はじめに
先日、イベント運営に携わる方とこんな話をしました。
「会社主催でテックイベントを定期的にやってるんですけど、毎回企画が難しいですね」
何が難しいのか聞いてみたら、こんな感じでした。
- 目的は認知の拡大と採用につなげること
- でも、どんなテーマがいいのかわからない
- そもそも登壇してくれる人が見つからない
会社のテックイベントには、登壇者の応援で何度か参加したことがあります。でも、自分が登壇したことは一度もありません。
話を聞きながら、ふと思いました。フリーランスの人なら、登壇すれば仕事につながるからメリットがわかりやすいです。でも、会社員にとってのメリットって何でしょう?
給料が上がるわけでもありません。資料作成は業務時間でやるとしても、人前で話すのは緊張します。正直なところ、面倒だと思う気持ちもあります。でも、周りの登壇している人たちを見ていると、「もしかしたら、見えないメリットがあるんじゃないか」と思えてきます。
フリーランスと会社員の違い
フリーランスの場合、登壇のメリットは明快です。イベントで話す → 名前が知られる → 仕事の依頼が来る。このサイクルがわかりやすいです。
じゃあ会社員は? 給料は固定だし、仕事は会社から降ってきます。名前が売れたところで、直接的なメリットは見えにくいです。だから「登壇しても意味ないのでは?」と思われがちです。
登壇で得られそうなもの
自分のスキルが整理される
登壇している人たちを見ていると、資料作成の過程で自分のスキルを整理しているように見えます。「なぜこの設計にしたのか」「どういう課題があって、どう解決したのか」「他の選択肢は何だったのか」。こうした問いに答えるために、自分の経験を言語化していく作業。これって、登壇しなくても役立ちそうです。
普段の業務では、チーム内で通じる前提知識や文脈に頼って説明していることが多いです。でも、外部の人に話すとなると、そういう暗黙の了解が通用しません。自分が何をやってきたのか、何ができるのか、それをゼロから明確に言葉にする必要があるんだろうと思います。
社内での提案や設計レビューでも、こういう説明力は役立つはずです。特に他部署への説明や、経営層への報告がスムーズになれば、プロジェクトも進めやすくなるんじゃないでしょうか。
社内での評価が変わる
これは想像しやすいです。「うちの〇〇さんがイベントで話すらしいよ」。こう聞いた人は、ちょっと見る目が変わるんじゃないでしょうか。別にすごい技術の話をしなくても、「外で話せる人」というだけで一目置かれているように見えます。
人事評価でも、登壇実績はプラスになりそうです。直接的に給料が上がるわけじゃないでしょうけど、「この領域のことなら〇〇さんに聞けばいい」という有識者ポジションを確立できます。これって、長期的に見ると意外と大事なことかもしれません。
会社員のキャリアは、管理職を目指すだけが道じゃありません。特定領域のエキスパートとして、長く活躍する道もあります。そういうキャリアを考えたとき、社内外で有識者として認識されることには価値があるんだと思います。社外での発信は、そのための手段の一つになります。
技術広報として会社の名前を広めているわけですから、会社にとってもメリットがあります。それを理解している会社なら、登壇を応援してくれるはずです。
技術記事執筆とは違うもの
「アウトプットなら技術記事を書けばいいのでは?」そう思う人もいるでしょう。実際、QiitaやZennに記事を書くのも立派なアウトプットです。でも、登壇には技術記事とは違う特徴があります。
技術記事は自分のペースで書けます。納得いくまで推敲できますし、公開後も修正できます。一度書けば、後から何度も読まれる資産になります。これは技術記事の大きな強みです。
一方、登壇はリアルタイムのコミュニケーションです。発表中に聴講者の反応が見えます。質疑応答では、自分が想定していなかった視点からの質問が飛んできます。「そういう使い方もあるんですね」「うちではこうやってます」。こういう双方向のやり取りは、技術記事では得られません。
どちらが優れているという話ではありません。技術記事は広く長く読まれ、登壇はその場での深いつながりを作る。両方やれるなら、それが一番いいんでしょう。
技術コミュニティでの人脈
イベント後の懇親会で、同じような課題を抱えている人と話せる機会があります。記事を読んだ人とはなかなか直接つながりませんが、イベントで話した後なら自然と会話が始まります。「さっきの話、うちでも同じ課題があって」「それってこういうアプローチもありますよね」。こういう会話から得られる情報は、ネットで調べるのとは質が違いそうです。
しかも、一度話をすると、その後もSNSで繋がったりして、継続的に情報交換できる関係になると聞きます。転職するつもりがなくても、こういう横のつながりは貴重です。業界の動きや他社の取り組みが見えてきますし、困ったときに相談できる人が増えるんじゃないでしょうか。
キャリアの選択肢が広がる
これは長期的な話になります。登壇を続けていると、時々こういう声がかかるらしいです。「今度うちのイベントでも話してもらえませんか?」「うちで一緒に働きませんか?」。別に転職活動をしているわけじゃなくても、選択肢が増えます。
今の会社で働き続けるにしても、「他でもやっていける」という自信がつくと、精神的に楽になります。無理な働き方を強いられても、「別にここじゃなくてもいい」と思えます。これって、会社員にとって大事なことだと思います。
登壇しやすいテーマって何だろう
採用担当者の悩みに戻ります。「どんなテーマなら登壇者が話しやすいですか?」
自分が登壇するとしたら、どんなテーマなら話せるでしょう。ある程度経験を積んだエンジニアなら、こういうテーマが話しやすいんじゃないでしょうか。
失敗談とその後
最新技術のキャッチアップより、現場での泥臭い話の方が共感されます。「こういう設計にしたら失敗した」「レガシーシステムとどう向き合ったか」「技術的負債をどう返済していったか」。こういう話は、誰にでも経験がありますし、話しやすいです。しかも聴講者も「うちも同じだ」と共感してくれます。
キャリアの転換点
ある程度経験を積んでいれば、何度かキャリアの選択をしているはずです。「プレイヤーからマネージャーになった話」「SIerからWeb系に転職した話」。こういう経験談は、同世代の人にとって参考になります。自分のキャリアを振り返る良い機会にもなります。
組織での取り組み
個人の技術力より、チームや組織でどう動いたかという話。「コードレビュー文化をどう作ったか」「レガシーコードに自動テストを導入した話」「開発プロセスを改善した話」。こういうテーマは、技術だけじゃなく、人や組織との関わりが出てきます。ある程度経験を積むと、こういう話ができる立場になってきます。
聴講者が聞きたいこと
自分がイベントに参加したときのことを思い返すと、こういうことを知りたいと思っていました。
同じような立場の人がどうやっているか
自分と同じくらいの立場の人が、どういう働き方をしているのか。技術とどう向き合っているのか。「この年代でもコード書き続けてますか?」「マネージャーになっても技術を追いかけていますか?」。こういう素朴な疑問に答えてくれる話は、聞いていて参考になりました。
現場のリアルな話
理想論じゃなくて、実際にどうやって乗り越えたかという話。完璧な設計の話より、「こういう制約の中でこう工夫した」という話の方が役立ちました。同じような課題を抱えているとき、具体的なヒントになります。
その人の考え方
技術の話も大事ですが、その人がどういう考え方で仕事をしているのかが見えると面白かったです。「なぜその選択をしたのか」「何を大事にしているのか」。こういう価値観が見えてくると、自分の働き方を見直すきっかけになりました。
登壇のハードルを下げるには
とはいえ、いきなり大きなイベントで話すのはハードルが高いです。段階的に始めるといいでしょう。
社内勉強会から
まずは社内の勉強会で話してみます。身内だから気楽ですし、フィードバックももらいやすいです。10分くらいの短い話から始めて、徐々に慣れていきます。
小規模な勉強会に参加
次は社外の小規模な勉強会。参加者10〜20人くらいのイベントなら、それほどプレッシャーもありません。テーマも肩の力を抜いたもので大丈夫です。「最近試してみた技術」とか「ちょっと困った話」とか。
LT(ライトニングトーク)に挑戦
5分間のLTは、資料も少なくて済みますし、準備も楽です。何度かLTをやって場慣れすると、そのうち20〜30分の発表にも挑戦できるようになるでしょう。
まとめ
会社員がテックイベントに登壇するメリット。直接的な金銭的リターンはないかもしれません。でも、長い目で見たときのリターンは大きそうです。
- 自分のスキルを整理して言語化する力
- 社内での評価と信頼
- 技術コミュニティでの人脈
- キャリアの選択肢を広げる
自分の経験を言語化して人に伝えるという経験そのものが、エンジニアとしての成長につながります。フリーランスと違って、即座に仕事につながるわけじゃありません。最初は緊張しますし、準備も大変でしょう。でも、その経験はきっと自分の財産になるはずです。
会社がイベントを企画していて登壇者を探していたら、自分も手を挙げてみようかなと思います。