デフエンジニアの会アドベントカレンダー17日目に参加しています。
完璧なAIが登場したら、エンジニアは本当に不要になるのか?
― AI時代のエンジニアの未来を考える ―
はじめに
本記事は、以下2つの記事の完結編です。
-
AI時代に強いエンジニアとは② ー生成AIのハルシネーションとどう向き合うかー
- AIのハルシネーション(誤情報生成)を通じて、なぜ現在のAI時代でもエンジニアが必要なのか を解説
-
- AI駆動開発の実践を通じて、AIをどう使いこなすのか を具体的に解説
前2つの記事では、現在のAI(ハルシネーションがある、完璧ではないAI)を前提に話を進めてきました。
しかし、ここで私は以下疑問にぶち当たりました。
「では、もし今後の未来、AIが完全に人間と同じように思考し、ハルシネーションも完全になくなったら...その時は人間のエンジニアは不要になるのでは?」
本記事では、この問いに向き合います。
とはいっても、10-20年後に限ったお話です。
50-100年後はまたどうなるか分かりませんね
私の答え: それでも「完全に不要」にはなりません
ただし、エンジニアの役割は大きく変わる と思います。
なぜ完璧なAIが登場してもエンジニアは不要にならないのか
1. 「何を作るべきか」は人間が決める領域
AIがどれだけ賢くなっても、
- この機能は本当に必要なのか?
- ユーザーの本当の課題は何なのか?
- ビジネスとして何を優先すべきか?
これらは 価値判断 の問題です。
例えば:
- 「売上を最大化する機能」をAIが提案したとして、それが倫理的に問題ないか?
- 「効率的なシステム」が、本当にユーザーの幸せにつながるか?
何を作るべきか の判断には、人間の価値観、倫理観、社会的責任が必要です。
こちらについては、こちらでも触れています。
2. 責任を負うのは人間
完璧なAIが完璧なコードを書いても、
- そのシステムが障害を起こしたら?
- セキュリティ問題が発生したら?
- 個人情報が漏洩したら?
誰が責任を取るのでしょうか?
法的にも、倫理的にも、社会的にも、
最終的な責任を負うのは 人間 です。
AIは責任を取れません。
3. 人間特有の「創造性」と「直感」
技術的に正しい解と、イノベーションを生む解 は違います。
- スティーブ・ジョブズが「こんなのあったらいいな」と思ったiPhone
- 誰も必要だと思っていなかったTwitter
- 「非効率」だけど人の心を動かすデザイン
こうした 「理屈じゃない何か」 を生み出すのは、
まだまだ人間の領域だと思います。
4. 人間同士のコミュニケーション
開発は技術だけでは完結しません。
- ステークホルダーとの調整
- チームメンバーとの信頼関係
- 曖昧な要件のすり合わせ
- 「なんとなく違和感がある」を言語化する
こうした 人間らしい部分 は、
AIが人間と同じように振る舞えても、
やはり 人間がやる方がスムーズ な気がします。
では、エンジニアの役割はどう変わるのか?
現在(2025年)
- コードを書く: 40%(今はAIを使ってコードを書いている人も増えてきているため)
- 設計・判断: 40%
- コミュニケーション: 20%
完璧なAIがいる未来
- コードを書く: 5%(AIに任せる)
- 設計・判断: 40%(より高度な判断に集中)
- コミュニケーション: 30%(AIと人間の間の調整が増える)
- 価値創造: 25%(何を作るべきかの探求)
つまり、「実装者」から「意思決定者・創造者」へのシフト が起きると思います。
※数字はイメージです
具体的なイメージ
完璧なAIがいる世界でのエンジニアの仕事
ケース1: 新規サービス開発
エンジニア: 「高齢者向けの健康管理アプリを作りたい」
AI: 「技術的には完璧に実装できます。以下の設計案を提示します」
エンジニア: 「待って、この機能は高齢者には複雑すぎる。
技術的に優れていても、ユーザーが使えなければ意味がない。
もっとシンプルに、大きなボタンで、音声入力メインで」
→ 人間の役割: ユーザー視点での判断、共感力
ケース2: システム障害
AI: 「障害の原因を特定し、修正パッチを作成しました」
エンジニア: 「修正内容は正しいが、今すぐ本番に適用するのはリスクが高い。
まず影響範囲を確認して、ステークホルダーに説明して、
段階的にロールアウトする計画を立てよう」
→ 人間の役割: リスク管理、意思決定、責任
ケース3: 新技術の選定
AI: 「技術A、B、Cのメリット・デメリットを分析しました」
エンジニア: 「分析はありがとう。でも、うちのチームのスキルセット、
今後の採用計画、5年後のビジョンを考えると、
技術的に最高ではないけど、Bを選ぶべきだと思う」
→ 人間の役割: 文脈理解、長期的視点、組織的判断
歴史から学ぶ
過去の技術革新を振り返ると・・・
産業革命(機械の登場)
- 変わっていく仕事: 手作業→機械操作に変わった(手を動かす仕事自体は残った)
- 生まれた仕事: 機械オペレーター、エンジニア、品質管理
コンピュータの登場
- 変わっていく仕事: 計算→データ入力/分析に変わった(数字を扱う仕事は残った)
- 生まれた仕事: プログラマー、システム管理者、データサイエンティスト
AIの登場(現在〜未来)
- 変わっていく仕事: 定型的なコーディングの実装方法(手書き→AI活用へ)
- 生まれる仕事: ?(まだ見えていない新しい役割)
よく、「仕事が消えてなくなった」と言う人がいますが、「面倒な部分が置き換わっただけで実際には別の形で生まれている、やり方が変わっているだけ」ということも多いです。
共通点: 技術が人を不要にするのではなく、人の役割を変化させる
私の結論
完璧なAIが登場しても、エンジニアは不要にはなりません。
ただし、求められるスキルは劇的に変わるのではと考えます。
これからのエンジニアに必要なスキル
- 価値判断力: 何を作るべきか決められる
- 共感力: ユーザーの本当の課題を理解できる
- 責任感: 最終的な意思決定と責任を負える
- 創造性: 前例のないものを生み出せる
- コミュニケーション力: 人間相手だけでなくAIとも協働できる
- 倫理観: 技術の社会的影響を考えられる
- 学習力: 変化し続ける技術についていける
おわりに
AI時代のエンジニアは、不要になるのではなく、より重要になる。
なぜなら、
- 第1部で見たように、現在のAIには限界がある
- 第2部で見たように、AIを使いこなすには人間の判断が必要
- 第3部で見たように、完璧なAIが登場しても人間にしかできないことがある
つまり、どの段階でもエンジニアは必要です。
変わるのは「何をするか」であって、「必要かどうか」ではありません。
AIに仕事を奪われる・・と思うのではなく、AIを使いこなして、より価値の高い仕事ができるようにしよう、と考える。
それが、これからのエンジニアの生き方になるのではと私は考えています。
とはいっても、これは10-20年後に限った話で、もしかしたら50-100年後には完全にAIが支配した世界になるかもしれないし分からないよね・・・(うーんどうなるやら)