1.はじめに
ベクトル解析の公式をペンローズのグラフ記法と呼ばれる方法で導出する方法を紹介します。
本記事では前編として、微分演算子を使わない場合を扱います。
注:なぜこの方法でうまくいくのかについては触れないので、気になる方はペンローズダイヤグラムなどで調べてください。
2.定義
2-1.スカラーとベクトル
スカラーは□で囲います。ベクトルは□で囲って、ひもをつけます。
2-2.スカラー積
2-3.ベクトルの内積
ベクトルの内積は、ベクトルのひも同士をつなげたものとします。ひもの端同士がつながるので、ベクトルの内積はスカラーになることに対応しています。
2-4.ベクトルの外積
ベクトルの外積は、ベクトルのひも同士をつなげて、上に新たにひもを生やしたものとします。ひもの端が1本残るので、ベクトルの外積はベクトルになることに対応します。左右の成分を入れ替えると-1倍されます。
3.許される操作について
公式を証明するために用いてもよい操作について解説します。
3-1.ひもを回転させたり、伸ばしたりする。
ベクトルの内積の交換法則がわかります。ベクトルの外積については交換法則は満たされないことがわかります。また、ひもを伸ばしたり曲げたりする操作も自由に行えます。ただし、他のひもをまたいだりしてはいけません(これを許すと、外積の反対称性が保たれなくなってしまいます)。
3-2.公式
下のような関係がなりたちます。ベクトル三重積の公式を示す時などに役立ちます(後述)。
4.公式一覧
公式を可能な限りまとめておきます。図と一緒に理解しておきましょう。
4-1.スカラー三重積
3つのベクトルが成す平行六面体の体積という意味付けがなされます。
4-2.ベクトル三重積
応用例は滅多に見かけないです(慣性力を扱う時ぐらい)が後述のヤコビの恒等式のために必要です。
4-3.ヤコビの恒等式
解析力学のPoisson括弧や量子力学の正準交換関係などにも現れます。Lie代数と関係があるらしいです。
暗記したくない四重積も以下のように簡単に導出することができます。
4-4.スカラー四重積
4-5.ベクトル四重積
5.次回予告
この時点ではまだありがたみが薄いですが、微分演算子についても同様の表記を用いて様々な公式を考えることができます。次回は微分演算子を含む場合について解説します。