要約
Agent SkillsはMCPの「ファイルシステム版」とも言える存在で、よりシンプルで使いやすく、トークン効率に優れた仕組みである。両者の役割は明確に区別されており、かつ補完的な関係にある。
- 対象読者: Claude Codeを活用してAIエージェントの自動化を検討しているエンジニア、MCPとAgent Skillsの違いを理解したい開発者
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- 検証環境: Claude Code 1.0.x / Agent Skills対応バージョン(2025年1月時点)
この記事を読むことで得られるメリット
この記事を読むことで以下のことが分かる:
- Agent Skillsの定義と役割(ファイルシステムベースの手続き的知識)
- MCPの定義と役割(外部システムへの接続プロトコル)
- 両者の5つの決定的な違い(役割・実装レベル・トークン消費・メンテナンス性・知見の所在)
- 個人開発とエンタープライズでの使い分け判断基準
- 週報自動作成を例にした実践的な共存パターン
この記事を読むのにかかる時間: 約15分
はじめに:よくある誤解を解く
SNS上では「MCPは時代遅れ、Agent Skillsが未来だ」といった主張が見られる。しかし、この議論には根本的な誤解が含まれている。
結論から言えば、Agent SkillsとMCPは比較対象ではない。
プロトコル(通信規格)と知識(手順書)という異なるレイヤーで動作するものであり、両者は代替関係ではなく補完関係にある。
Agent Skillsが外部APIへの接続を可能にしたといっても、実際に代替しているのはbashやcurlである。Agent Skillsはその使い方を文書化しているに過ぎない。
Agent Skillsとは?
定義:ファイルシステムベースのMCP
Agent Skillsとは、エージェントに与える**「手続き的知識(Procedural Knowledge)」**の集合体である。具体的には、Markdownファイルやスクリプトが含まれた「フォルダ」として構成される。
構造は非常にシンプルで、フォルダの中に以下の要素が含まれているだけである:
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SKILL.md: スキルの内容や使い方を記述したMarkdownファイル
- 関連ファイル(オプション): エージェントが使用するスクリプトやドキュメントなど
これらは、AIエージェントが自分でファイルを読み込み、実行するために設計された「ローカルエージェントのためのプラグイン」のようなものである。
Agent Skillsの役割
Agent Skillsは、Claudeにタスクをどのように実行するかを教える「再利用可能な説明書(instruction manual)」である。具体的には以下のような役割を持つ:
| 役割 | 具体例 |
|---|---|
| 定型業務の自動化 | 特定のフォーマットに従ったドキュメント作成、プレゼンテーションスライドの生成 |
| ブランドルールの遵守 | 独自のブランドカラーやトーン&マナーを定義したカスタムスキル |
つまり、Skillsは**「How(どのように作るか)」**を司る要素である。
MCPとは?
定義:外部システムへの接続口
MCP(Model Context Protocol)は、AIエージェントと外部データソースやツールを接続するためのオープン標準プロトコルである。クライアント・サーバーアーキテクチャを採用し、JSON-RPC 2.0でトランスポートされる。
AIモデルは学習データに含まれない最新情報や、個人のプライベートなデータにはアクセスできない。MCPは、AIに「目」や「手」を与え、外部の世界と対話させるためのインターフェースとして機能する。
MCPの役割
| 役割 | 具体例 |
|---|---|
| リアルタイムデータの取得 | Google Analytics 4(GA4)からWebサイトのパフォーマンスデータを取得、SEOツール(Ahrefs)からキーワードデータを取得 |
| 外部ツールへの操作 | Notionのカレンダーに投稿内容をスケジュール |
つまり、MCPは**「What/Where(どのデータを使うか、どこに接続するか)」**を司る要素である。
Agent SkillsとMCPの5つの決定的な違い
MCPは「道具(ツール)」であり、Skillsはその道具を使いこなすための「職人の腕(ノウハウ)」である。
①役割の違い
| 項目 | Agent Skills | MCP |
|---|---|---|
| 提供するもの | 特定のタスクをどう遂行するかという専門知識 | 外部世界への接続 |
| 具体例 | プレゼン資料のスタイル修正スクリプト、社内独自のドキュメント作成ルール | データベースへのアクセス、外部APIの利用 |
②実装レベルの違い
| 項目 | Agent Skills | MCP |
|---|---|---|
| 動作レベル | ローカルのファイルシステム(フォルダとファイル) | API統合レベル |
| 実装方法 | エージェントが直接ファイルを読み込んで使用 | サーバーとクライアント間で通信、アプリケーションを通じて実装 |
③トークン消費量(効率性)
これが最大の違いであり、Agent Skillsの大きなメリットである。
| 項目 | Agent Skills | MCP |
|---|---|---|
| 初期読み込み | 軽量なメタデータ(スキルの概要と説明程度) | すべてのツールの定義や説明を読み込む |
| 必要時の動作 | 必要なスキルのみ詳細なSKILL.mdをロード | 開始時に大量のトークン(数万トークン)を消費することも |
④メンテナンス性
| 項目 | Agent Skills | MCP |
|---|---|---|
| 更新方法 | フォルダ内のファイルを編集・置換するだけ | MCPサーバーの仕様管理、実装変更が必要 |
| 難易度 | 非常に容易 | 中〜高 |
⑤知見の所在
| 項目 | Agent Skills | MCP |
|---|---|---|
| アプローチ | 知見をClient側に集約 | 知見をServer側に集約 |
使い分けの判断基準
Agent Skillsが向いているケース
- トークン消費量を抑えたい場合
-
- メンテナンスを簡単に済ませたい場合
MCPが向いているケース
- 外部APIサーバーやDBとの連携が必要な場合
- 自身でAgent Skillsを構築することができない、またはしたくない場合
プロジェクト規模別の推奨
| 規模 | 推奨アプローチ | 理由 |
|---|---|---|
| 個人開発・小規模プロジェクト | curl + Agent Skills | 外部接続はcurlやCLIで行い手順をSkillsとして文書化、MCPのセットアップコストに見合うメリットが薄い |
| エンタープライズ・チーム開発 | MCP利用が適切 | 監査ログや権限管理が必要な環境、複数ユーザー間で接続設定を共有する場合や組織的なOAuth認証管理が必要な場合 |
共存:新しいエージェントアーキテクチャ
両者の役割は明確に区別されているものの、補完的な関係にある。新しい領域(ドメイン)でエージェントを活躍させるためには、以下の2つをセットで使う必要がある。
「振る舞い vs 接続」ではなく「振る舞いと接続」の両方があって初めて効果的なアウトプットが出せる。
- 適切なMCPサーバー: その仕事に必要なデータやツールへのアクセス権を与える
-
- 適切なSkillsライブラリ: そのツールを使ってどう仕事を進めるかという知識を与える
**「MCPで素材を集め、Skillsで料理する」**という分担を意識することで、実用的で高度なAIエージェントチームを構築できる。
実践例:週報の自動作成
「毎週金曜に週報を作成してSlackに投稿する」というタスクを例に、両者の補完関係を見てみる。
MCPの役割(接続を担当)
MCPを設定すると、Claudeは以下の外部サービスと「会話」できるようになる:
- Googleカレンダーに接続 → 今週の予定を取得できる
- Slackに接続 → メッセージの取得・投稿ができる
- Notionに接続 → タスク管理データを取得できる
ただし、この時点ではClaudeは「何ができるか」を知っているだけで、「週報をどう作るべきか」は知らない。
Agent Skillsの役割(手順を担当)
## 手順
1. Googleカレンダーから今週参加した会議を取得する
2. Slackの自分の投稿から主要な活動を抽出する
3. Notionから今週完了したタスクを取得する
4. 以下のフォーマットで週報を作成する:
- 今週の成果
- 進行中の作業
- 来週の予定
5. Slackの#weekly-reportチャンネルに投稿する
Agent Skillsを設定すると、Claudeは「週報を作って」と言われたとき、どのデータをどの順番で取得し、どうまとめるべきかを理解できる。
両者が組み合わさった時の動作
「週報を作って」の一言で、Claudeは以下を自動実行する:
- Skillsの手順に従い、まずGoogleカレンダーのデータが必要だと判断
- MCPを通じてGoogleカレンダーAPIを呼び出し、今週の予定を取得
- 次にSlackのデータが必要だと判断し、MCPを通じてSlack APIを呼び出し
- 同様にNotionからタスクを取得
- Skillsに定義されたフォーマットに従って週報を整形
- MCPを通じてSlackに投稿
MCPが「何にアクセスできるか」を定義し、Agent Skillsが「それをどう使うか」を定義する——この組み合わせにより、複雑な業務フローを自動化できる。
まとめ
Agent SkillsとMCPは比較対象ではなく、補完関係にある:
| 観点 | Agent Skills | MCP |
|---|---|---|
| 本質 | 手続き的知識(How) | 接続プロトコル(What/Where) |
| 実装 | ファイルシステムベース | API統合レベル |
| 効率 | トークン消費が少ない | 初期読み込みが多い |
| 適性 | ローカル・個人開発向け | エンタープライズ・チーム開発向け |
Claude Codeで本格的な自動化を実現するには、MCPで外部接続を確保し、Agent Skillsで業務知識を定義するという組み合わせが最も効果的である。