はじめに
「Entra IDのアカウントではなく、マネージドIDを使いましょう」
こんな説明を聞いて、「Entra IDとマネージドIDって対立する概念なの?」と感じたことはありませんか?
実はこの2つは 対立する概念ではなく、レイヤーが違うもの です。マネージドIDはEntra IDという基盤の「中にある」IDの一種にすぎません。
この記事では、AzureのID管理の全体像を整理し、Entra ID・サービスプリンシパル・マネージドIDがどういう関係にあるのかを図解つきで解説します。
対象読者
- Azureを使い始めたばかりの方
- DatabricksやAzure Functionsなどで初めてマネージドIDに触れた方
- 「Entra ID」と「マネージドID」の違いがモヤモヤしている方
前提知識
- Azureの基本的なリソース(VM、ストレージアカウントなど)を知っている程度でOK
参考リンク
そもそも「Entra ID」とは何か
Microsoft Entra ID(旧 Azure Active Directory)は、MicrosoftのクラウドベースのID管理サービス(IAM)です。Microsoft Entra製品群1の中核に位置づけられています。
ひと言でまとめると、「誰が何にアクセスできるか」を管理する基盤全体 のことです。
Entra IDは「特定のIDの種類」を指すのではなく、さまざまなIDを束ねて管理するプラットフォームそのものです。この理解が、後述するマネージドIDとの関係を正しく捉えるカギになります。
Entra IDに登録されるIDの種類
Entra IDには、大きく分けて 人間のID と ワークロードID(機械用のID) が登録されています。
人間のID
社員や外部ユーザーのアカウントです。taro@company.com のような形式で、パスワードやMFA(多要素認証)で認証します。
ワークロードID
アプリケーションやサービスなど、人間以外のアクターが使うIDの総称です。Microsoft公式ドキュメントでは、ワークロードIDとして以下の3つが定義されています。
| 種類 | 概要 |
|---|---|
| アプリケーション | アプリ登録(App Registration)で作成されるグローバルな定義 |
| サービスプリンシパル | アプリケーションの特定テナント内でのインスタンス |
| マネージドID | Azureが資格情報を自動管理する特殊なサービスプリンシパル |
全体像を図で整理
ここで重要なのは、マネージドIDはEntra IDの 外にある別物ではなく、中に登録されるIDの一種 だということです。
マネージドIDとは何か
マネージドIDは、Azureリソースに割り当てることができるIDです。内部的には サービスプリンシパルの特殊な形態 であり、以下の特徴を持ちます。
- 資格情報の自動管理: パスワードやキーを自分で管理する必要がない(キーレス)
- Azureリソース間専用: Azure内部のリソース同士の認証に使う
- ライフサイクルの自動管理: リソース削除時にIDも自動で削除される(システム割り当ての場合)
システム割り当て vs ユーザー割り当て
マネージドIDには2つのタイプがあります。
| 観点 | システム割り当て | ユーザー割り当て |
|---|---|---|
| 作成方法 | Azureリソースで直接有効化 | 独立したAzureリソースとして作成 |
| ライフサイクル | リソースと一体(削除で消える) | 独立(明示的に削除が必要) |
| 共有 | 1つのリソース専用 | 複数のリソースで共有可能 |
| 主な用途 | 単一リソースの認証 | 複数リソースで同じ権限を使いたい場合 |
どちらを選ぶべきか迷ったら、まずはシステム割り当てから始めるのがシンプルです。複数リソースで同じ権限セットを共有したくなったら、ユーザー割り当てを検討しましょう。
人間のIDとマネージドIDの比較
「じゃあ、人間のEntra IDアカウントとマネージドIDは何が違うの?」を整理します。
| 観点 | Entra IDユーザー(人間) | マネージドID(機械) |
|---|---|---|
| 認証方式 | パスワード、MFA等 | Azure内部でトークン自動取得 |
| シークレット管理 | ユーザーが管理 | Azureが自動管理(不要) |
| 退職・異動リスク | あり(アカウント無効化で接続断) | なし(リソースに紐づく) |
| 用途 | 人がポータルやアプリにログイン | Azureリソース同士の通信 |
人間のIDをシステム間連携に流用すると、退職や異動でIDが無効化された瞬間にパイプラインが止まるリスクがあります。これがマネージドIDを使う最大の動機です。
よくある誤解:「Entra IDアカウントの代わりにマネージドIDを使う」
冒頭の説明会のケースに戻りましょう。
「Entra IDアカウントではなく、マネージドIDを使いましょう」
この発言を聞くと、あたかもEntra IDとマネージドIDが二者択一のように感じますが、正確には以下のような意味です。
Entra IDという基盤の上にある 「人間用のID」を機械間通信に流用するのではなく、同じ基盤の上にある「機械専用のID」であるマネージドIDを正しく使いましょう
つまり、対立しているのは「Entra ID vs マネージドID」ではなく、「人間のID の流用 vs 機械専用のID の正しい利用」 です。
人間のEntra IDアカウントをサービス間の認証に使うアンチパターンは、セキュリティリスクだけでなく運用上の脆弱性(退職・異動による断絶)を生みます。機械間通信には必ずマネージドIDまたはサービスプリンシパルを使いましょう。
まとめ
- Entra ID はIDを管理する基盤(プラットフォーム)であり、特定のIDの種類ではない
- マネージドID はEntra IDの中に登録されるワークロードIDの一種で、Azureが資格情報を自動管理してくれる機械専用のID
- 「Entra IDアカウントの代わりにマネージドIDを使う」は、正しくは「人間用IDの流用をやめて、機械専用IDを使う」という設計判断
この記事は2026年4月時点の情報をもとに執筆しています。最新の仕様は公式ドキュメントをご確認ください。
-
Microsoft Entra製品群には、Entra IDのほかにEntra ID Governance、Entra External ID、Entra Workload ID、Entra Permissions Managementなどが含まれます。 ↩