はじめに

Reactでアプリケーションを開発していると、「ボタンを連続でクリックしたのに1回分しか反映されない」「setTimeoutの中でstateを更新したら古い値が使われた」といった経験はありませんか。

こうした問題の多くは、stateの更新方法を見直すことで解決できます。この記事では、Reactの「機能更新（Functional Update）」というパターンを使って、安全にstateを更新する方法を学んでいきましょう。

この記事で学べること

機能更新とは何か、基本的な書き方
なぜ古いstateの値が使われてしまうのか
具体的な問題例とその解決方法
実務で使えるベストプラクティス

機能更新（Functional Update）とは

機能更新とは、Reactのstate更新関数に「新しい値」ではなく「現在のstateを引数に取る関数」を渡す方法です。

基本的な書き方の違い

Reactでstateを更新する方法には2種類あります。

直接値を渡す方法

const [count, setCount] = useState(0);

const increment = () => {
  setCount(count + 1);  // 現在のcountの値を直接参照
};

関数を渡す方法（機能更新）

const [count, setCount] = useState(0);

const increment = () => {
  setCount(prev => prev + 1);  // prevは常に最新のcountを指す
};

機能更新では、更新関数に渡すコールバック関数の引数（上記の prev）が、常に最新のstate値を受け取ります。この引数名は prev、current、prevState など、わかりやすい名前であれば何でも構いません。

どんな時に使うべきか

機能更新は特に以下のようなケースで有効です。

現在のstateに依存して新しいstateを作る時
非同期処理内でstateを更新する時
複数のstate更新が連続して実行される可能性がある時

次のセクションで、なぜこのパターンが必要なのか、その理由を見ていきましょう。

なぜ機能更新が必要なのか

「古いクロージャ」の問題とは

JavaScriptのクロージャという仕組みにより、関数が定義された時点での変数の値が「保存」されます。Reactのコンポーネント内でも同じことが起こるため、state更新時に意図しない古い値が使われてしまうことがあるのです。

具体例を見てみましょう。

function Counter() {
  const [count, setCount] = useState(0);

  const increment = () => {
    setCount(count + 1);  // この時点のcountの値を使う
  };

  return <button onClick={increment}>Count: {count}</button>;
}

この increment 関数は、定義された時点の count の値を参照しています。つまり、コンポーネントが再レンダリングされるまで、古い count の値を持ち続けてしまいます。

クロージャの仕組みを図解で理解する

上の図は正常な動作です。しかし、連続してクリックした場合や非同期処理が絡むと、問題が発生します。

問題が起きる具体例

カウンターの例

function Counter() {
  const [count, setCount] = useState(0);

  const incrementTwice = () => {
    setCount(count + 1);
    setCount(count + 1);
    // 期待: count = 2
    // 実際: count = 1（両方とも count = 0 を参照している）
  };

  return <button onClick={incrementTwice}>Count: {count}</button>;
}

配列への追加の例

function EmojiList() {
  const [emojis, setEmojis] = useState(['😀']);

  const addMultipleEmojis = () => {
    setEmojis([...emojis, '😎']);
    setEmojis([...emojis, '🎉']);
    // 期待: ['😀', '😎', '🎉']
    // 実際: ['😀', '🎉']（両方とも古いemojisを参照）
  };

  return (
    <div>
      {emojis.map((emoji, i) => <span key={i}>{emoji}</span>)}
      <button onClick={addMultipleEmojis}>追加</button>
    </div>
  );
}

これらの問題は、機能更新を使うことで解決できます。

実践：よくあるバグと解決方法

ここでは、実務でよく遭遇する3つのケースと、その解決方法を見ていきます。

ケース1：連続してボタンをクリックした場合

問題のあるコード

const addEmoji = () => {
  // 直接 emojis を参照すると、古い値を使ってしまう可能性がある
  setEmojis([...emojis, '✨']);
};

連続してボタンをクリックすると、すべてのクリックが同じ emojis の値を参照してしまい、最後の1回分しか反映されません。

推奨される書き方（機能更新を使う）

const addEmoji = () => {
  // prev は常に最新の emojis（直前の状態）を指す
  setEmojis(prev => [...prev, '✨']);
};

機能更新を使うことで、各更新が直前の最新状態を基に実行されるため、すべてのクリックが正しく反映されます。

ケース2：setTimeout/setInterval内でのstate更新

非同期処理の中でstateを更新する場合、クロージャの問題が顕著に現れます。

問題のあるコード

const delayedAdd = () => {
  setTimeout(() => {
    // 誤: 古い emojis を使ってしまう
    setEmojis([...emojis, '🔥']);
  }, 1000);
};

この場合、setTimeout が定義された時点の emojis の値が使われるため、その間に他の更新があっても反映されません。

推奨される書き方

const delayedAdd = () => {
  setTimeout(() => {
    // 正: 常に最新の状態を使う
    setEmojis(prev => [...prev, '🔥']);
  }, 1000);
};

ケース3：イベントハンドラでの配列操作

配列に要素を追加する場合も、機能更新を使うことで安全に更新できます。

完全な実装例

function EmojiManager() {
  const [emojis, setEmojis] = useState(['😀']);

  // 即座に追加
  const addEmoji = () => {
    setEmojis(prev => [...prev, '✨']);
  };

  // 1秒後に追加
  const delayedAdd = () => {
    setTimeout(() => {
      setEmojis(prev => [...prev, '🔥']);
    }, 1000);
  };

  // 複数同時に追加
  const addMultiple = () => {
    setEmojis(prev => [...prev, '🎉']);
    setEmojis(prev => [...prev, '🎊']);
  };

  return (
    <div>
      <div>
        {emojis.map((emoji, i) => <span key={i}>{emoji}</span>)}
      </div>
      <button onClick={addEmoji}>追加</button>
      <button onClick={delayedAdd}>1秒後に追加</button>
      <button onClick={addMultiple}>2つ追加</button>
    </div>
  );
}

この実装であれば、どのボタンを押しても常に最新の emojis に対して更新が行われます。

より実践的な使い方

useCallbackとの組み合わせ

機能更新を使うと、useCallback で関数をメモ化する際に依存配列を減らせるメリットもあります。

機能更新を使わない場合

const addEmoji = useCallback(() => {
  setEmojis([...emojis, '✨']);
}, [emojis]);  // emojisが変わるたびに関数が再生成される

機能更新を使う場合

const addEmoji = useCallback(() => {
  setEmojis(prev => [...prev, '✨']);
}, []);  // 依存配列が空でOK、関数は一度だけ生成される

これにより、パフォーマンスの最適化にも繋がります。

オブジェクトのstate更新での注意点

オブジェクトを更新する場合も、機能更新のパターンが有効です。

const [user, setUser] = useState({ name: 'Taro', age: 25 });

// 推奨: 機能更新で現在の値を基に更新
const updateAge = () => {
  setUser(prev => ({
    ...prev,
    age: prev.age + 1
  }));
};

スプレッド構文 ...prev を使うことで、他のプロパティを保持しつつ、特定のプロパティだけを更新できます。

まとめ

機能更新を使うべきタイミングのチェックリスト

以下の条件に1つでも当てはまる場合は、機能更新を使うことを検討しましょう。

現在のstateの値を使って新しいstateを計算する
配列やオブジェクトに要素を追加・更新する
setTimeout、setInterval など非同期処理内でstateを更新する
イベントハンドラで連続した更新が発生する可能性がある
useCallbackの依存配列を減らしたい

基本ルール

// ❌ 避けるべき書き方
setState(currentState + 1);

// ✅ 推奨される書き方
setState(prev => prev + 1);

機能更新は、「常に最新のstateを基に更新する」という安全性を提供します。最初は書き方に慣れないかもしれませんが、バグを未然に防ぐ強力なパターンなので、ぜひ実践で活用してみてください。