はじめに
マイクロサービスアーキテクチャでは、エンジニアを夜も眠れなくする問題があります——ビジネスシステムをどのように分割するか?
細かく分けすぎると依存関係が蜘蛛の巣のように複雑になり、粗すぎると性能・拡張性・耐障害性が犠牲になります。
そこで、第一原理に立ち返り、各分割の真の価値を科学的に評価する方法を考えます。
1. 第一原理の観点から見たマイクロサービス分割
第一原理とは、複雑な問題を最も基本的な事実まで分解し、そこから解決策を再導出することです。
マイクロサービス分割で考える基本事実は以下です:
- サービスが独立して変更・デプロイできるか
- 高負荷・ホットスポット業務が単独でスケール可能か
- 障害が他システムに波及しないか
- チームが独立して開発・運用できるか
- 将来の業務・技術の進化に耐えられるか
分割の価値判断は直感ではなく、最も基本的なデータと呼び出し事実に基づく必要があります。
2. 5つの視点による分割価値評価
主観を減らすために、以下の5つの視点で分割価値を定量化します(0〜5点):
視点 | 指標例 | データソース | 説明 |
---|---|---|---|
ビジネス独立性 | DBの独立性、業務ロジックの結合度、変更頻度 | ER図、呼び出しチェーン、変更ログ | 独立しているほど高得点 |
チーム協調性 | チーム間依存数、コミュニケーションコスト | Jira/チケットデータ、チーム規模 | 独立しているほど高得点 |
拡張性 | ピーク負荷比率、単独サービスのスケール能力 | 負荷テスト、監視データ | 高負荷を単独でスケール可能なら加点 |
耐障害性 | 呼び出しチェーン長、連鎖障害確率、可観測性 | 呼び出しチェーン監視、ログ | 影響範囲が小さいほど得点 |
進化の柔軟性 | 機能追加頻度、技術変更の影響範囲 | 変更記録、バージョンログ | 柔軟であれば高得点 |
3. 分割コストとリスク分析
分割は無料ではなく、コストとリスクの評価が必要です:
ビジネスユニット | 分割のメリット | 分割コスト | 純利益 |
---|---|---|---|
注文システム | 高(独立デプロイ、高負荷分離) | 中(分散トランザクション、運用複雑化) | 高 |
コメントシステム | 中(独立した機能追加可能) | 高(呼び出しチェーン複雑、メッセージ依存多) | 低 |
ユーザーシステム | 高(チーム自治明確) | 中 | 高 |
分割コストには以下が含まれます:
- アーキテクチャ複雑度の増加
- データ一貫性・トランザクション処理の複雑化
- 運用・監視の負荷増大
- ネットワーク呼び出し、メッセージの嵐リスク
比喩すると、サービスの分割は部屋を分けるようなもので、内装コストと将来の保守も考慮する必要があります。
4. データ駆動のドメイン分析と動的モデリング
より科学的な分割判断のため、ドメイン駆動設計(DDD)とデータ分析を組み合わせます:
- ドメイン境界の特定:Bounded Contextを用いて、どのビジネスユニットを分割する価値があるかを判断
- データによる裏付け:呼び出しチェーン、テーブル依存、変更頻度などでビジネス独立性と進化の柔軟性を定量化
- 動的モデリング:ビジネス成長、季節性負荷、チーム規模変化を考慮し、スコアの時間変化を可視化
-
実例検証:
- 注文システム:高負荷、データ独立、業務ロジック複雑 → 分割価値高 - コメントシステム:注文・ユーザー依存が強く呼び出しチェーン長い → 分割メリット低
マイクロサービスは子どもの成長のようなもの。今日まだ歩き始めの中台も、明日には独立したビジネスデータウェアハウスになるかもしれません。
5. 実践ステップとケース検証
実践ステップ:
- ビジネスユニットを列挙し、ドメインごとに初期リストを作成
- 5次元で定量スコアを付与
- 分割コストとリスク分析を行い、コスト-利益表を作成
- 動的モデリングでビジネス成長・トラフィック変化を考慮
- 反復レビューし、ビジネス成長に応じてサービス境界を調整
ケース検証:
- Sam Newman『Building Microservices』:注文システムを分割後、デプロイサイクルは1週間から1日に短縮、障害隔離効果も明確
- Chris Richardson『Microservices Patterns』:コメントシステムは分割失敗、呼び出しチェーン長くメッセージ依存が多く運用負荷増大