はじめに
これまでの投稿記事「AI投資システム構築】概要&今後の投稿予定」では、
独自に構築したAIトレードシステムの概要を紹介しました。
今回は、そのシステムを実際に7カ月間(2025年4月〜10月)運用した結果をまとめ、
通貨ペアごとの特徴とAIモデルの傾向を分析しました。
金額部分は相対値表示とし、本記事は投資助言を目的としたものではありません。
トレードシステム概要
- 環境:MT4,MT5 + Python(AIモデル連携)
- AIモデル(学習データ):過去数年分の13通貨ペアの為替レート、テクニカルチャート
- AIモデル(予測値):数間後の終値
- 注文条件:予測値に加え、相関のある通貨ペアの予測と実績、ファンダメンタルズ分析結果が一致した場合のみ注文
- SL/TP条件:ATR*3倍をSL値。TP:SL = 1.1:1.0
- 決済条件:予測値に加え、ファンダメンタルズ分析結果をもとに決済
▼ シミュレート結果
AIトレードシステムを学習済み期間で仮想トレードしたときの結果は下記の通りです。
※ただし、人によるファンダメンタルズ分析は除外
- 期間:2024年2月〜11月(10カ月)
- 対象:13通貨ペア
- 総トレード数:6,598件
- 平均勝率:85.7%
【SIM】通貨ペア別の成績(勝率・傾向)
| 通貨ペア | 勝率 | トレード数 |
|---|---|---|
| AUDJPY | 0.94 | 550 |
| AUDUSD | 0.916184971 | 346 |
| CADJPY | 0.905511811 | 508 |
| CHFJPY | 0.899173554 | 605 |
| EURCAD | 0.902621723 | 534 |
| EURCHF | 0.944186047 | 430 |
| EURGBP | 0.592417062 | 422 |
| EURJPY | 0.939698492 | 597 |
| EURUSD | 0.8703125 | 640 |
| NZDJPY | 0.944751381 | 543 |
| USDCAD | 0.586080586 | 546 |
| USDCHF | 0.658862876 | 299 |
| USDJPY | 0.915224913 | 578 |
【SIM】累積損益の推移(相対スケール)
- 縦軸は各通貨ペアの累積損益を相対的に比較
- EURGBP・USDCAD・USDCHFは比較的制度が悪いが、ある意味、学習済みデータに対する過学習が起きていないと評価することもできる
- 上記以外の通貨は、学習済みデータに対する過学習が起きている可能性あり
▼ 実運用結果
そして、AIトレードシステムで実運用をしたときの結果は下記の通りです。
- 期間:2025年4月〜10月(約7カ月)
- 対象:13通貨ペア ※10月以降は厳選10通貨ペア
- 総トレード数:534件
- 平均勝率:57.5% ※厳選通貨ペアのみ:71.1%
- 収益率:+11.5%
【実】通貨ペア別の成績(勝率・傾向)
| 通貨ペア | 勝率 | トレード数 |
|---|---|---|
| AUDJPY | 0.684210526 | 57 |
| AUDUSD | 0.285714286 | 7 |
| CADJPY | 0.769230769 | 26 |
| CHFJPY | 0.720588235 | 68 |
| EURCAD | 0.631578947 | 38 |
| EURCHF | 0.352112676 | 71 |
| EURGBP | 0.672413793 | 58 |
| EURJPY | 0.681818182 | 44 |
| EURUSD | 0.409090909 | 44 |
| NZDJPY | 0.582089552 | 67 |
| USDCAD | 0.75 | 8 |
| USDCHF | 0.512820513 | 39 |
| USDJPY | 0.428571429 | 7 |
【実】累積損益の推移(相対スケール)
- 縦軸は各通貨ペアの累積損益を相対的に比較。
- JPYクロス系(CHFJPY・CADJPY・EURJPY)が右肩上がりを維持。
- EURUSD・EURCHF・USDCHFは夏場に失速
- 10月から失速した3通貨ペアは、トレード停止
- 10月からケリー基準を導入
分析と考察(不調通貨ペアに焦点)
7か月間(2025年4月〜11月上旬)のAI自動トレード結果を分析したところ、全体では小幅なプラスで着地しました。
しかし、通貨ペアごとに見ると明確な差があり、とくに以下の4ペアでパフォーマンスの悪化が目立ちました。
- EURCHF(ユーロ/スイスフラン)
- EURUSD(ユーロ/ドル)
- USDCHF(ドル/スイスフラン)
- AUDUSD(豪ドル/ドル)
これらはいずれも低ボラティリティまたはファンダメンタルズ主導の相場であり、テクニカル分析のみを根拠とするAIモデルの限界が明確に表れました。
以下、それぞれの通貨ペアにおける詳細な傾向を示します。
■ EURCHF(ユーロ/スイスフラン)
最も成績が悪化した通貨ペアです。
低ボラティリティが長期間続き、AIの検出するトレンドシグナルがノイズに埋もれていました。特に「トレンド発生」と誤認したエントリーが多く、損切りで終わるケースが連続。
さらにCHF(スイスフラン)はリスク回避通貨としての特性があり、地政学的要因や株価指数の下落に反応して突発的に買われることがあります。
こうしたファンダメンタルズ起因の急変動は、テクニカル指標では検知できませんでした。
主な原因
- ボラティリティ不足によるシグナル誤認
- リスクオフ要因(有事・地政学リスク)による急変動
- テクニカル偏重モデルによる情報欠落
示唆
- ATR(ボラティリティ指標)閾値を設定し、静的市場でのエントリーを抑制
- 政策金利やVIX指数など、リスク要因をAI入力として統合
■ EURUSD(ユーロ/ドル)
世界的に取引量が多いペアですが、2025年中盤以降は明確なトレンドが形成されず、レンジ相場が継続しました。AIは小さな値動きを「トレンド」と誤認し、無駄なエントリーを繰り返す傾向を示しました。
また、米・欧の金融政策コメントや経済指標発表によって方向性が頻繁に変わるため、中途半端なタイミングでの売買が増加し、損益率が悪化しました。
主な原因
- ファンダメンタルズ(政策金利・発言)による方向転換
- レンジ相場におけるトレンド誤認
- 市場状態の判別ロジック不足
示唆
- 経済イベント(CPI・FOMC・ECB発表)を特徴量として学習データに追加
- AIによる「市場状態分類(トレンド/レンジ)」の導入
■ USDCHF(ドル/スイスフラン)
EURCHFと同様に低ボラティリティで推移。
さらに、ドルとフランの相関が高いため、両者が同方向に動きやすく、価格差が生まれにくい市場構造でした。
AIがタイムラグを吸収できず、エントリーが常に遅れ気味となったことも成績悪化の一因です。
主な原因
- 極端に低いボラティリティ
- 相関通貨との同方向トレードによる損失連鎖
- ドルインデックス遅延に起因する判断ミス
示唆
- 相関分析に基づき「同一方向に動くペアの同時トレードを禁止」
- ボラティリティ閾値に基づく自動スキップロジックの導入
■ AUDUSD(豪ドル/ドル)
豪ドルは資源価格と中国経済の影響を強く受ける通貨であり、これらの要素を考慮していない現行モデルでは判断精度が著しく低下しました。
特にATR(平均真の値幅)が低下した局面でノイズを「トレンド」と誤認し、トレード頻度が過剰になって損益率を押し下げる結果となりました。
主な原因
- 低ボラティリティ時の過剰トレード
- ファンダメンタルズ(資源価格・中国景気)未考慮
- ATR変動に対するロット制御の遅延
示唆
- ATR閾値を動的に調整し、低ボラ時は取引回避
- 商品先物やPMIなどの経済変数をAIモデルに統合
これら4通貨ペアの共通点は、
「ボラティリティが低い、またはファンダメンタルズ主導の市場では、テクニカルAIは脆弱になる」 という点です。
この経験は、次世代モデルの再設計における重要な示唆となりました。
今後の改善方針
今後は、単なるトレードロジックの調整ではなく、
「AIによる為替予測」を研究テーマとして深化させていくつもりです。
主な改善方向は以下の通りです。
1. ファンダメンタルズ要素の導入
金利差・CPI・雇用統計・資源価格・地政学リスクなどを定量化し、AIモデルに入力。
背景要因を理解した上で、「今の市場環境ではどちらの通貨が優勢か」 を判断できるモデルを目指します。
2. モデル構造の再設計
LSTM中心の構成から、時系列+外部要因を統合的に扱えるTransformerモデルへ移行。
さらに、通貨ペア間の関係性をネットワークとして表現するGraph Neural Network(GNN) の導入も検討します。
3. 低ボラティリティ環境での誤エントリー抑止
ATR(平均真の値幅)を監視し、一定以下の市場では自動的にエントリーを停止。
また、ボラティリティ変化率(ΔATR)をトリガーとする「静的市場検出モジュール」を導入し、低ボラ環境下でのムダ打ちトレードを根絶します。
4. 研究的アプローチへの転換
AIトレードを単なるシステム開発としてではなく、研究対象として継続的に解析・改良します。
トレード履歴・損益データ・市場状態をすべて研究用データセット化し、「AIによる為替予測モデルの信頼性・再現性」を追求していきます。
Coffee Break
今はまだ、私が個人的に趣味でやっていることですが、将来的には「AIによる市場解析・異常検知・経済予測モデルの研究 」というテーマで、本格的に研究したいなーと妄想しています。
まとめ
今回の7か月間の実績を通して、AI自動トレードの強みと限界が明確になりました。
テクニカル分析のみでは対応できない市場環境が多く存在し、今後はファンダメンタルズ・相関構造・ボラティリティを同時に考慮するAIモデルが不可欠です。
(人によるファンダメンタルズ分析は行っていますが、どうしても頻度が低いので)
次のステップでは、これらの要素を統合した第2世代AI為替予測モデルを開発し、より科学的で再現性のある自動トレードを実現していきます。
AIを「取引の自動化ツール」ではなく、市場を理解し、学習し続ける研究対象そのものとして進化させる、今回の検証は、その第一歩となりました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後も新しい理論や考えを導入したら、随時アップデートしていきます。
よろしくお願いいたします。

