ご挨拶
この記事をご覧いただきありがとうございます。
ニッセイ情報テクノロジー株式会社 プロダクト・サービス事業推進室の須賀です。
私はソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートし、数々のプロジェクトを経験してきました。今ではプロダクトやサービスの企画・推進を担当しています。
今日はアドベントカレンダー6日目として「10x思考」について書きたいと思います。
プロローグ:社長室でのひとコマ
ある日、社長室で事業成長戦略の報告をしていました。
「各部の積み上げで全体的な伸び率は5%を軸に…」と説明していたところ、社長から一言。
「5%なんて言ってないで、10倍にするとか言ってほしいな」
……えっ?10倍?
その瞬間、頭の中で何かが弾けました。
10x思考って何?
「10x思考」とは、Googleが採用している発想法で、“1%伸ばすより、10倍伸ばす方が簡単”という考え方です。
一見、無茶に聞こえますよね。でも、これが非連続な成長を生む鍵なんです。
5%アップを目指すのは、既存の枠組みの中での最適化。でも10倍を目指すなら、その枠組み自体を壊す必要があります。戦い方を根本から変える、つまりゲームチェンジが必要なんです。
ロケットから学ぶ「戦略転換」
ここで、私の趣味でもあるロケットの話を例にしましょう。
ロケットは、積荷を宇宙へ運ぶために第一宇宙速度(秒速約7.9km)を超えなければなりません。
スペースXのファルコン9を例にすると、高度550Km程度の低軌道なら22トン運べますが、高度3万Kmを超える静止軌道だと8.3トンに減ります。なぜか?
燃料の重さがネックなんです。高い軌道を目指すほど燃料が必要。でも、その燃料自体が重くて加速を妨げる。これがロケットの根本的ジレンマ。
アポロ計画 vs アルテミス計画:ペイロードは“10倍”
では実例としてアポロ計画とアルテミス計画を並べてみます。
アポロ計画(1960–70年代)
- 月面着陸に使われたサターンVは世界最大級のロケット。
- 月面に実質運べたペイロードは約10トン弱(※月面に残った機材やモジュールの合計質量の目安)。
アルテミス計画(現在進行中)
- 目標は月に約100トン級の資材を継続的に運ぶこと。
- 巨大ロケットと“飛んでからの工夫(後述)”を組み合わせ、アポロの約10倍を月面へ届けることを狙っています。
この“10倍違う目標”が、発想と戦い方をガラッと変えるわけです。
同じ“月へ行く”でも、ペイロードが10倍なら戦術も10倍違う。これが10x思考の本質。
新しい戦術:軌道上補給(奇抜だけど、基礎があるからできる)
スペースXは、ロケットの根本的ジレンマに対して「軌道上補給」という新しい手を打とうとしています。
やり方はシンプルで大胆。スターシップを月に送る前に、補給用タンカーを複数機軌道に並べておき、飛行途中で燃料を補給するんです。ここで超重要なのが、“奇抜な戦略は基礎の上に成り立つ”という点。
スターシップ本体、タンカー、クルーを確実に第一宇宙速度まで加速し、安定して軌道投入できるという基礎の技術と運用があるから、初めてこの補給戦術が現実的になる。
基礎がなければ、どんな大胆なアイデアも絵に描いた餅。
「基礎 × 発想転換」の両立が、10倍の目標を現実に変えるんです。
私たちに置き換えると?
では、私たちのプロダクトで10倍の売上を目指すには?
まずは「自分たちの第一宇宙速度」をちゃんと定義しましょう。
- 技術基盤:堅牢でセキュアなシステム設計/開発
- 運用基盤:安定運用のノウハウ、SLA達成の仕組み
- 信頼基盤:20年以上積み重ねた“当たり前品質”の実績と信頼
この“基礎”があるからこそ、大胆な戦略が描けます。
言い換えると、「打ち上げを安定化」できるから、「途中補給(戦術の組み合わせ)」に踏み込める。スターシップの戦略と同じロジックです。
マーケットを“深く”読む(断面ではなく時系列で)
10倍の売上を目指すなら、マーケットの断面だけでは足りません。
未来のトレンドを読み、顧客の潜在ニーズを発掘し、未開拓領域を見つけることが重要です。
例えば、既存顧客の課題を深掘りするだけでなく、異業種や新興市場の動向を分析し「どこにお金があるか」「どこなら10倍狙えるか」「更なる伸びしろがあるか」を見極める。
データ分析、競合比較、ユーザーインタビューなど、マーケティングの精度を高めることが10倍への第一歩です。
知恵を結集する仕組み
そして戦術です。
一人の発想だけでは10倍の道は見えません。社内外の知見を結集し、異なる視点をぶつけ合うことで、従来の延長線上にないアイデアが生まれます。
例えば、エンジニア、営業、コンサルタント、経営戦略人材が同じテーブルで議論する。さらに、パートナー企業や顧客の声も取り入れる。こうした「知恵のハブ」を作ることが、非連続な成長の鍵です。
スペースXの軌道上補給に相当する“戦術の組み合わせ”は、こうしたハブから生まれます。
エピローグ:再び社長室
「次期中期計画ではゼロからイチを生み出し、将来的にはXXXまでグロースを…」と説明していたら、社長がまた一言。
「わかった。それとは別に、頭の片隅で1,000億を目指すモノも考えてほしいな」
……えっ?1,000億?
10倍どころじゃないじゃん!でも、こういう無茶な目標が新しい発想を生むんですよね。
まとめ
- 10x思考は、枠組みを壊す“戦い方”の再設計
- アポロ→アルテミスは、ペイロード約10倍という“目標の桁違い”が発想を変えた好例
- 奇抜な戦略は基礎の上に成立(安定した打ち上げ→途中補給の現実化)
- 自社適用は、自分たちの「第一宇宙速度(基盤)」の定義から
- マーケティングは未来の測量、知恵は仕組みで結集
- 10倍は個人技ではなく、組織の設計で実現する
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございました。