はじめに
2025年11月、GoogleはGemini 3の発表とともに、新しい開発環境「AntiGravity」を公開しました。AntiGravityは「エージェントファースト」を掲げるIDEで、AIエージェントが自律的にコーディングタスクを計画・実行・検証してくれます。
この記事では、AntiGravityでプロジェクト固有のルールやコンテキストを設定する方法を解説します。
※2025/12/13時点での情報です。
適宜情報はアップデートされますので最新情報を参考にしてください
AntiGravityとGemini CLIの違い
先に、混同しやすい2つのツールの違いを整理しておきましょう。
| 項目 | Gemini CLI | AntiGravity |
|---|---|---|
| 発表時期 | 2025年6月 | 2025年11月 |
| 形態 | ターミナル上で動くCLIツール | VS CodeフォークのIDE |
| 特徴 | 軽量なAIエージェント | 複数エージェントの並列実行、アーティファクト生成 |
| 使用モデル | Gemini 2.5 Pro | Gemini 3 Pro(Claude等も対応) |
| オープンソース | はい(Apache 2.0) | パブリックプレビュー |
Gemini CLIは「ターミナルで手軽にAIを使いたい」場面に、AntiGravityは「複雑なタスクをAIエージェントに任せたい」場面に適しています。
この記事ではAntiGravityを対象としますが、設定ファイルの形式は両者で共通している部分も多いです。
なぜプロジェクトごとの設定が必要か
プロジェクトによって求められるルールは異なりますよね。例えば:
- フロントエンドプロジェクトでは「TailwindCSSを使わずVanilla CSSで書く」
- 技術記事作成では「親しみやすい文体で、Mermaid図を活用する」
- 社内ツールでは「特定のライブラリを優先的に使用する」
このようなプロジェクト固有のルールをAIに理解させることで、より適切なアシストを受けられるようになります。
メタ情報を保存できる3つの場所
AntiGravityでは、以下の3つの場所でAIの振る舞いをカスタマイズできます。
| 場所 | スコープ | 用途 |
|---|---|---|
~/.gemini/ |
ユーザー全体 | 全プロジェクト共通の設定 |
AGENTS.md |
プロジェクト | プロジェクト固有のルール・コンテキスト |
.agent/workflows/ |
プロジェクト | 再利用可能なワークフロー定義 |
それぞれ詳しく見ていきましょう。
AGENTS.mdの書き方
ファイルの役割と配置場所
AGENTS.mdは、プロジェクトのルートディレクトリに配置するマークダウンファイルです。AntiGravityはこのファイルを自動的に読み込み、プロジェクトのコンテキストとして理解します。
my-project/
├── AGENTS.md ← ここに配置
├── src/
├── package.json
└── ...
記述すべき内容
AGENTS.mdには以下のような情報を記述します:
- プロジェクトの概要 - 何をするプロジェクトなのか
- 役割の定義 - AIにどのような役割を期待するか
- ルール・制約 - 守るべきコーディング規約やスタイル
- ディレクトリ構成 - プロジェクトの構造説明
実際の記述例
以下は技術記事作成プロジェクトの例です:
# Qiita 技術記事作成アシスタント
このプロジェクトは、Qiitaの技術記事を作成・校正するためのワークスペースです。
## 役割
Qiitaの技術記事を作成するアシスタント。
読みやすく、分かりやすい記事へと改善します。
## 校正の基本方針
### 文体とトーン
- 親しみやすさ2割、専門性8割のバランス
- 「〜ですね」「〜しましょう」を適度に使用
### 書式ルール
- 専門用語には補足説明を添える
- 複雑な概念はMermaid記法で図解する
## 厳守事項
- 指示に対してすぐにコードを生成しない
- 構成の提案→承認→作成の流れを守る
このように記述しておくと、AIは「技術記事を作成するアシスタント」として振る舞い、定義したルールに従って作業を進めてくれます。
ワークフローの定義方法
.agent/workflows/ ディレクトリの構造
繰り返し行う作業は、ワークフローとして定義しておくと便利です。ワークフローは.agent/workflows/ディレクトリに配置します。
my-project/
├── .agent/
│ └── workflows/
│ ├── deploy.md
│ ├── create-component.md
│ └── review-code.md
└── ...
YAMLフロントマター + Markdownの形式
ワークフローファイルは、YAMLフロントマターとMarkdownの組み合わせで記述します。
---
description: 新しいReactコンポーネントを作成するワークフロー
---
# コンポーネント作成ワークフロー
## 1. 要件の確認
ユーザーから以下の情報を収集します:
- コンポーネント名
- 受け取るprops
- 子コンポーネントの有無
## 2. ファイルの作成
以下の構成でファイルを作成:
- `src/components/{ComponentName}/index.tsx`
- `src/components/{ComponentName}/styles.css`
## 3. テストの追加
`__tests__/{ComponentName}.test.tsx` にテストを追加
スラッシュコマンドでの呼び出し方
定義したワークフローは、ファイル名をスラッシュコマンドとして呼び出せます。
/create-component → create-component.md が実行される
/deploy → deploy.md が実行される
/review-code → review-code.md が実行される
チャットで /create-component と入力するだけで、定義した手順に従ってAIが作業を進めてくれます。
turboアノテーション
ワークフロー内で安全に自動実行したいコマンドがある場合、// turbo アノテーションを使用できます。
## 2. 依存関係のインストール
// turbo
npm install
## 3. 開発サーバーの起動
// turbo
npm run dev
// turbo を付けたステップは、ユーザーの承認なしで自動実行されます。全ステップを自動実行したい場合は // turbo-all を記述します。
グローバル設定(~/.gemini/)
ユーザー全体で共通の設定を管理
~/.gemini/ ディレクトリには、すべてのプロジェクトで共通して適用したい設定を配置します。
~/.gemini/
├── config.yaml # 基本設定
└── instructions.md # グローバルな指示
例えば、以下のような共通ルールを設定できます:
- 使用する言語の優先順位
- コードのフォーマットスタイル
- 常に避けるべきパターン
プロジェクト固有 vs グローバルの使い分け
使い分けの目安:
| 設定内容 | 推奨場所 |
|---|---|
| 好みのコーディングスタイル | ~/.gemini/ |
| プロジェクトの技術スタック | AGENTS.md |
| デプロイ手順 | .agent/workflows/ |
| 一時的な作業指示 | チャットで直接伝える |
実践例:技術記事作成アシスタントの構築
ここまでの内容を踏まえて、技術記事作成アシスタントの構成例を紹介します。
ディレクトリ構成の全体像
Qiita_Gen/
├── AGENTS.md # プロジェクトのコンテキスト
├── .agent/
│ └── workflows/
│ └── create-article.md # 記事作成ワークフロー
├── articles/
│ └── drafts/ # 下書き保存用
└── templates/
└── article-template.md # 記事テンプレート
各ファイルの連携
- ユーザーが
/create-articleでワークフローを呼び出す - AIは
AGENTS.mdのルールを参照しながら作業 - テンプレートをベースに記事を作成
- 完成した記事を
articles/drafts/に保存
このように、各ファイルが連携することで、一貫性のある記事作成が可能になります。
まとめ
AntiGravityでメタ情報を管理する3つの方法を紹介しました。
3つの設定場所の使い分け早見表
| 場所 | 用途 | 例 |
|---|---|---|
~/.gemini/ |
全プロジェクト共通 | コードスタイル、言語設定 |
AGENTS.md |
プロジェクト固有 | 役割定義、技術スタック |
.agent/workflows/ |
繰り返しタスク | デプロイ、コンポーネント作成 |
ベストプラクティス
- AGENTS.mdは簡潔に - 長すぎると重要な情報が埋もれてしまいます
- ワークフローは具体的に - 曖昧な指示は避け、明確な手順を記述しましょう
- 段階的に育てる - 最初から完璧を目指さず、使いながら改善していくのがおすすめです
これらの設定を活用することで、プロジェクトに最適化されたAIアシスタントを構築できます。ぜひ試してみてください!