はじめに
筆者はアナリストとして5年以上Excelを使い続けてきました。
仕事柄、Webエンジニアと話す機会も多いのですが、
正直なところ 「Excel、知らなさすぎないか?」 と感じることが少なくありません。
「分かっているつもり」の人は多くても、実際にExcelを使いこなせている人は意外と少ないのです。
エンジニア側からすれば、Excelに良い思い出がある人はあまりいないでしょう(巨大なExcelリレーとか、見ただけで気が滅入るやつ)。筆者もぶっちゃけExcelが好きなわけではありません。
ただ、ビジネスユーザーが圧倒的に使い慣れているツールはやはりExcel なのです。であれば、エンジニア側がビジネス側よりもExcelに詳しくなれば、業務効率化の場面で貢献できる範囲は確実に広がります。
そしてここが本記事の主張なのですが、
Excelには大量の機能がありますが、9割は使われていません。
重要な1割さえ押さえれば、それでExcelマスターになれます。
むしろ、9割の使われていない機能を駆使したExcelは保守性が壊滅的に低いので、それを作る人はマスターとは呼べません。
この記事では、エンジニアがビジネス側と渡り合うために押さえておくべき「Excelの重要な1割」を、初級・中級・上級に分けて整理していきます。
対象読者:ビジネス側とExcelで関わる機会のあるエンジニア。
ビジネスサイドの方が読んでも参考になるはずです。
初級:これだけ覚えれば8割戦える
関数は最低限でいい
実務で頻出する関数は驚くほど限られています。以下のセットを覚えれば、ビジネス現場で出てくる8割のケースは戦えます。
| 用途 | 関数 | コメント |
|---|---|---|
| 検索 |
VLOOKUP / XLOOKUP
|
XLOOKUPが使える環境ならXLOOKUP一択 |
| 条件分岐 |
IF / IFS / IFERROR
|
ネストが深くなるならIFSを使う |
| 集計 |
SUM / AVERAGE / MAX / MIN
|
Excelの基本中の基本 |
| 条件付き集計 |
SUMIF(S) / COUNTIF(S)
|
複数条件なら必ず複数形を使う |
| 文字列操作 |
LEFT / RIGHT / MID / TEXT / &
|
データクレンジングの定番 |
| 日付 |
TODAY / DATE
|
日付計算の基礎 |
この表にない関数は、必要になったときに調べれば十分です。「とりあえず全部覚えよう」と分厚い本を買うのは、時間の使い方として効率が悪いです。
INDEX/MATCHは使わない
Excelの教科書には必ずと言っていいほど登場するのが INDEX と MATCH の組み合わせです。「VLOOKUPより柔軟で強力!」と紹介されていることも多いのですが、実務では使うべきではありません。
理由は2つあります。
1. 列を増やすとすぐ壊れる
INDEX/MATCH は参照範囲を別々に指定する構造のため、シートに列を追加・削除した瞬間に意図しない参照になっていることがあります。エラーになってくれればまだいい方で、気付かないまま間違った値を返し続ける のが最悪のパターンです。
2. 理解できる人が少ない
数式を見て一瞬で構造を理解できる人が、ビジネス現場にどれくらいいるでしょうか?引き継いだ人が解読できない関数は、それだけで保守性を下げます。
=INDEX(B:B, MATCH(D2, A:A, 0))
これを見て即座に「A列でD2を探して、見つかった行のB列を返す」と理解できる人と、
=XLOOKUP(D2, A:A, B:B)
これを見て理解できる人、どちらが多いかは明らかです。XLOOKUPはMicrosoft 365とExcel 2021以降で使えます。古いExcelを使い続けている環境でない限り、INDEX/MATCH を新規に書く理由はありません。
既存ファイルで INDEX/MATCH を見つけても、慌てて書き換える必要はありません。動いているものを触ると別のバグを生みます。新規に書くときはXLOOKUPを選ぶ、これだけで十分です。
条件付き書式・データの入力規則・テーブル機能は必修
関数以外で初級として覚えてほしいのが、この3つの機能です。
条件付き書式
特定の条件を満たすセルを自動で色付けする機能。「異常値を赤くする」「上位10%を強調する」など、データを見やすくする基本動作。これがないと、人間の目で全セルを確認することになります。
データの入力規則
セルに入力できる値を制限する機能。プルダウンリストの作成や、特定範囲の数値のみ許可するなど、データ品質を入力時点で守る仕組み。エンジニア的に言えば「フロントエンドでのバリデーション」です。
テーブル機能(Ctrl + T)
これは本当に知られていないです。
範囲を「テーブル」として定義する機能。これを使うと、
- 行を追加すると自動で書式と数式が伝播する
-
Table1[列名]という構造化参照が使える - ピボットテーブルやPower Queryのソースとして扱いやすくなる
特にテーブル機能は、「ただのセル範囲」を「メンテナンス可能なデータセット」に格上げする ための最重要機能です。これを使わずに普通の範囲で運用しているExcelは、行追加のたびに人間が書式コピーするという地獄が発生します。
中級
ピボットテーブル:覚えるべきだが現場は使いこなせていない
ピボットテーブルはExcelの中でも特に便利な機能なのですが、意外なほど現場では使いこなせていません。
「ピボットテーブルって難しそう」と敬遠する人、SUMIFを駆使して手作業で集計表を作っている人、現場には驚くほど多くいます。データエンジニア的な発想からすれば、
行・列・値・フィルタを指定するだけでGROUP BYしてくれる、GUI版のSQLみたいなもの
と捉えると一気に理解しやすくなります。SQLでGROUP BYを書ける人なら、ピボットテーブルは1時間あればマスターできます。むしろここを使いこなせるだけで、ビジネス側からの集計依頼の8割は即対応できるようになります。
Power Query:できれば覚える
Power Queryは、Excel内蔵のETLツールです。
- GUIでデータの加工ができる(M言語というコードも書ける)
- CSV、Excel、データベース、Azure Blob Storageなど多様なソースに接続可能
- ステップが記録されるので、ソース更新時のリフレッシュが一発
ただし、ビジネスユーザー向けに配布するExcelで使うかは慎重に判断する必要があります。
理由はシンプルで、Power Queryを理解しているビジネスユーザーがほぼ存在しない からです。配布先で「これ更新できないんですけど…」となるリスクがあります。
なのでユースケースに応じて使い分ける必要がありますが、
少なくとも「Excelを中級以上に使いこなしたい」と思うなら、Power Queryは必ず触っておくべきです。
Claude in Excelは絶対に入れる
中級レベルで最も投資対効果が高いのが、Claude in Excel の導入です。
筆者の経験で言うと、Excel作業のボトルネックは「集計」ではなく「可視化」でした。集計はピボットテーブルや関数で数分で終わるのに、それを上司やクライアントに見せられる形にグラフ化する工程に何倍も時間がかかる。これがExcel作業の本質的な苦痛でした。
Claude Chat や Cowork に「このデータを可視化して」とお願いしても、出てくるのは微妙な可視化ばかり。データをコピペして、出てきた結果を見て、また指示し直して…という往復で集中力が削られていきます。
そんなときに出会ったのが Claude in Excel です。
圧倒的に便利なのは、セルを選択するとそこがそのままコンテキストに乗ること です。「この範囲をいい感じに可視化して」と言うだけで、適切なグラフが提案される。Excel上で完結するので、コピペでデータが崩れる事故もない。生産性が爆発的に上がりました。
Claude in Excel について(2026年5月時点)
2026年5月7日に Excel、Word、PowerPoint 向けの Claude アドインが正式版(GA)になりました。Mac/Windows両対応で、Claude の有料プラン(Pro、Team、Max、Enterprise)に含まれています。
ただし、注意点が1つあります。Claude in Excel は 難しい関数も平気で量産してきます。基礎ができていないと、生成された数式の妥当性を判断できず、ブラックボックスを増やすだけになります。
順番としては:
- まず本記事の「初級」レベルの関数・機能をマスター
- ピボットテーブルとPower Queryの基本を覚える
- その上で Claude in Excel を導入してブースト
この流れをおすすめします。
上級:VBAは本当に最終手段
VBAは強力です。Excelでできることのほぼ全てを自動化できます。Claudeに頼めば、動くVBAコードもサクッと書いてくれます。
しかし、声を大にして言いたいのは、
VBAは作った人しか管理できないと思え。
あなたが作ったなら、生涯あなたが面倒を見る覚悟で作りましょう。
ということです。
VBAコードがファイルに埋め込まれた瞬間、そのファイルは属人化します。作った本人が異動・退職した後、誰もメンテナンスできない .xlsm ファイルが社内に残り、誰も触れない「聖域」になっていく…という光景を何度見てきたことか。
そして大抵の場合、VBAでやろうとしていることは Power Query やピボットテーブル、関数で実現可能 だったりします。
もちろん、本当にVBAが必要なケースもあります。Excelの内部操作が必須で、外部化できない処理は存在します。ただし、その判断に至るまでに 「他の選択肢を本当に全て検討したか?」 を自問してください。
「Claudeで簡単に書けるから」というのはVBAを採用する理由になりません。書くのが簡単であることと、保守できることは別問題 です。
まとめ
本記事の主張をまとめると以下の通りです。
- Excelの機能の 9割は使わなくていい。重要な1割を押さえれば実務の8割は戦える
- 初級では 関数の最低限セット・条件付き書式・データの入力規則・テーブル機能 をマスターする
-
INDEX/MATCHは使わず、XLOOKUPを選ぶ - 中級では ピボットテーブル・Power Query・Claude in Excel で差をつける
- 上級の VBA は最終手段。作るなら生涯面倒を見る覚悟で
- Excelマスターの本質は機能の数ではなく、保守性 にある
ビジネスサイドが日常的に使っているツールで、彼らの困りごとを直接解決できる立場になることは、エンジニアとしての価値を確実に高めます。
Excelを毛嫌いせず、しかし機能を盛りすぎず、保守性の高いExcel を作れるエンジニアを目指してみてはいかがでしょうか。