概要
SES(System Engineering Service/客先常駐型の技術者派遣)は、日本のIT人材流通の大きな柱の一つです。メリットも多い一方で「多重下請け」「キャリアの見えにくさ」「低めの年収」といった問題点が指摘され続けてきました。本記事では、なぜSESが生まれたかの歴史、海外との違い、実際の年収データ(出典リンク付き)、自社開発との比較、そしてSESのメリットまで—データを参照しつつ整理します。読者ターゲットは現役エンジニア/転職検討者/マネジャー向けです。
1) SESはなぜ生まれたのか(歴史と構造)
日本でSESや客先常駐が普及した背景には、戦後からの企業文化(長期雇用・年功序列)、SI業界の下請け構造、そして企業側の需要(必要な時だけエンジニアを確保したい)が組み合わさっています。特にバブル期〜00年代にかけてのIT需要拡大と、派遣・業務委託の法制度・慣習がミックスされ、複数の中間業者を経由する形で人材が回る「多重下請け」構造ができあがりました。その結果、現場のエンジニアに回る報酬が圧迫され、キャリアパスが見えにくくなった側面があります。
2) 海外ではどうか?(比較)
欧米では「SES」という日本特有の形態(長期で客先常駐し、準委任的に稼働するモデル)が必ずしも一般的ではありません。アメリカではフリーランス(独立契約)や正社員ベースのアサイン、専門会社による短期の契約が主流で、欧州でも請負(成果物ベース)やプロフェッショナルサービス契約が中心です。国際的に見ると「非標準的雇用」の形は多様ですが、日本のように“常態化した客先常駐SES”は特殊だ、という分析が複数の報告で示されています。
3) 年収・実態データ(結論:低めに見えるケースが多いが幅はある)
国全体の給与平均(令和5年/最新統計)は約460万円(給与所得者の平均)。これが比較ベンチマークになります。
国税庁
SESエンジニアの年収はソースによって幅がありますが、「若手は低めスタート(250–350万円)」「30代でおおよそ400〜560万円帯」「上位企業や上流工程に行けば600万円台以上」などの報告があります。つまり一般的なSESだと自社開発と比べて平均は低めに出ることが多いが、企業や担当業務・役割によって大きく差が出ます。
4) なぜ年収が低く見えやすいのか(構造的理由)
多重下請けとマージン:元請→一次→二次…と中間企業が入ると、クライアントが払う金額のうち上流でマージンが取られ、末端のエンジニア報酬に回る割合が小さくなる。
役割の切り分け(作業寄りの業務が多い):要件定義や設計などの上流工程に携われないままテスト/保守/作業のみで終わるケースが多く、市場価値が上がりにくい。
案件の短さ・頻繁な移動:常駐先が変わるたびに評価やスキルの蓄積が断片化しやすい。
5) 自社開発企業との比較
年収:一般に自社開発の方が年収・報酬が高い傾向(ストックオプションやプロダクト貢献に対する評価があるため)。一方でSESでも上流工程や特定の専門分野に行けば同等以上の給与も可能。
スキルの深さ:自社開発はプロダクトに深く関わるため、設計力やドメイン知識が付きやすい。SESは複数案件を横断的に経験できるメリットがある反面、連続した設計経験が得にくいことがある。
キャリア形成:自社→プロダクトオーナーやPdMへの道が明確な場合が多い。SESは現場次第で幅広い経験が積めるが、意図的に上流に繋げる努力(営業・自己研鑽)が必要。
6) SESの“メリット”も正直に(闇だけじゃない)
案件の多さ・就業機会の獲得:需要が大きく、就業/転職の窓口になりやすい。
幅広い技術・業界経験:複数クライアントで短期間に多様な技術やドメインを経験できる。キャリアの“横幅”を早く広げたい人に有利。
安定的な採用チャネル:未経験や若手を採るSES企業は研修制度を持つことが多く、IT業界への入口として機能する。
短期的な収入確保:案件単位で報酬が支払われるため、スキル次第で単価アップを狙いやすい(フリーランス寄りの戦略も可能)。
7) 実務的なアドバイス(SESで損しないために)
中間マージンを意識する:自分の「社内給与」と「顧客に請求される単価」の差を可能な範囲で把握しよう。
上流工程・専門性を自分で作る:要件定義や設計、クラウド/AIなど希少スキルを学び、案件選別で優位に立つ。
企業選び:SESでも「自社プロダクトを持つSIer」「教育・キャリア支援のある会社」「直請け率が高い会社」は年収/成長双方で有利。企業別の平均年収ランキングを参考に。
結論
SESは日本の産業構造と労働慣行から生まれた「合理的だが歪みもある」仕組みです。平均値だけを見ると低く見えがちですが、「どの案件に入るか」「どんなスキルを身につけるか」「どの会社を選ぶか」によって、SESでも十分に年収アップ・キャリアアップできます。闇を知った上で選択肢として活かすか、あるいは自社開発など別ルートを目指すかは、あなたのキャリア設計次第です。