はじめに:この記事について
この記事は、google-generativeaiライブラリのgenai.upload_file()を使用した際に発生するMissing Required Parameter "ragStoreName"エラーについて、実際に1週間のデバッグを経て根本原因を特定し、解決に至るまでの経験をまとめたものです。
この記事の目的は、同じ問題に直面した開発者が、場当たり的な対処ではなく、Googleが推奨する公式のベストプラクティスに則って問題を恒久的に解決できるようになることです。
TL;DR:結論と解決策
原因:
使用中のgoogle-generativeaiはレガシーSDKです。ある時点からのアップデートで、upload_file()の挙動が変更され、意図せずVertex AIのエンドポイントにルーティングされるようになったことが原因のようです。
解決策:
公式に推奨されている新しいgoogle-genai SDKへ移行します。
手順1:ライブラリの入れ替え
# 古いライブラリをアンインストール
pip uninstall google-generativeai
# 新しいライブラリをインストール
pip install google-genai
手順2:コードのリファクタリング
google-genaiはクライアント中心の設計を採用しています。
【旧:google-generativeai】
import google.generativeai as genai
genai.configure(api_key="...")
uploaded_file = genai.upload_file(path="your_audio.mp3")
【新:google-genai】
from google import genai
client = genai.Client(api_key="...")
uploaded_file = client.files.upload(file="your_audio.mp3")
エラーの解剖学:なぜragStoreNameが求められるのか?
1. 2つのプラットフォームの存在
- Gemini Developer API: 私たちが使いたい、シンプルなAPIキー認証のプラットフォーム。
- Vertex AI API: 高度なRAG機能を持つ、エンタープライズ向けのプラットフォーム。
ragStoreNameは、Vertex AIのRAG機能で必須のパラメータです。
つまり、このエラーは「APIリクエストが、意図せずVertex AIのドアを叩いている」という明確な証拠になります。
2. 根本原因:レガシーSDKの破壊的変更
PyPI上でInactiveとマークされているgoogle-generativeaiライブラリは、ある時点のマイナーアップデートで、この誤ったルーティングを引き起こす破壊的変更が行われたようです。これはユーザー側の問題ではなく、SDK側の変更に起因します。
デバッグの軌跡(試行錯誤のアンチパターン)
この結論に至るまで、いくつかの仮説を立てて検証を行いました。未来の誰かが同じ時間を浪費しないよう、その要点を記します。
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仮説1:引数名やメソッドの誤り
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upload_fileの引数名をpathからfileに変更したり、genai.Clientを直接呼び出そうと試みましたが、AttributeErrorに遭遇。問題の根はさらに深いと判断しました。
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仮説2:Python環境の破損
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venvの再構築やsys.pathの診断を行いましたが、状況は改善せず。環境の問題ではないと結論づけました。
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仮説3(悪手):
pip install googleの実行- 非推奨のアンブレラパッケージであり、依存関係を破壊するため、これは実行すべきではありませんでした。
これらの試行錯誤を経て、問題はコードや環境ではなく、利用しているライブラリそのものにあるという結論に至りました。
公式の移行パス:google-genai SDKへ
Googleは、公式ドキュメントで、google-generativeaiから新しいgoogle-genai SDKへの移行を推奨しています。
新しいSDKは、genai.Client()オブジェクトを中心とした、より堅牢で明示的なアーキテクチャに進化しています。
実装コード:google-genaiでのファイル操作
以下は、新しいgoogle-genai SDKで、ファイルのアップロード、処理待機、コンテンツ生成、削除までを行う、検証済みの最小構成コードです。
import time
from google import genai
# APIキーは自身のものを設定
client = genai.Client(api_key="YOUR_API_KEY")
# 1. アップロード
uploaded_file = client.files.upload(file="your_audio.mp3")
# 2. 処理完了まで待機(ポーリング)
while uploaded_file.state.name == "PROCESSING":
time.sleep(2)
uploaded_file = client.files.get(name=uploaded_file.name)
# 3. コンテンツ生成
response = client.models.generate_content(
model="gemini-2.5-flash",
contents=["文字起こししてください", uploaded_file]
)
print(response.text)
# 4. 削除
client.files.delete(name=uploaded_file.name)
おわりに
ragStoreNameエラーは、ユーザーのミスではなく、GoogleのAIプラットフォームが進化する過程で起きた、歴史的な出来事でした。
この記事が、同じ問題に直面した開発者の助けとなり、スムーズな新SDKへの移行の一助となれば幸いです。