はじめに
- この記事は「社会人学生 Advent Calendar 2025」の22日目の記事として投稿しています
- 記事の趣旨は「社会人博士学生として働きながら学位を取ろうとしたとき、どういった生活をしているのか、どんな感じで研究してるのか、どのようにして留年したのか」の1例を伝えることです
- 主に修士課程の方、社会人になった後で博士課程進学を考えている方、進学してすぐくらいの方を対象に書いています
- 筆者は材料系の研究者なので、観測・報告の範囲はそのあたりバイアスがかかっています
進学の経緯
修士課程で研究活動というものに少しだけ触れた後に素材系のメーカーで働く中で、業務の中では追求しきれない部分にもっと手をいれたいという思いが強くなり、共同研究先と会社に無理を言って社会人博士(社D)として進学をしました。
もともと博士課程後期課程への進学(D進)には興味があったのですが、修士を出る時点でストレートに博士課程後期に進学していた場合にD進後にまともな進路を歩める気がしなかったうえに、金銭面で余裕がなかったため就職しました。しかし働く中でアカデミアでの研究活動の魅力を再確認し、また将来的に研究職にありつける可能性を増やしたい気持ちも大きくなっていたところで、社会人としてD進できる機会を得たので後先を考えず進学した形です。
今から振り返ると、もっと計画的に進学するべきだったと思いますが、正気ではD進しなかっただろうと思うので、後先を考えないことも重要だったと思います。
そんなわけで後先考えずにD進したら、なんとオーバードクター3年目に突入しました。
どんな生活してるの?
以前アドカレを書いた時以降、直近数年については記録を付けており、何にどのくらいの時間を使っていたかを図にまとめました(各数字はだいぶぼかしていますが大枠はこんな感じです)。

労働の時間:平日の過ごし方
平日は労働した後でちょっと研究するだけで終わります。月の残業は40時間程度、土日祝は完全にお休み、業務のうちの一部が研究に回せている感じです。業務内容と研究内容を完全に分けることは難しく、体感として業務の中で10%程度は研究と関連のあることをしている気がします。幸いなことに、業務関連の連絡事項が19時以降にくることは稀なので、連絡等々が落ち着いてから、本格的な実験の時間がはじまります。
博論の時間:休日の過ごし方
土日は博論関連のタスク(サーベイ、実験、論文執筆)で埋まります。土日合計すると、だいたい平均して12-13時間程度は研究に時間使っています。ただ、体力的な問題から金曜の帰宅後~土曜の夕方までは完全なお休みにしており、そこまで大きく時間を使っているわけではありません。また図には記載していませんが、1か月に1回くらいはイベントに行ったり、美術館にいったりして遊んでいました。
自身のいる研究分野やテーマの影響は大きいですが、一番大事な土台は体力、二番目は忍耐、三番目は計画性だと思います。自分にはこれらが不足しており、めちゃくちゃ留年しています。もちろん、つねにこの生活を送れているわけでは無く、会社の繁忙期やお疲れ度合いにもかなり左右されます。全然やる気でなくて手につかないな、みたいな時も結構多いです。
学会関連のタスク
また研究とは関係ありませんが、有志で学会を主催しており、それ関連のタスクも記載しています。全体に対してはあまり大きなウェイトを占めてはいませんが「息抜きとして楽しみつつ多少は負担あるなー」くらいの重さです。ほぼ趣味です。体感としてですが社会人Dでも何かしらひとつくらいの趣味は回せると思います。
じゃあこれで3年間過ごせば博士論文を書けるのかと言われると『否』で、めちゃくちゃに留年をしてしまっています。また留年しちまったってのか…!? かわいそうなLcamu…!!ひとえにてめェが弱ェせいだが…
どんな感じで研究してるの?
入学してからやる必要なことは、授業を受けて単位を取ることと、論文を書くことです。論文を書くためには、サーベイをして、実験を行い、論文を執筆する必要があります。また、定期的にゼミにも出る必要があります。可処分時間をどんな感じで割り振っていたのかを書いていきます。一部、前項と重複した説明があります。
授業は?/ ゼミは?
弊学は幸いなことに、1年次に詰め込めばうまいこと単位を取り切れるよう授業が設計されており、そこですべての単位を取り切りました。一方で1年次はあまり研究が進まなかった年でもあります。
ゼミ(雑誌会、報告会)は出たりでなかったりです。というのもガッツリ業務時間中に行うので、スケジュールによっては参加できない場合も多く、行ける時にしか行けていないです(申し訳ないしもったいない)。
いつ実験しているの?
主に業務時間の一部として平日にやりつつ、あとは土日です。企業のR&Dではメインの業務と並行して実験を行い、自社の成果を元に学会発表を行ったり技報を書いたりすると思うのですが、それに近いイメージかと思います。前述のグラフではオレンジ色の部分の一部と、緑色の部分の一部がこれに該当します。業務でつかうところと不可分な実験もあり、そちらはオレンジ色の部分の一部が該当しています。
土日に行う実験関連の作業は、論文用の実験計画を立てたり、論文用に実験データを切り分け整理したり、分析用のコード書いたりが主です。実験作業を行うのはまれです。
いつサーベイして、いつ論文を書けるの?
どれも土日にやっています。あとは、繁忙期以外でかつ体力的に余裕があれば平日の業務終了後にもやっています。正直、サーベイの時間はそこまで取れません。そもそも動きの遅いテーマを選択する必要があります。サーベイの浅さと実験や論文化に割ける時間の少なさから、数か月~1年でSotAが入れ替わるAIや太陽電池等の競争が早い領域で勝負するのは厳しいです(少なくとも自分には)。最初にある程度テーマを絞り込んで、人と競い合わないようにした方が良いと考えています。自分はやっているテーマにあまり人気がなかったので、この分析は後付けの理論ではありますが、そこまで外していないと思います。
論文の執筆については、AIでの壁打ちが無ければ全然進められなかったと思います。ど深夜や休日でも気にせず球を投げられること、専門ではない領域に一歩足を踏み出すための強力な補助輪であり、もはや欠かせないツールになっています。自分はコーディングが得意な方ではないので、そこを支えてくれるのも相当にありがたいです。なんと最近のAI氏は実験計画法も収めていらっしゃるので、では自分の役割とはなんぞやと思わないこともないくらいです。皆さんはAIとどうつきあっていますか?めちゃくちゃ気になります。
理論上もっと時間を捻出できるとは思うのですが、習慣化もできていないうえに意思が弱く、なかなか時間を作れてはいないところです。「毎日継続して書き続ける」ができていない…
学生の指導とかはしているの?
全然できていません、むしろめっちゃお荷物になっています。ごくたまーに研究室にやってくるよくわからん年上の人ってたまにいるじゃないですか、あれが私です。実験スペースは会社の設備を使っており、ゼミもzoomでの参加になるので、そもそも通学できる機会が稀です。研究室に所属させては頂いておりますが、私のコミュニケーションスキルでは外様から先に進めてはいないのが現状です。大変申し訳ないです。
どのようにして留年したの?
かなり気をつけないと、様々な要因により容易に留年します。そろそろ留年3年目に突入します。自分の観測範囲内でも、3年で卒業できた事例はごくまれで、その方もウルトラスーパーマンでした。弊学では休学も駆使すれば結構な年数在籍できるのですが、そのくらいの覚悟をした方がいいです。
とはいえ留年の年数を減らすことは可能だと思いますので、自分の失敗要因を並べておきます。
時間の使い方!へたっぴさ……!時間の使い方がへた…
まず1点目は見積もりの甘さで、「そもそも社会人Dには時間がない」ということをもっと深刻にとらえておくべきでした。初めの1-2年は、元々ある程度のデータを積み立てていたこともあり、かなり余裕に感じていました。ゆっくり時間をかけて論文を書き、追試を行い、ひっ迫感がなかったのです。しかし、人生は何が起こるかわからないもので、後述の理由により一気に余裕がなくなりました。元々からこんなに余裕綽々でいるべきではなく、できる時にやれる最大限の力でやり切っておくべきでした。また作業の効率も良い方ではなく、作業の手戻りも数多く発生していました。「決める必要のある時に一発で決め切る」という力が必要でしたが、シンプルに自分には不足していました。仮説検証における仮説を作る部分で精度が低かったこと、段取り力が低く想定外が頻出したことが数々のスケジュールを後ろに倒してきました。
2点めに、体を壊すリスクや、加齢による体力の低下を舐めて計画を立てていたことも大きくました。一度社会人を経る社会人Dは必然的に30歳を超えることが多くなるかと思いますが、30歳を越えてからの衰えは想定以上でした。常にデバフで15%くらい、何かのパラメタが削られています。とくに腰が逝ってしまった影響は大きく、直るまでに結構な時間がかかったうえに再発を恐れて無理ができなくなりました。
最後3点目に、休まないと仕事できないタイプだったことも大きいです。どんなに忙しくても推しの配信を見たりする余暇の時間がないと頑張れなかったり、疲れを押して作業することができなかったりで、習慣化を上手く回せなかったりサボってしまったりが今でも足を引っ張っています。
というわけで、時間の見積をうまく立て早め早めで論文を書き、健康な体を維持し、さぼらないための習慣化を行うことが、留年回避のためには重要だと考えています。
研究内容の変更
労働と不可分な研究をしていると、研究内容に自分以外の思惑が入り込んできます。場合によっては研究テーマを変えなくてはならず、自分の場合は様々な様々により2年目の最後の方でテーマの変更を行いました。
D進前からある程度研究が進んでいたネタが8割ほど使えなくなり、かつその当時までやっていた内容もほぼ白紙に戻りました。一方、こういうことがあり得る予感は途中からあり、水面下で別のネタも仕込み始めていたため、そちらに軸足を切り替えて研究を再開しました。とはいえ新テーマでちゃんと研究を進められるようになるのには1年ちょっとかかりました(今思うとさっさと休学しておけばよかった)。
業務内容をすべて公開するわけにはいかないので、特許化できる部分とノウハウとして黙する部分をうまくわけつつ、論文として公開してもよい部分を作っていく必要があり、うまいこと研究テーマを公開できる形に調整するにはそれなりの時間がかかりました。
というわけでいつ何がおこるかわかりませんので、研究のネタは複数持っておきましょう。できれば「サイアク自分で予算と設備を確保してなんとか回せるかな」くらいの大きさのテーマをひとつ持っておくと取り回しがきいてよきです。無駄になることはないと思います。
相談を後回しにしたこと
自分の状況を客観視して、研究内容を切り替える / 作業の手戻りが無いように進める、といった決断をしきれなかったことが結構足を引っ張っていた実感があります。判断が遅い。相談して初めて気がつくこと/指摘してもらえることが多い半面、中々通学できないので雑談→相談というルートを確保しにくいことで相談の機会をうまく作ることができませんでした。もっと積極的にコミュニケーションをとっていく必要がある…
もっとディスカッションの機会や相談の機会を増やしておくべきで、これは今日からもっとやっていきたいと思っています。
以上の3点が留年した理由であり、ここまで留年を長引かせている理由だと考えています。反面教師で使ってくれると嬉しいです。まだ学位を取れる芽はあるので、なんとか頑張っていこうと思います。
その他:できなかったがやってみたかったこと
まず、興味あるけどかじってなかった、くらいの距離感の分野を学びなおそうとしていましたが、全然できませんでした。そいつらはそのまま放置されています。思った以上に時間が取れず、授業にもぐり込んだり自主ゼミを継続したりができませんでした。毎日論文呼んで要約する、みたいなやつもできなかった…
2つ目に、ゼロから新しい研究を、一つくらいはやってみたかったのですが、これもできなかったです。入学前の時点で積み上げがある程度あるか、先行研究に対してかなり知見が深い研究でないと、手を付けている余裕はないです。
最後に、マテリアルズインフォマティスク的な手法(実験の全自動化など)にも挑戦してみたかったのですが、自分の力ではやり切れませんでした。可処分時間の関係で実験の回数を増やしまくって何とかする、というやり方は取りにくかったので、ハイスループットな実験系を組んでガンガンサイクルを回す、というのをしたかったのですが、片手間で出来るような負荷では無かったです。Arduinoをちょっと使う程度で止まってしまった…
おわりに
以上が留年しまくっている社会人Dの内情報告になります。キラキラした報告はよく見るのですが、ダメダメなタイプの報告があまり世に出ていない気がしたので、N=1ではありますが何かの参考になればと思い記事を書きました。ここまでお目通しいただきありがとうございました!