など、実際の行動を代行できる点で注目を集めました。OpenRouter 上でも、OpenClaw は「メッセージアプリと接続し、実行系タスクをこなすエージェント」と説明されています(OpenClaw(OpenRouter))。DeNA が OpenClaw を基盤に社内エージェントを育てた事例や、ローカル優先・Gateway 中心の設計については、プロンプトより「環境」——DeNAのAI社員が教えてくれた、技術者の次の主戦場 で整理しています。

一方、Hermes Agent の特徴は、作業のたびに少しずつ 自分のやり方 を獲得していく点にあります。たとえば、あるユーザーが毎週同じ形式でレポートを作るとします。従来型の AI なら、その都度プロンプトで指示する必要があります。Hermes Agent のような設計では、成功した手順をスキルとして保存し、「この人のレポートはこの構成、この文体、この確認手順で作る」といった形で再利用できる可能性があります。

教育現場に置き換えると、イメージがつかみやすくなります。単発で質問に答える AI は「その場で説明してくれる先生」に近い。一方、Hermes Agent 型の AI は「前回の授業で生徒がどこにつまずいたかを覚え、次の授業準備に活かす補助者」に近づいています。接続先の多さだけでなく、同じ仕事を繰り返すほど手戻りが減る 方向に価値が移っている、という読み方ができます。

なお、OpenClaw から Hermes へ設定・メモリ・スキルを移す hermes claw migrate も用意されており(README)、両者は単純な「どちらか一方」の対立というより、設計思想の違いを選ぶ 局面に入りつつあると言えます。


スキルが増えすぎたらどうするか——Curatorと「記憶の整理」


経験を残す設計には、当然ながら副作用もついてきます。AI が自動でスキルを作ると、今度は 似たようなスキルが増えすぎる 問題が起きます。ノートを取りすぎるだけでは学習にならないのと同じで、何でも記憶するとノイズが増え、判断が悪くなることがあります。

Hermes Agent には Curator という仕組みがあります。エージェントが作成したスキルの利用状況を確認し、長く使われていないものを stalearchived に移し、必要に応じて LLM で統合・修正を提案します。デフォルトでは 30日未使用で stale、90日未使用で archive される設計です(Curator | Hermes Agent)。重要なのは、自動削除はしない こと。アーカイブは ~/.hermes/skills/.archive/ に移され、hermes curator restore で復元できる、とドキュメントに書かれています。

ここが、単なる「記憶する AI」と「記憶を管理する AI」の分岐点です。人間の業務でも、ログを溜めるだけでは運用は改善しません。整理し、統合し、不要なものを脇に置く——その設計がエージェント側に入り始めている、という意味で Curator は見逃せない要素です。


CLIの向こう——IDEとメッセージの「いつもの場」に常駐する


Hermes Agent は CLI だけでなく、Telegram、Discord、Slack、WhatsApp、Signal などのメッセージ環境から使えると説明されています(Messaging Gateway)。さらに ACP(Agent Communication Protocol) によって、VS Code、Zed、JetBrains 系エディタとの連携も想定されています(ACP Editor Integration)。hermes acp でエディタから Hermes を呼び出し、ファイル操作やターミナル、承認プロンプトをエディタ内に表示する、という流れです。

これは、AI エージェントが「専用画面で開くツール」ではなく、日常の仕事場に入り込む ことを意味します。開発者ならエディタの中で、教師なら Slack やチャットの中で、事務職なら定型業務の流れの中で使う。AI が別室にいるのではなく、普段の作業環境に常駐する——この変化は、利用量の数字以上に、働き方の変化として効いてきます。


便利さと危うさは表裏——任せる範囲を設計する


Hermes Agent や OpenClaw のようなエージェントは、単に文章を生成するだけではありません。ツールを呼び出し、ファイルを操作し、Web を調べ、場合によっては外部サービスに接続します。そのため、今後の焦点は「どれだけ賢いか」だけではなく、次のような点になります。

どの権限を与えるのか

エージェントに接続できる範囲が広いほど、便利さとリスクは同時に増えます。OpenClaw ではローカル優先や Gateway の loopback 運用が推奨され、不適切な設定によるリスクが議論されてきました(プロンプトより「環境」——DeNAのAI社員が教えてくれた、技術者の次の主戦場)。Hermes でも Security でコマンド承認や DM ペアリングなどが説明されています。

どの作業は人間の承認を要するのか

Anthropic の実測研究が示すように、エージェントの自律性はモデルの性能だけでなく、人がどこまで任せ、どこで止めるか で決まります(AIエージェントを使うとき、どこまで任せてどこで止める?)。メール送信やファイル書き込みの前に停止点を置く設計は、エージェント時代の基本線です。

記憶とスキルをどう管理するのか

成績情報、個人情報、校務文書、社内データに自由にアクセスさせるのは危険です。記憶が残るほど、データの所在と保持期間 を設計しないと、コンプライアンス上の負債になります。外部データ経由の命令混入については、外部データに隠れた命令——間接プロンプトインジェクションを「AIの弱点」ではなく「設計の穴」として見る【前編】 でも、エージェントの権限と外部データの扱いを扱っています。

誤った手順を「成功体験」として保存していないか

自動生成されたスキルが、一度うまくいったように見えても、実は誤った手順だった——そうした 誤学習 のリスクは、記憶型エージェントほど深刻です。Curator や人間によるレビュー、ピン留め(hermes curator pin)など、スキルの品質を後から直す仕組み がセットで必要になります。

AI エージェント時代に問われるのは、「AI を使えるか」より 「AI にどこまで任せるか」 です。便利だからといって、境界を決めずに接続する設計は、長期的にはコストのほうが大きくなりがちです(生成AIは「便利な道具」では終わらない——IT技術者がこれから何を作り、何を止め、どう振る舞うか も同じ論点です)。


これからのAIは「答える」より「育つ」——三つの視点で捉える


Hermes Agent の躍進は、エージェント競争のニュースであると同時に、私たちへの問いかけでもあります。ここでは、現場で使える三つの視点に整理します。

第一に——主戦場はモデル単体から「継続する仕事」へ移っている

これまでは、より賢く答えるモデルが注目されてきました。これからは、ユーザーの作業環境に入り、記憶を持ち、スキルを増やし、継続的に仕事を改善するエージェントが重要になります。OpenRouter の当日ランキングは、その需要の一端を示している、と読めます。

第二に——「育つ」設計には、整理と統制がセットになる

記憶する AI、行動する AI、自動でスキルを作る AI は便利であると同時に、誤作動や権限濫用、情報漏洩のリスクも大きくなります。Curator のような メンテナンスの仕組み があるかどうかは、導入判断のチェック項目になります。

第三に——人間側の「任せ方の設計力」が差をつける

これから問われるのは、AI そのものの性能だけではありません。任せる仕事、任せない仕事、途中で確認する仕事を分ける設計力があるかどうかです。単発のプロンプトで終わらせるのか、経験を積み上げる AI とどう付き合うかを、チームや組織として本気で設計するのか——その選択が、今後数年の生産性と安全性の両方を左右します。

Hermes Agent と OpenClaw の競争は、どちらが「正解」かを決める話ではないかもしれません。接続の広さを取るのか、経験の深さを取るのか。あるいは移行ツールで両方を試すのか。いずれにしても、IT 技術者にとっての実務は、エージェントを選ぶこと より 任せ方を設計すること に重心が移りつつある、ということだけは、数字とドキュメントの両方が示しています。


作成日:2026年5月22日

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