株式会社LITALICOでマネージャーをしている千葉と言います。LITALICOには2024年入社しました。
前職から比較的長くマネジメントに携わってきましたが、マネージャーのミッションである「組織成果の最大化」において、最も難解なパズルの一つが「目標設定」だと感じています。本記事では、この難題に対して私なりにどう向き合っているか、実践しているフレームワークをシェアできればと思います。
🚀 いまさらMBOの話ですが
長年持っていた難しさ
目標設定で語られるMBO(Management by Objectives)
- 目標(到達点)
- そこに向かうプロセス(アクション)
あたりを検討して定めると思います。
ただし、このフォーマットのみで目標設定時の対話は難しさを感じていました。
例えば
目標が単なる 「予想」 になってしまう
- 評価時期よりもだいぶ前に設定する目標に納得感がない
- どの程度詳細まで考えて置くべきだろう
- それが目標ってもんだと言われたらそうなのですが
定性目標との相性が良くない
- 定量設定が難しい活動の場合、目標と言ってもどの程度解像度高く評価できる・されるのだろう
- 定性設定が悪いのか、目標の質が悪いだけなのか
- だからSMARTの法則が重要と言われるのもわかるのですが、それも表面の解釈に留まり使い切れない
MBOの扱い
こうして、「もしかしてMBOって使いづらい?」という声が聞こえ始め、
- 業績との整合性のためのツール
- 保守的・報酬連動・硬直的(決めた目標ができたできないかに使われる)
- OKRが新しいパラダイムとして受け入れられるのもわかる
言い過ぎかもしれませんが、MBOはこんな扱いで良いのですっけ?という思いを持っていました。
活躍する人のMBO
そこで、長い間MBOと向き合ってきた経験を振り返ってみました。MBOに納得感を持って取り組み、結果的に活躍されている方の目標設定には、共通する特徴があることに気づきました。
- 設定内容から時間軸が読み取れる(前期の振り返りがベースにあり且つ、今期の活動だけではなく自然と来期の活動もイメージできる、連続性)
- 評価項目とは別に、動機づけ、意欲が見て取れる(やる気の有無ではなく、こういう設定になることが共感できる状態)
- 個人の成長意欲と組織の目標管理が繋がっていて「社会」とのつながりも含めて三方良し
あたりが存在しており、目標とアクションだけではやはり足りないと思っています。(当然かもですが・・)
MBOを単なる目標管理としないための一歩目
MBOのフォーマット(目標・アクション)を埋めるだけでは不十分であることがわかりつつも
直接的に「時間軸」「個人の動機」を設定することは、目標設定の文脈では使いづらいことに変わりありません。
「時間軸」「個人の動機」は結果的に見えれば良いので
もう少しだけアプローチを具体化すると
シンプルに「なぜ」「どうやって」を突き詰めることだと思います。
そして「なぜ」「どうやって」というのも、ある意味当たり前であり、わかりそうでも設定イメージは難しいかもしれません。
そこで今回、もう少しだけフォーカスする部分をご紹介しようと思います。
最近は目標設定時に使うようにしています。
私がMBO利用時によく一緒に使うフレーム
後述の便宜上、7つの視点と呼びます。
- 目的(ビジョンでも良いかもです)🎯
- 目標(MBOの目標・到達点)🏁
- 貢献(目標に対する関与の仕方、プロセス・アクションの分解)🎁
- 挑戦(その貢献をするには、何をやるか、変化が必要であるか、プロセス・アクションの分解)🔥
- 連携(自身をチームの中でどのような役割とするか)🤝
- 改善・リクエスト(改善活動の提案や、逆にサポートを求めること)🔧
- 未来(活動の結果、どういう変化や新しい形が見えそうか)🌈
「自分というプロダクトの要件定義」のイメージです。
使い所としての大きなポイント
1の目的🎯から順番に定めることができればそれはそれで良いですが、目的から決め始める必要は無いです。
実践する上で、ここが結構重要なポイントだと感じています。「目的」は非常に大事ですが、最初から完璧な目的を考えようとして手が止まってしまう(出るものも出ない)状態を避けるためです。想像しやすく、手触り感のある部分から攻めていきたいです。
自分が見えている部分から埋めていき、項目ごとの関連性を見て、必要あれば各項目それぞれをアップデートしていくのが良いと思います。(フィードバックループ設計)
取りかかりの例
- ビジョン、思いがあったら、目的から。
- やるべきことが見えていたら、目標から。
- やりたいことが見えていたら、挑戦から。
- 自分自身の強みや貢献のパターンが見えていたら、貢献もしくは連携から。
- キャリアプランだったり、チーム・プロダクトの長い構想が見えているなら、未来から。(この方はそもそもこのフォーマットは不要かもです
)
順番が決まったら、(前述しましたが)次に大事なのは関連性と思います。
この関連性を掘っていくことは、「なぜ」「どうやって」がより自身の中で強まって行き
その結果「時間軸」「個人の動機」も可視化され(当然、目標と組織のつながりも)
形骸化した目標設定を自ずと避けることにつながると思います。
これはすでにある概念だった
実はこれは新しい考えではなくて、、、MBOの正式名称から読み取ることができます。
Management by Objectives and Self-control
出典:『現代の経営』ピーター・ファーディナンド・ドラッカー 第11章:Management by Objectives and Self-control(目標と自己管理によるマネジメント)
最初からMBOというのは、自己統制を目的とするものであり、誰かに何か目標を与えられるものではない設計だったというのが私には衝撃でした。
(あくまで個人的な見解:日本にドラッカーさんのMBOが普及する過程で、Objectivesだけ取り込まれ、Self-controlは抜け落ちた、成果主義の道具にだけされた不遇なツールという経緯なのかもしれない)
MBO and Self-control で 自らをマネジメントし自律・自走へ
- 目標を管理するだけではない
- 目標によって自らをマネジメントする視点が大切
私の経験でも前述したとおりそのような視点・視座をお持ちの方は幅広く活躍されているといる印象です。
改めて苦しい使い方と本来の使い方を分けて比較すると
| 項目 | よくある誤解(管理ツール) | 本来のMBO and Self-control |
|---|---|---|
| 主語 | 上長がメンバーを管理する | メンバーが自分自身を管理する |
| 目標 | 与えられる「ノルマ」 | チーム、自己実現への貢献として「自分で設計する誓約」 |
| 評価 | できたできないの0,1方式 | プロセス改善のためのデータ(デバッグ情報) |
かもしれません。
最初の難しさの答え合わせ
評価時期よりもだいぶ前に設定する目標に納得感がない
目標を管理することだけが目的ではない、自分をマネジメントするために、目標は変わってくことは健全である。という視点。アジャイル視点への転換のようなものです。
一度決めた目標を蔑ろにするという意味ではなく、目標以外にも、目的、貢献、挑戦などを定めて関連性を見ているはずなので、目標を変えていく場合はきっと軽々しくない理由・根拠がすでにある可能性は高いですし、短期間で軸もそこまでブレにくいのではないかと思います。
定量設定が難しい活動の場合、目標と言ってもどの程度解像度高く評価できる・されるのだろう
目標設定のすべての悩みが解決されるわけでは無いですが、7つの視点を経ていることから、そこから出た定性目標が、単なる希望や気持ちだけでは無いことが少しは感じることができると思います。
自律・自走・全員リーダー
よく言われるこの表現は、単なる意識を変えようという話であったり、行動指針として定めようということではなく、MBOにSelf-controlを補強して行くこと(もともとある)で作られていく考え方と思います。
目標に対する向き合いに「Self-control(自己統制)」を取り入れることこそが、自律・自走を生み出すためのレバレッジポイントだと考えています。
失敗への恐怖に打ち勝つ
ここまでの話で、MBO(目標設定)は失敗できない契約ではないと捉えた方が自然だと思われると思います。
- 失敗をシステム(仕組み)として許容するフレームワーク
- フィードバックによる自己修正を意味する「失敗しても、自分で検知して修正すればよい」
という形です。
MBO and Self-controlを利用し目標を作る方々、チーム目標として評価する方々の参考になれば幸いです。