1.はじめに
この記事は後編になります。前編を読んでいない方は前編から読むことをおすすめします。
前編↓
ペンローズのグラフ記法でベクトル解析の計算をシンプルにしよう〜前編.微分演算子を含まないもの〜
2.定義
微分演算子についても定義していきます。
2-1.grad演算子
微分は円で表現します。gradはスカラーからベクトルを作り出す操作なので、下のように表します。
2-2.div演算子
divはベクトルからスカラーを作り出す微分演算子なので、下のように表すことにします。
ただし、上図の右辺はA・∇ではありません。あくまで微分する対象を円の中に入れることに注意してください。
(A・∇)Bのようなものを表したいときは、下のようにします。
また、演算子∇・∇は、ラプラシアンとよばれ、Δで表されます。
ベクトルのラプラシアンは、各成分についてラプラシアンを取ったものとします。
2-3.rot演算子
rotはベクトルからベクトルを作り出す微分演算子なので、下のように表すことにします。
外積の入れ替え操作に似たようなことができますが、ここでも、右辺の式はA×∇ではないことに気をつけてください。右辺のままでは意味が通らないので-1倍して回転とみなすことがよくあります。
3.許される操作について
3-1.Leibniz則
微分を表す円の中に2つの要素が入っている時は、積の微分公式:(fg)' = f'g + fg'に対応する操作を行うことができます。例えばスカラーであれば、
が成り立ちます。スカラー以外でも同様のことができます。
3-2.2階微分
物理の文脈では普通は全ての関数がC^2級であることを仮定するので、これに対応したことを行うことができます。つまり、円が二重になっているときは、内側の円と外側の円を入れ替えることができます。具体例は後述します。
4.公式一覧
まずは、Leibniz則を用いたものを示します。
4-1.積の発散
3-1.で紹介したLeibniz則を用いて示すことができます。
4-2.積の回転
4-3.外積の発散
ポインティングベクトルを導入するときなどに現れます。
まずは、Leibniz則より展開します。展開後の第1項はBの回転を取るように外積の入れ替え操作をするので、-1倍されます。
4-4.外積の回転
1つめの等号では、前編で紹介した公式を用いています。その後、Leibniz則で展開します。
4-5.内積の勾配
1つめの等号ではLeibniz則で展開しています。展開後の式の解釈が難しいので、2つめの等号で前編で紹介したベクトル三重積の公式を逆向きに使います。さらに、第2項では∇×AとBの外積を取る順番を変えて、第4項ではBの回転を取るように外積の入れ替え操作をします。
ここからは、2階微分を含むものについて取り上げます。
4-6.回転の回転
静磁場のベクトルポテンシャルを考える時に現れます。
1つめの等号では公式を用いて分解し、第1項について微分の順序の入れ替え操作として、円の入れ替えを行います。
4-7.勾配の回転
静電ポテンシャルを導入するときに現れます。
1つめの等号で、外積の入れ替え操作をします。2つめの等号では円の入れ替えを行います。右辺が左辺の-1倍であることがわかるので、0であることが示されます。
4-8.回転の発散
静磁場のポテンシャルを考えるときに登場します。
1つめの等号で円の入れ替えを行います。このとき、外側にあった円は発散を表しているので、向きを変えても値は等しいです。2つめの等号ではひもを読み変えて、内側で回転を取っていると解釈します。3つめの等号ではAの回転を取るように外積の入れ替え操作をします。右辺が左辺の-1倍であることがわかるので、0であることが示されます。
5.おわりに
頻出の公式は網羅したつもりですがこれ以外のものも同様に考えて示すことができると思います。
公式暗記に煩わされることのない電磁気ライフを!