この記事はOPENLOGI Advent Calendar 2025の6日目の記事です。
🙌 はじめに
私はオープンロジでWMS(倉庫管理システム)の開発・運用に携わって3年半が経つWebエンジニアです。日常的に倉庫に常駐しているわけではありませんが、必要に応じて倉庫応援に入り現場作業を経験することもあります。
日々その奥深さと面白さを感じながら開発・運用に取り組んでいますが、「どこがそんなに面白いの?」という問いには、今までうまく言語化ができていませんでした。
そこで今回は、私がWMS開発・運用する中で感じている奥深さの核心を、「イレギュラー」と「再現性」というキーワードで掘り下げてみます。
結論:WMS開発の奥深さの核心は「矛盾」にある
WMS開発の本質的な面白さは、システム化の理想と現場の現実がぶつかる「矛盾」の中にあると考えています。
- イレギュラーというカオスの中で、どこに再現性を見出し、どうシステムで実現するか。
- 再現性が低いほどシステム化できた時の効果は大きいが、同時に実装難易度も高まるという矛盾。
- その制約の中で、現場の効率とシステムの安定性の最適解を探し続けること。
この矛盾の中で思考し、設計し、挑むことこそがWMS開発の醍醐味だと感じています。
WMSとは:現実とデータをつなぐシステム
WMSは倉庫における入出荷・在庫を管理するシステムであり、画面上のデータと現実世界のモノの動きを同期させる役割を担います。
1. 現実世界とデータの整合性を保つ
入荷処理ひとつでも、次の3つが同時に成立しなければなりません。
- システム上の入荷ステータスが「完了」となる
- 実際の荷物が正しい棚(ロケ)に配置される
- その作業に基づくコスト・請求が正しく反映される
システムの成功=現実の成功でなければ意味がない。ここに、他の業務システムにはない難しさがあります。
2. 「届いて当たり前」を支える使命
物流は社会のインフラ。「正確に、速く、安く、届いて当たり前」という高い安定性を、24時間365日維持し続けることが求められます。WMSはその「当たり前」を裏で支える要です。
当たり前を阻む「イレギュラー」という現実
物流では「届いて当たり前」という高いレベルの安定性が望まれます。だからこそ、WMSには「誰が・いつ・どこで・どう作業しても同じ結果になる」再現性の追求が不可欠です。しかし、この再現性を追求するWMSにとって、最大の難敵となるのがイレギュラーという名の予測不能な現実なのです。
イレギュラーとは何か
本来は「不規則・例外的な事象」を意味し、システム的には「例外(Exception)」です。
正常(レギュラー)な流れを乱す、現場の“ノイズ”とも言えます。
システムのイレギュラーと現場のイレギュラー
| 種類 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| システムのイレギュラー | APIエラー、DB障害など技術的異常 | 他システムにもあるが、リアルなモノの動きが止まるため影響が大きい |
| 現場のイレギュラー | 実物が別ロケにあった、伝票が紛失など | システム上のデータと現実が乖離し、リカバリが困難 |
WMSが難しいのは、現場のイレギュラーがシステムの整合性を直接崩すことにあります。
イレギュラーをどう捉え、再現性を設計するか
イレギュラーを「例外」として片付けるのではなく、パターンとして捉え直し、そこに再現性を見出すことが、システム化の第一歩です。
Step 1. 現場の「例外」をパターンとして分類する
まずは現場で発生する「例外」を分析し、「どんな事象が、どんな条件下で起こっているのか」という切り口で整理し、共通項を抽出します。
例えば、「送り状発行エラー」という一つの事象であっても、その原因となるパターンは多岐にわたります。
-
1. データ起因の不整合:
- 例: 住所データの表記揺れ、「お届け希望日の範囲外指定」など。
-
2. システム連携起因のエラー:
- 例: 外部APIのタイムアウトや認証エラーなど。
-
3. 物理的な業務起因のエラー:
- 例: 梱包サイズがシステム上の上限を超過しているなど。
このように発生パターンを分類することで、初めて「どの条件なら、どの処理を適用すれば正しく回復できるか」というシステムルールを定義する準備が整います。
Step 2. 「再現性」の有無を見極め、ルールを設計する
システム化の次のステップは、分類したパターンごとに再現性の有無を見極め、ルールを設計することです。
再現性があるとは、「この条件」なら「このルール(処理)」で処理すれば「この結果」が得られると、人の判断を介さずに常に同じアウトプットが保証できる状態を指します。
✅ 再現性があり、システム化が可能なケース
条件の特定に加え、その後のリカバリ処理までがシステム内で自動完結できる場合、再現性があると判断され、自動化(システム化)が可能です。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| イレギュラー事象 | 送り状発行エラーが発生 |
| 特定条件 | 住所に「一丁目」と「1丁目」など、システムが定義した表記揺れパターンを含む |
| 適用ルール | 算用数字を漢数字に自動変換する |
| 期待結果 | 送り状が正常に発行される |
このケースは、入力データ(住所)という客観的な情報から条件を特定し、システム処理だけで結果が確定するため、再現性が高いと言えます。
❌ 再現性がなく、システム化が難しいケース
条件の特定後、回復手段が人間の判断や現場の物理的な作業に依存している場合、再現性が低いと判断され、システム化の難易度が上がります。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| イレギュラー事象 | 送り状発行エラーが発生 |
| 特定条件 | 梱包サイズ(縦・横・高さの合計)が、利用する配送会社の規定(例:160サイズ)を超過している |
| 適用ルール | 処理を停止し、現場作業者に再梱包を促す |
| 難しさの核 | 「超過した荷物をどうする」という解決策(例:複数個口に分ける、より大型の配送業者に切り替える)の判断と物理的な作業が人の介在に依存する |
この場合、システムは「上限超過」という条件は特定できても、最適なリカバリ処理(ルール)を自動で決定できません。荷物を「どう分け直すか」や「どの業者を選ぶか」といった判断、そして「物理的に再梱包する」という作業が現場の人の介在を必須とするため、再現性の壁に直面します。
⚠️ 再現性のない運用を「悪」としない視点
ここで重要なのは、再現性のない運用(人間が柔軟に判断している運用)をすべて「悪」と断じてシステム化しようとしないことです。
再現性のない運用は、しばしば顧客満足度の維持や個別最適化されたリカバリーのために存在します。WMS開発者が探すべき最適解は、システムで自動化すべき領域と、人間の柔軟な判断を尊重し、その結果を記録させる領域の境界線を見極めることなのです。
まとめ:再現性を見極めることがWMS開発の醍醐味
WMS開発の本当の面白さは、「イレギュラーという現実」と「再現性という理想」のギャップを、ロジックとデータで埋めていくことにあります。
- イレギュラーをパターン化し、条件を特定できるか
- 条件と結果の因果を制御できるか
- その繰り返しの中で、現場とシステムの最適解を探し続ける
イレギュラーと再現性、その矛盾に向き合い続けることこそ、WMS開発者としての喜びであり、挑戦であり、最大の面白さだと思っています。
この記事で少しでも物流やWMSに興味を持っていただけたら幸いです。