はじめに
マーケティング予算を管理する上で、「販促費用」と「広告宣伝費」の区別は重要です。しかし、この2つの費用区分によって追うべきKPI指標が異なることを意識しているマーケターは意外と少ないのではないでしょうか。
本記事では、販促費用と広告宣伝費の違いを整理した上で、メーカーとリテール(小売)それぞれの立場から注目すべきKPI指標を体系的にまとめます。
対象読者
- マーケティング担当者
- 経営企画・予算管理担当者
- メーカーの営業企画担当者
- 小売業のマーケティング責任者
前提知識
- マーケティングの基礎用語
- 会計における費用区分の概念
販促費用と広告宣伝費の基本的な違い
会計処理上の違い
| 項目 | 広告宣伝費 | 販促費用(販売促進費) |
|---|---|---|
| 主な目的 | ブランド認知・イメージ向上 | 短期的な売上促進 |
| 対象 | 不特定多数 | 特定の顧客・取引先 |
| 効果測定期間 | 中長期 | 短期 |
| 勘定科目 | 広告宣伝費 | 販売促進費・販売手数料 |
目的と効果の違い
広告宣伝費は「知ってもらう・好きになってもらう」ための投資であり、販促費用は「今すぐ買ってもらう」ための投資と捉えるとわかりやすいですね。
KPI指標を考える4つの観点
マーケティング効果を測定するKPIは、大きく4つの観点で整理できます。
| 観点 | 代表指標 | 目的 |
|---|---|---|
| 認知・態度 | 認知率、想起率、好意度 | 知ってもらえたか |
| 行動 | 来店、検索、サイト訪問 | 行動が起きたか |
| 購買 | 購買率、売上、客数、LTV | 実際に買われたか |
| 効率 | CPA、ROAS、ROI | 費用対効果は良いか |
認知・態度(知ってもらえたか)
主に広告宣伝費の効果測定で重視される指標です。
- 認知率(Awareness Rate): ブランド名を知っている人の割合
- 純粋想起率(Unaided Recall): ヒントなしで思い出せる割合
- 助成想起率(Aided Recall): ヒントありで思い出せる割合
- 好意度(Favorability): ブランドへの好感度
行動(行動が起きたか)
認知から購買への中間指標として重要です。
- 来店数: 実店舗への訪問者数
- 検索数: ブランド名・商品名の検索ボリューム
- サイト訪問数: 公式サイトへのアクセス数
- エンゲージメント率: SNSでのいいね・シェア・コメント率
購買(実際に買われたか)
最終的なビジネス成果を測る指標です。
- 購買率(Conversion Rate): 購入に至った割合
- 売上金額: 期間内の総売上
- 客数(Traffic): 購入した顧客の数
- LTV(顧客生涯価値): 一顧客あたりの累計売上
効率(費用対効果は良いか)
投資効率を評価する指標です。
- CPA(Cost Per Acquisition): 顧客獲得単価
- ROAS(Return On Ad Spend): 広告費用対効果
- ROI(Return On Investment): 投資利益率
メーカー視点で注目すべきKPI指標
メーカーは自社ブランドの価値向上と販売拡大の両方を追求します。広告宣伝と販促の両方を行うため、それぞれで異なるKPIを設定する必要があります。
ブランド認知向けのKPI(広告宣伝費)
| 指標 | 説明 | 目標例 |
|---|---|---|
| 認知率 | ターゲット層における認知の割合 | 60%→70% |
| 想起率 | カテゴリ想起時の順位 | 3位→2位 |
| 好意度 | ブランドへの好感度スコア | 4.0/5.0 |
| SOV(Share of Voice) | 広告露出シェア | 業界内15% |
| 検索数推移 | ブランド検索の増加率 | 前年比120% |
購買促進向けのKPI(販促費用)
| 指標 | 説明 | 目標例 |
|---|---|---|
| 配荷率 | 取扱店舗の割合 | 80% |
| 店頭シェア | 棚割りにおける占有率 | 25% |
| トライアル率 | 新規購入者の割合 | 10% |
| リピート率 | 再購入した顧客の割合 | 40% |
| 販促ROI | 販促費用あたりの売上増分 | 300% |
メーカーのKPI設計フロー
リテール(小売)視点で注目すべきKPI指標
リテールは店舗への集客と購買促進が主な目的となります。広告宣伝費よりも販促費用の比重が高くなる傾向があります。
来店・集客向けのKPI
| 指標 | 説明 | 目標例 |
|---|---|---|
| 来店客数 | 店舗への訪問者数 | 1日500人 |
| 新規来店率 | 初来店客の割合 | 15% |
| チラシ反応率 | チラシ配布あたりの来店率 | 2% |
| アプリDL数 | 店舗アプリのダウンロード数 | 月1,000件 |
| 会員獲得数 | 新規会員登録者数 | 月500人 |
購買・客単価向けのKPI
| 指標 | 説明 | 目標例 |
|---|---|---|
| 客単価 | 1回あたりの購買金額 | 2,500円 |
| 買上点数 | 1回あたりの購入点数 | 5点 |
| 購買頻度 | 月あたりの来店回数 | 月3回 |
| クロスセル率 | 関連商品の同時購入率 | 25% |
| LTV(顧客生涯価値) | 年間購買金額の合計 | 年間50,000円 |
販促施策の効果測定
| 施策タイプ | 主要KPI | 補助KPI |
|---|---|---|
| クーポン | 利用率、売上増分 | 粗利率、新規獲得数 |
| ポイント還元 | ポイント発行額、償還率 | リピート率、客単価変化 |
| タイムセール | 対象商品売上、来店数増加 | 非対象商品売上、滞在時間 |
| 店頭POP | 対象商品売上増分 | 棚前通過率、手に取り率 |
メーカーとリテールの連携指標
共同販促におけるKPI設計
メーカーとリテールが共同で販促を行う場合、双方の利害を調整したKPI設計が重要になります。
立場別KPI比較表
| 観点 | メーカーの重視指標 | リテールの重視指標 | 共通指標 |
|---|---|---|---|
| 認知・態度 | 認知率、想起率、好意度 | 店舗認知率、来店意向 | エリア認知率 |
| 行動 | 検索数、サイト訪問 | 来店数、アプリ利用 | チラシ反応率 |
| 購買 | トライアル率、リピート率 | 客数、客単価、買上点数 | 売上増分、購買率 |
| 効率 | ROAS、ブランドROI | 販促ROI、粗利率 | 共同販促ROI |
データ共有とPDCAの回し方
効果的なKPI管理のためには、メーカーとリテール間でのデータ共有が欠かせません。
共有すべきデータ
- POS データ: 売上、客数、購買商品の組み合わせ
- ID-POS データ: 顧客属性、購買履歴、リピート率
- 広告効果データ: 広告接触者の購買率比較
- 店頭データ: 棚前通過率、商品接触率
PDCAサイクル
| フェーズ | メーカー | リテール |
|---|---|---|
| Plan | 販促企画、目標KPI設定 | 販促枠の調整、対象店舗選定 |
| Do | 販促物制作、広告出稿 | 店頭展開、オペレーション実行 |
| Check | 売上・シェア分析 | 客数・客単価分析 |
| Action | 次回施策への反映 | 棚割り・発注量調整 |
まとめ
要点の振り返り
- 広告宣伝費は中長期的なブランド価値向上を目的とし、認知・態度のKPIを重視する
- 販促費用は短期的な売上促進を目的とし、購買・効率のKPIを重視する
- メーカーはブランドシェアとトライアル獲得を、リテールは客数・客単価を軸にKPIを設計する
- 共同販促では売上増分・販促ROIなど双方が納得できる共通指標を設定する
実務への活かし方
- まず自社の費用区分と目的を明確にする
- 目的に応じた適切なKPIを選定する
- メーカー・リテール間でKPIの定義と測定方法を統一する
- 定期的にPDCAを回し、KPIの見直しを行う
費用区分を意識したKPI設計は、マーケティング投資の説明責任を果たし、より効果的な予算配分につながります。ぜひ本記事を参考に、自社のKPI体系を見直してみてください。