この記事は OPENLOGI Advent Calendar 2025 の4日目の記事です。
3日目の記事は、busyoumono99 さんの「現在のAIを利用した開発の現状についての共有」でした!
はじめに
私は以前、食品・医薬品業界の製造部に所属し、品質管理に近い所から現場を見てきました。現在はオープンロジのQAエンジニアとしてキャリアを積んでいます。
同じ「品質」を扱う役割でも、求められるプロセスやスピード、リスク許容度は違いがあると感じています。本記事では、製造の最前線から品質保証の専門職へ転身した経験からわかる、両業界の品質保証の違いについて話していきます。
【注意】 この記事は、私の 特定の経験 と 個人的な見解 に基づいて両業界を比較したもので、すべての企業や業界全体を代表するものではないのでご承知おきを...!
1. 組織と呼称の違い:「品質保証部」と「QA」の背景
まず真っ先に思い浮かんだのは品質保証の組織名の違いです。
両業界で、品質保証の部署名や職種名が異なる背景には、下記の文化と役割の違いがあるのかなと思います。
| 比較項目 | 🏭 製造業:「品質保証部」「品質管理部」 | 💻 IT業界:「QAエンジニア」/「QAチーム」 |
|---|---|---|
| 文化・起源 | 日本独自の品質管理哲学と共に発展し、日本語が定着 | グローバルなソフトウェア開発から輸入された世界共通語 |
| 役割の核心 | 「部」として、規制や顧客に対し組織全体の責任を負う「ゲートキーパー」 | 「QA (Quality Assurance)」として、品質を技術(エンジニアリング)で実現する役割を強調。 |
2. リスクと対応の速度:製品の性質が定める「バグ」の重み
両業界で、欠陥(バグ)に対する許容度と、発生時の対応速度は大きく異なります。
(これも業界内の分野で大きく異なると思いますが、あくまで私の体験談です)
| 項目 | 食品・医薬品業界 | IT業界 |
|---|---|---|
| リスク許容度 | 極めて低い。欠陥は人命・健康被害に直結する。 | 製品による。サービス継続性のための迅速な回復が重視される。 |
| 対応の焦点 | プロセスの完全な遵守と文書による再現性の証明が最優先。 | 迅速な回復力とビジネス継続性の確保が最優先。 |
| 実体験(製造部から見て) | 製造工程で手順ミスが発覚すると、ロット全体が停止し、プロセスの不備として徹底的な文書化と再発防止策の証明が求められました。 | 本番環境のバグは、パッチ適用やロールバックで速やかにサービスを復旧させることが優先されます。原因究明も並行して進められる。 |
3. 成果物と変化の管理:「SOP」と「テストコード」の役割
品質を担保するための成果物も大きく異なります。製造業が「文書」でプロセスを固定化するのに対し、IT業界は「コード」で品質を担保します。
| 比較項目 | 🏭 製造業QA(SOP/文書) | 💻 IT業界QA(テストコード) |
|---|---|---|
| 品質基準 | SOP (標準作業手順書) や規制当局への提出文書。変更は厳格な承認フロー。 | テストコード、自動化スクリプト。Gitで管理し、変更は柔軟。 |
| 求められる能力 | 正確な文書作成能力、規制知識、現場の標準化能力 | コーディングスキル、自動化技術、監視・分析ツールの活用能力 |
製造業のQAは「品質の再現性」を文書で保証しますが、IT業界のQAは「変化への追従性」をコードで保証することが多いと思っています。キャリアチェンジで、求められるスキルがドキュメントからエンジニアリングへとシフトしたと感じました。
4. 結論:求められるマインドセットの変化
製造業での現場経験は、IT業界でのQAにおいても非常に有用ですが、求められるマインドセットは明確に異なると考えています。
4.1. 製造業(現場視点):プロセスの「完璧さ」を追求
- マインド: 「欠陥が絶対に発生しない状態」を維持するため、プロセスの完全性を追求する
- ITで活きるスキル: プロセスを疑う視点、徹底的な記録の重要性の理解
4.2. IT業界QA:変化への「適応性」と「迅速性」を追求
- マインド: 「変化は避けられない」という前提で、いかに迅速に品質をチェックし、安全に価値をユーザーに届け続けるかに焦点を当てる
- 求められるスキル: 自動化、DevOpsの理解、開発チームとの協調性
さいごに
製造業で培った「プロセスを疑う視点」や「基準への忠実さ」は、ITシステムを堅牢にする上で非常に有用な強みとなると思います。異業種からQAエンジニアにキャリアチェンジを考えている方の参考になれば幸いです。