はじめに
小売業において、顧客の購買行動を理解することは売上向上の鍵となります。本記事では、ID-POS分析の中でも特に活用価値の高い併売分析(バスケット分析)について解説します。
対象読者
- 小売業のデータ分析担当者
- マーケティング戦略立案に携わる方
- 店舗運営・売場づくりに関わる方
前提知識
- POSデータの基本的な理解
- Excelやデータ分析ツールの基本操作
併売分析(バスケット分析)とは
分析手法の概要
併売分析とは、「ある商品を購入した顧客が、同時にどのような商品を購入しているか」を明らかにする分析手法です。顧客の買い物かご(バスケット)の中身を分析することから、バスケット分析とも呼ばれています。
この分析により、以下のような知見を得ることができます:
- 商品間の関連性の発見
- クロスセリングの機会特定
- 効果的な売場レイアウトの設計
なぜID-POSデータが重要なのか
従来のPOSデータでは「何がいつ売れたか」しかわかりませんでした。しかし、ID-POSデータを活用することで、顧客単位での購買行動を追跡できるようになります。
分析の仕組みとデータの見方
マトリクス(ヒートマップ)の読み方
併売分析の結果は、通常マトリクス形式のヒートマップで可視化されます。これにより、2つのカテゴリー間の同時購入の多さを直感的に把握できます。
| 構成要素 | 説明 |
|---|---|
| 縦軸 | 分析対象の商品カテゴリー(例:化粧品) |
| 横軸 | 併売対象の商品カテゴリー(例:サプリメント) |
| 数値 | 同時購入された回数(対象レコード数) |
| 色の濃淡 | 併売頻度の高低(濃い=多い、薄い=少ない) |
具体例:化粧品×サプリメントの併売傾向
以下は、ドラッグストアにおける化粧品カテゴリーとサプリメント・ドリンクカテゴリーの併売分析結果の例です。
| 商品名 | エネルギー補給サプリメント | 美容サプリメント | 栄養ドリンク |
|---|---|---|---|
| 化粧水 | 128 | 280 | 75 |
| 乳液 | 56 | 196 | 133 |
| 美容液 | 183 | 275 | 47 |
この結果から読み取れる重要な傾向:
💡 発見ポイント
スキンケア用品(特に化粧水や美容液)を購入するお客様は、同時に美容サプリメントを購入する傾向が非常に強い
この知見は、売場づくりやプロモーション戦略に直接活用できます。
分析結果の活用方法
併売分析の結果は、主に以下の3つのマーケティング戦略に活用されます。
1. 商品陳列の最適化
一緒に買われやすい商品を近くに配置することで、「ついで買い」を誘発できます。
実施例:
- 化粧水売場の近くに美容サプリメントを配置
- 「一緒に買われています」POPの設置
- エンド陳列でのセット展示
2. 顧客導線の見直し
関連性の高い商品を戦略的に配置することで、店内回遊を促進できます。
| 戦略 | 目的 | 効果 |
|---|---|---|
| 近接配置 | 利便性向上 | 購入率アップ |
| 離散配置 | 回遊促進 | 他商品への接触増加 |
| ゴールデンライン配置 | 視認性向上 | インパルス購買促進 |
3. プロモーション戦略への応用
併売データを活用した効果的なキャンペーンを企画できます。
プロモーション施策例:
- 🎁 セット販売: 化粧水+美容サプリのお得セット
- 🏷️ クーポン連動: 化粧水購入時に美容サプリ割引クーポン配布
- 📱 アプリ通知: 購買履歴に基づくパーソナライズドレコメンド
実際の分析画面とドリルダウン分析
実務では、分析ツールを使って段階的に詳細を掘り下げていきます。
分析のステップ
Step 1: 商品群の選択
分析したい商品カテゴリー(例:ワイン)を選択します。期間や店舗の絞り込みも可能です。
Step 2: 併売商品の一覧表示
選択した商品と一緒に購入されているカテゴリーが、購買数や構成比率とともにリスト化されます。
| 商品群名称 | 購買数 | 構成比率 |
|---|---|---|
| チーズ | 2,852 | 24.9% |
| ビール | 1,130 | 9.8% |
| ワイン | 1,921 | 17.2% |
| 菓子 | 1,674 | 14.6% |
Step 3: ドリルダウン(詳細化)
さらに項目を選択することで、具体的な商品名レベルまで絞り込んで確認できます。
例:チーズカテゴリーのドリルダウン結果
| 商品名 | 購買数 |
|---|---|
| カマンベール | 614 |
| ピーマン | 524 |
| グラス | 504 |
| 発泡酒 | 502 |
よく使われる指標(信頼度・リフト値)
併売分析をより深く活用するために、以下の3つの指標を理解しておくことが重要です。
1. 支持度(Support)
全取引の中で、特定の商品の組み合わせが出現する割合です。
$$
\text{支持度} = \frac{\text{AとBを同時に購入した取引数}}{\text{全取引数}}
$$
解釈: 値が高いほど、その組み合わせが頻繁に発生している
2. 信頼度(Confidence)
商品Aを購入した顧客のうち、商品Bも購入した割合です。
$$
\text{信頼度} = \frac{\text{AとBを同時に購入した取引数}}{\text{Aを購入した取引数}}
$$
解釈: 「Aを買った人がBも買う確率」を示す
3. リフト値(Lift)
商品Aの購入が商品Bの購入に与える影響度を示します。
$$
\text{リフト値} = \frac{\text{信頼度}}{\text{Bの購入確率}}
$$
| リフト値 | 解釈 |
|---|---|
| > 1 | AがBの購入を促進している |
| = 1 | AとBは独立している(関連なし) |
| < 1 | AがBの購入を阻害している |
💡 実務でのポイント
リフト値が高く、かつ支持度もある程度高い組み合わせを優先的に施策に活用しましょう。リフト値だけが高くても購入数が少なければ効果は限定的です。
まとめ
要点の振り返り
本記事では、ID-POS分析における併売分析(バスケット分析)について解説しました。
- 併売分析の目的: 顧客の同時購買パターンを発見する
- データの見方: ヒートマップで視覚的に傾向を把握
- 活用方法: 陳列最適化、導線設計、プロモーション企画
- 重要指標: 支持度、信頼度、リフト値で分析を深化
導入のポイント
- まずは売上上位カテゴリーから分析を開始
- 仮説を持って分析に臨む(例:「化粧品と健康食品は関連がありそう」)
- 分析結果を必ず施策に落とし込み、効果検証を行う
- 季節変動も考慮した継続的な分析が重要
併売分析は、データに基づいた意思決定を可能にする強力なツールです。ぜひ自社のID-POSデータを活用して、売上向上につなげてください。