はじめに
タイトルのようなことを漠然と考えてみたので、言語化を試みます。
タイルと紙地図
Web 地図は紙の地図と異なる体験をもたらしてくれます。1枚1枚の図葉に分かれている紙地図とは異なり、地図タイルを用いた Web 地図では、自由にスクロールできるシームレスな地図を体験できます。しかしながら、地図タイルと紙地図は全く異なるものではないと思います。
「タイル」という概念は、空間の区切り方で、地域メッシュや地形図図郭等に相当する概念となるでしょう。すると、生成された1枚1枚のタイルの実体は、1枚の地図(例えば『2万5千分1地形図「東京首部」』といったもの)に相当します。
紙地図は縮尺と図郭によって各図葉に分割されています。地図タイルもズームレベルとタイル図郭によって各々のタイルに分割されています。1枚のタイルも分割された1つの図葉と考えることができます。
タイルと印刷術
紙の地図は、限られた紙面上にどのように地図情報を書き込むのか、という点が重要となります。印刷技術により、出せる精度や色の制約があります。すべての情報を1つの紙面に描き込むわけにはいかないので、精度・情報密度と表示範囲のトレードオフに応じて、例えば、「500万分1日本とその周辺」や「20万分の1地勢図」、「2万5千分1地形図」というように目的に応じた様々な種類の地図が出ているわけです。
タイルが活躍する Web 地図においては、様々な情報を重ね合わせたり、隣接する地域や縮尺のデータをシームレスに表示することができます。利用者が地図の内容を変更することもできます。紙の地図に比べて、物理的な制約が大きく緩和され、見やすく、高度な使い方ができるようになっています。
ただし、これは「Web 地図としての話」です。Web 地図は、シームレスな地図を実現するために、利用者の求めに応じて、1枚1枚の地図(すなわちタイル)を必要なだけ順次呼び出し、場合によっては加工して、最後に貼り合わせるように画面に表示します。要求が変われば、同様に順次画面の更新も行います。
しかし、呼び出される1枚1枚のタイルはというと、これは単にタイル図郭によって区切られた1枚の地図なのです。タイルという図郭の考え方やタイルのデータの持ち方というのは、Web 地図用に工夫されていますが、それ以外は他の地図と変わりません。
よく使われているラスタタイルは 256 px や 512 px 四方の画像データですし、ベクトルタイルの代表格である Mapbox Vector Tile 形式は一定精度の内部座標を持っています。つまり、よく使われているタイルのデータ形式上は、内部の座標値の精度に限界があるわけです。Web 地図で利用することを考えると、パフォーマンスを維持するために、1つのタイルのファイル容量にも限度があります。
そのため、1つのタイルにどのような情報を書き込むかを考えると、ズームレベル(縮尺)に応じた精度で、Web 利用に耐えうる情報量の限界内で地図の情報を出力する必要があります。これは、紙面の大きさと印刷技術の限界内で地図情報を出力する紙地図にも通じる考えです。
そう考えると、タイルは、地図の「印刷結果」の一形態と言えるかもしれません(もしくは、地図印刷の応用としては、タイルができたのかもしれません)。ある地図のデータベースがあって、それを紙の地図に出力するか、タイルに出力するかは、縮尺と図郭と媒体の違いによるレパートリーとなるでしょう。
デジタルなタイルとアナログな紙地図ですが、作成時に求められることは共通していると思われます。タイル1枚1枚は、本質的に1図葉の地図であり、紙地図の時と同じような地図編集等の考え方や技法が利用できますし、利用すべきでしょう。
参考とした記事
本記事のアイデアのベースとなった記事を紹介します。
以下は、タイルを1図葉の地図として使おうというアイデアです。
以下の記事では、タイルにまつわる難しさとして、タイルが「印刷術」であることを指摘しています。
ベクトルタイルって、地図そのものではなく、地図の印刷術であるのだ、というところが難しいのだと思います。地図そのものと比較して、一段メタなのです。
おわりに
図書室や資料庫にお邪魔したときに、地図作成に関する古い本を発見することがあります。スクライブが最新技術として掲載されていれば良いレベルの本です。当然、Web 地図のことなど書いてあるはずがないのですが、一方、タイルは「印刷された1図葉」であるという発想に立つと、そういう本にこそ、現在の Web 地図にとっても大事なことが書かれているような気がします。温故知新ですね。あいにく手元にそのような古い本はないのですが、次、そのような本に出会うのが楽しみです。