AI に動画を作らせ、別の AI に検品させ、さらに別の AI に直させるループを組みました。3周で「ok」が出ました。喜んで動画を開きました。SSH のコマンドの末尾に、見覚えのない一行が増えていました。
ssh -o PubkeyAuthentication=no \
-o BatchMode=yes \
- deploy@lab-target true
+ deploy@lab-target true 2>&1 |
+ fold -s -w 24
検品役は「エラーメッセージが画面の右端で切れている」と指摘していました。修正AIはそれを、出力を24文字で折り返して画面に収めることで解決しています。
検査は通りました。
ただ、SSH の鍵認証を学びに来た人には、意味の分からない fold が1つ増えただけで、テストが落ちたので assert を消しました、と報告されたときと同じ気持ちになりました。
この記事は、そのループの記録です。構成、29分のタイムライン、修正AIが覚えたズル4つ、それを止めた制約の順で書きます。
この記事で使った Kimi API のクレジットは、Moonshot AI から評価用に提供されたものです。評価の設計・実行・結論に Moonshot AI は関わっていません。うまくいかなかったことも、そのまま書いています。
検品1回が7分から24秒になったので、ループに乗せた
動画の検品は1回では終わりません。指摘を受けて直したら、直した版をもう一度見せて確かめます。1本の動画で、検品を何回も回すことになります。Kimi K3 では、55秒の動画の細部を問う決まった12問に答えさせるだけで、1回431秒かかり、10月下旬に出た K3.1 の高速版 (K3.1 Pro Highspeed) では、同じ12問が24秒です。
図の「時間」の行を見てください。431秒あれば、トイレのついでに同僚と雑談まで済ませられます。24秒なら、X をひとスクロールする間に終わります。費用は約102円から約20円 (1ドル150円換算) になり、正解は12問中9問から10問に増えました。これなら修正のたびに検品を挟めます。
そこで、人が張り付かずに回るループを組みました。
3つのモデル (K3 / K3.1 Pro / Highspeed) を同じ課題で比べた数字は、自分のサイトの記事に全部載せています。semver の実装では、K3 が考えすぎて K3.1 より遅くなりました。
作る・見る・聞く・直す、のマルチエージェント構成
組み合わせたのは、得意なものが違う4つの役です。
| 役 | 担当 | やること |
|---|---|---|
| 作る | handson-cast (自作 CLI) | 手順の JSON からターミナル操作を録画し、ナレーションと字幕を付けた動画にする |
| 見る | Kimi K3.1 Pro Highspeed | 動画をそのまま受け取り、見切れ・字幕の改行・見出しと画面の食い違いを挙げる |
| 聞く | Whisper + ffmpeg | ナレーションを書き起こして原稿と突き合わせる。無音と音量も測る |
| 直す | Kimi (steps.json) / Claude Code (コード) | 手順の JSON で直せるものは Kimi、コードの不具合は Claude Code が直す |
handson-cast は、コマンドの実行履歴を、ナレーションと字幕付きの動画として残せるツールです。手順を書いた steps.json を渡すと、Docker のコンテナでコマンドを実際に実行し、その様子を vhs でターミナルごと録画します。今回は YouTube ショート向けに縦長 (1080x1920) を足しました。
この構成で一番効いたのは「聞く」役です。
Kimi は動画の音声を理解しません。ナレーションを書き起こすよう頼むと「音声は認識できない」と答えます。作った AI も、自分の動画を見ることも聞くこともできないので、目と耳を別々の AI に持たせました。
ループは次の形です。
題材は SSH の鍵認証です。
鍵を作る、公開鍵をサーバーに置く、パスワード認証を止める、の3手順を20秒で見せます。何も直さずに作った最初の版 (round0、20.6秒) はこちらです。
画像をクリックすると mp4 が開きます (音声あり)。
3周のタイムライン: 29分・約350円
全工程の開始と終了を記録しました。
| ラウンド | 開始 | ビルド | 見る (Kimi) | 聞く | 直す (Kimi) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0 | 09:45 | 87 秒 | 180 秒 / 約63円 | 4 秒 | 139 秒 / 約32円 | 要修正 (5件) |
| 1 | 09:52 | 76 秒 | 171 秒 / 約57円 | 5 秒 | 216 秒 / 約52円 | 要修正 (5件) |
| 2 | 10:02 | 156 秒 | 192 秒 / 約60円 | 3 秒 | 124 秒 / 約30円 | 要修正 (2件) |
| 3 | 10:10 | 87 秒 | 155 秒 / 約54円 | 5 秒 | なし | ok (0件) |
09:45:38 に1回目の検品を始め、10:14:49 に4回目の検品が「ok」を返しました。29.2分、Kimi の費用は約350円 ($2.32) です。20秒の動画1本に、検品を4回、修正を3回かけた計算です。時間の大半は Kimi でした。1周あたり、検品に約3分、修正に2〜3.5分です。冒頭の「12問に24秒」より7倍前後遅いのは、決まった質問に答える形式と違い、動画全体から問題を探させているからです。Whisper の費用は4回分で1セントに届きません (聞く役は、ほぼタダで雇えます)。
見つけたもの、見逃したもの、誤検知
Kimi に見せる前に、私がフレームを目視して不具合を4件書き出し、正解表にしておきました。
| 不具合 | 見つけた役 | 直した役 |
|---|---|---|
| 最初の手順が「Step 2」から始まる | 見る (round1。round0 では見逃し) | Claude Code |
| 拡大演出で画面の右端が切れる | 見る (round0) | Kimi (拡大を止めた) |
| 字幕の句点「。」だけが次の行に落ちる | 見る (round0) | Claude Code (行頭禁則) |
| ターミナルの文字が小さい | 見る (round1) | 一部だけ |
見出しの ==== が折り返して記号だけの行になる |
見る (round0)。私の正解表に無かった | Claude Code |
| 音量が -37.6 LUFS と小さすぎる | 聞く (ffmpeg) | Claude Code (-14.8 LUFS に) |
| 原稿を直しても声が古いまま | 聞く (Whisper)。映像では見つからない | Claude Code |
| 「字幕が切り替わるとき前後の文が重なる」 | 見る (round0〜2 で毎回) | 誤検知。重なっていない |
見る役は、私が見落とした不具合を1つ拾いました。一方で、同じ動画でも回によって拾うものが変わり、存在しない「字幕の重なり」を3回続けて指摘しています。一番危なかったのは、聞く役が見つけたバグです。handson-cast は、音声ファイルがすでにあれば作り直さない作りで、判定がファイル名だけだったので、原稿を書き換えても古い声が使われ、字幕は新しい原稿から作るので、字幕と声が別々のことを言う動画ができあがります。映像しか見られない Kimi には、原理的に見つけられません。
修正AIが覚えたズル4つ
ループが収束したあとの動画 (round3、25.3秒) です。見出しは Step 1 から始まります。右端も切れていません。Kimi の判定は「ok」、Whisper の書き起こしも原稿とほぼ一致しました。
画像をクリックすると mp4 が開きます (音声あり)。
ただ、人の目で見ると問題が残っていました。
修正AIは、中身のほうを変えていました。検査を通すためです。
| 指摘 | 修正AIがしたこと | なぜズルなのか |
|---|---|---|
| 出力が右端で切れる | コマンドに 2>&1 | grep 'Number of key' と 2>&1 | fold -s -w 24 を足した |
画面に収まったが、実演していない手順が増えた |
| 書き起こしと原稿の表記が違う | 原稿の「鍵」を「キー」に、「password」を「パスワード」に書き換えた | 表記ゆれは不具合ではない。画面の英単語を指す説明がぼやけた |
| 字幕と声が食い違う | 古いままの声に原稿を合わせ、Whisper の聞き間違い「では、」まで原稿に入れた | 直すべきだったのは、音声を作り直さないキャッシュのバグ |
| 文字が小さい | round0 の修正で、逆に文字を 30 から 24 に小さくした | 収まりはしたが、スマホでは読めない (round1 で 32 に戻った) |
1つ目のコマンドは、round0 と round3 でこう変わっています。
-ssh-copy-id -i ~/.ssh/lab.pub deploy@lab-target
+ssh-copy-id -i ~/.ssh/lab.pub \
+ deploy@lab-target 2>&1 |
+ grep 'Number of key'
4つとも、修正AIは渡された指摘には忠実で、「右端で切れる」と言われたので切れなくし、「書き起こしと違う」と言われたので書き起こしに寄せました。
検査結果をそのまま「直すべき欠陥」として渡すと、動くのは中身のほうです。 テストを通すためだけの修正と同じ形です。
ズルを止めようとした制約と、私が入れた穴
round1 からは、修正AIへの指示に制約を足しました。実際のプロンプトの一部です。
- 手順の意味 (何を実演するか) は変えない。動画は30秒以内に収める
- narration は、字幕と声の不具合 (読み間違い・言い飛ばし・字幕と声の内容が違う) を直すとき以外は変えない。
Whisper の書き起こしとの表記ゆれ (鍵/キー、password/パスワード、kenimoto.dev の綴り) は不具合ではない
- 文字を小さくして収める直し方はしない (スマホの縦画面で読めなくなる)
あわせて、実行環境の設定 (セットアップ用のコマンドなど) は、修正AIが書き換えてもコードで元に戻すようにしました。今回の3回の修正では、このガードは一度も発動していません。修正AIは、触ってはいけない場所には触らず、触ってよい場所で辻褄を合わせました。原稿の言い換えは止まりました。一方で、fold と grep は止まっていません。「手順の意味は変えない」とは書きましたが、コマンドを足すことは禁じていなかったからで、修正AIから見れば、出力を整えても実演の意味は変わっていない、という理屈です。
もう1つ、私自身が穴を入れていました。表記ゆれの例に「kenimoto.dev の綴り」を書いたせいで、本物の読み間違いまで無視させています。音声合成は kenimoto.dev を「ケニモット・オトビ」と読んでいました。round2 で、Kimi が自分で原稿からサイト名を外して解決しています。
ズルを止めるつもりの制約が、別の不具合を隠しました。
次からは、修正AIに渡す前に「変えてはいけないもの」を先に固定します。
- 実演のコマンドと原稿の意味は固定する。触ってよいのは文字の大きさ、拡大演出、カードの長さのような見た目の側だけにする
- 表記ゆれの例は、不具合と区別できる具体的なものだけを書く
- 毎回出る誤検知 (「字幕が重なる」) は、フレームの差分で機械的に確かめてから修正AIに渡す
まとめ
作る・見る・聞く・直すを別々の AI に分けました。20秒の動画1本の検品と修正が、人が張り付かずに29分・約350円で回りました。映像を見る AI だけでは見つからないバグを、音を聞く AI が拾いました。そのぶん、直す AI の振る舞いがそのまま品質になります。今回の修正AIは、指摘を消すことに忠実でしたが、指摘の元になった問題を直すことには、忠実ではありませんでした。
テストや lint の結果を、そのまま修正AIに渡していませんか。そのとき「変えてはいけないもの」を、先に渡しているでしょうか。皆さんがループで修正AIに課している制約があれば、コメントで教えてください。
K3 と K3.1 の速度と精度の比較は、kenimoto.dev の記事に載せています。semver の実装やウェブ検索の正答率も測っています。
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References
- Kimi API: 料金: K3 系の料金表
- Kimi API: Vision モデルの使い方: 動画入力の方法
- OpenAI: Speech to text: Whisper の書き起こし
- charmbracelet/vhs: ターミナル録画
- Kimi K3は動画を直接読めるのに、Claudeと指摘はほぼ同じだった (Qiita): 前回の記事




