Claude Codeに「京都の雪夜、着物姿の女性が路地を歩く、浮世絵風で描いて」と話しかけたら、35秒後にJPEGファイルが samples/kyoto-alley.jpg に保存されていました。
生成したのは DALL-E でも Stability AI でもなく、家に置いてある RTX 4070 12GB のゲーミングPCです。先月、ChatGPT Plusを解約しました。
家のPCで動くと聞いた時、正直信じていませんでした。私の常識では、Stable Diffusion レベルの実用生成には RTX 4090 (24GB) が必要で、12GB は「動きはする」レベルだったからです。
でも実際にやってみたら、動きました。それも、Claude Code の会話の中で /wan2gp --start と打つだけで、以降は「絵を描いて」の1行で呼び出せる状態になりました。
以下、その顛末です。
事件の発生 -- Claude Code が絵を出してきた
私が Claude Code に投げたプロンプトは日本語1文でした:
提灯の光で照らされる、雪が降る夜の京都の路地。石畳、木造の町家、着物姿の女性が傘をさして歩く。浮世絵風、水彩画タッチ、静謐な雰囲気。
英語に書き直していません。Qwen Image 2512 の text encoder が日本語を直接解釈します。
生成時間 35秒。VRAM peak 10.9GB (12GB上限の99%)。生成された絵は、提灯・雪・石畳・町家・着物女性・傘、すべてプロンプト通り。しかも 奥にもう1人、赤傘をさした女性が配置されていました。頼んでいないのに。
「AIには彼らなりの意思がある」と言い聞かせつつ、私は nvidia-smi を叩きに走りました。本当に家のPCで生成しているのか信じられなかったからです。動いていました。VRAM は 99% 使い切っていて、GPU 温度 78℃、Fan 95%、Power 190W。紛れもなく私のPCが働いていたんです。
きっかけ -- SD1.5時代の失望と、月$20の逡巡
正直に言うと、家のPCで画像生成する体験に、私はもう期待していませんでした。
数年前、Stable Diffusion (SD1.5 / SDXL) を家のPCで走らせて遊んでいた時期があります。技術的には面白かった。でも、SNS や記事に使うイメージ画像としては、正直さんざんな出来でした。手が6本になる、指定した服装で出ない、細部が破綻する、日本語プロンプトは英語に書き直し必須、そして書き直した英語プロンプトも思ったように解釈されない。「1枚hitするまで100枚試行する」というのが、当時のワークフローでした。
なので私は SaaS に流れました。ChatGPT Plus 月$20 で DALL-E に頼めば、少なくとも「そのままSNSに貼れる品質」の絵が出ます。技術的な負けを認めて、財布で解決した形です。
ただ、使うたびに引っかかることがありました:
- これ機密プロンプトだけど、送っていいのかな? (契約・社内情報を含むアイディアなど)
- 月$20 × 12ヶ月 = 3.6万円/年。ジワジワ効く
- DALL-E の生成テイストは選べない。カウボーイの油絵風がほしくても、DALL-E は DALL-E の絵しか出さない
そんな時、Wan2GP という OSS が「4070 12GB でも 20B クラスのモデルが動く」と主張しているのを見つけました。半信半疑でした。SD1.5 時代の記憶があるので、「動いてもどうせさんざんな出来だろう」と。
でも iris-hub に issue を切って検証を始めました。予想は、いい意味で裏切られることになります。
半信半疑でセットアップ -- 33GB DL に驚愕する
Wan2GP のインストールは (書いてみれば) たった4ステップです:
# 1. Wan2GP clone
git clone https://github.com/deepbeepmeep/Wan2GP.git
cd Wan2GP && python -m venv .venv && source .venv/bin/activate
# 2. torch + 依存 (Wan2GP v12.3 + CUDA 13.0 の 2026-07 検証時点の組み合わせ)
pip install torch==2.10.0 torchvision==0.25.0 --index-url https://download.pytorch.org/whl/cu130
pip install -r requirements.txt
# 3. MCP server 起動 (WebUI ではなく MCP モード)
python wgp.py --mcp --mcp-transport streamable-http --mcp-host 0.0.0.0 --mcp-port 7861
# 4. Claude Code に登録 (1行)
claude mcp add --transport http wangp http://100.72.192.8:7861/mcp
でも実際の壁は モデルの初回DLでした。Qwen Image 2512 20B、33GB。「実家の光回線なら NTT から電話が来るサイズ」です。私の PC の disk /dev/sdd の Used が 5分ごとに 3GB ずつ増えていくのを眺めながら、コーヒーではなくお茶を淹れました。
15分待って、ようやくモデルロードが始まりました。mmgp offload (Wan2GP作者の DeepBeepMeep氏 の実装) というのが、transformer を pinned system RAM に退避して、必要ブロックだけ VRAM に流し込む仕組みらしいです。要は「メモリ足りないから貸してくれ」を毎ステップやっているだけなんですが、これが本当に動きました。
最初の1枚 -- 7秒で JPEG が出た
一番小さいモデル (Z Image Turbo, 蒸留8ステップ) を試したら、7秒で 193KB の JPEG が outputs/ に落ちてきました。
デフォルトプロンプトは「A large orange octopus resting on the ocean floor. Unaware of a king crab crawling from behind a rock...」という、蛸と蟹の海底ドラマ。プロンプトでは蛸は目を閉じているはずなんですが、生成された絵の蛸は目を見開いていました。
でも、細部が破綻していない。SD1.5 時代なら、蛸の触手が本数おかしい、蟹の脚が生えているべきでない場所から生えている、みたいなことが起きていました。今回は、蛸も蟹も、そのまま SNS に貼れるレベル。**「もしかして家のPCで、ちゃんと絵が出る時代になった?」**という予感がここで初めて芽生えました。
VRAM peak は 1.1GB。他の 90% は system RAM offload に退避されていました。「12GB は動きはするレベル」という私の思い込みが、この時点で崩れました。
次に Flux 1 Chroma HD 12B を試したら、73秒。プロンプトはたった3語 (draw a hat) だったのに、老カウボーイの油絵肖像が出てきました。帽子とだけ言ったのに西部劇が始まった。
そして冒頭の Qwen Image 2512 (35秒、日本語プロンプト完璧)。ここで私は「これ、家のPCで生成してるんだよな?」を3回くらい確認しました。
動画も動いた -- ただし65分
flagship の Wan 2.1 T2V 14B (動画モデル) も試したら、5秒の 480p動画が 65分で生成されました。30ステップ × 平均131秒/step。5秒の動画に1時間強。
VRAM peak は 11.9GB (99.2%)。12GB のうち残り 106MiB という、限りなく OOM 直前で綱渡りしていました。
これで「動画は実用外」という結論が出ました。だが同時に、「4070 12GB で flagship 動画モデルが動く」という事実の証明にはなりました。日常使うなら 1.3B か FastWan 5B が次の検証候補です (どちらも未実測、別記事で扱います)。
Salad Cloud との喧嘩 -- 数時間ハマる
事件は、Wan2GP を起動しようとしたら OOM で死んだところから始まりました。
nvidia-smi を叩くと、VRAM 9500MiB / 100% util / Fan 95% / 200W の表示。何かが GPU をがっつり掴んでいます。私の PC で GPU 使うプロセスは Wan2GP しかないはず...と思って原因を探ったら、Salad Cloud でした。
Salad Cloud は、アイドル時間の GPU を貸し出して earning するサービスです。私は月$10-30 のお小遣い程度に走らせていました。電気代でトントン、心の平和のためのユーティリティとして。
普段は無害なんですが、GPU がっつり使うワークロード (Wan2GP) と競合します。「pause until (idle)」機能があるので Salad アプリで停止したところ...変わらず 100% util。
pause until はUI上停止に見えても実際は止まっていませんでした。正確には「新規ジョブは受け付けない」だけで、現在ジョブは完走まで続く仕様。悪意ではないですが、これで数時間溶かしました。Windows の Task Manager でGPU使用プロセスを眺めていた3時間、私は何をやっているのか分からなくなりました。
結局、Windows service SaladBowl を net stop するしかありません。ただし、Windows service を非管理者権限で操作するには、sc.exe sdset で Interactive Users に RPWP 権限を追加する one-time SDDL 変更が必要でした:
# 管理者PowerShellで一度だけ
sc.exe sdset SaladBowl "D:(A;;CCLCSWRPWPDTLOCRRC;;;SY)(A;;CCDCLCSWRPWPDTLOCRSDRCWDWO;;;BA)(A;;CCLCSWRPWPLOCRRC;;;IU)(A;;CCLCSWLOCRRC;;;SU)"
# → [SC] SetServiceObjectSecurity SUCCESS
sc は PowerShell では Set-Content の alias に取られるので、sc.exe と明示する必要があります。ここでもう1時間溶かしました。
Skill 3つで「絵を描いて」を1行にする
このハマりを二度と繰り返したくないので、Claude Code の slash command で呼べる skill を3つ作りました。
-
/wan2gp --start-- 内部で Salad を止め、GPU を確保、MCP server を起動し、Claude Code に登録 -
/wan2gp --stop-- MCP を止め、Salad を自動再開 -
/salad --status/gpu --status-- 状態確認
これで、生成したい時は /wan2gp --start の1コマンド、終わったら /wan2gp --stop。Salad は勝手に earning を再開して、私は何も考えない。
MCP が起動している状態では、Claude Code の tool に wangp_generate wangp_get_job 等 11本が現れます。以降は会話中に:
「京都の雪夜を描いて」の1行で、Claude Code が MCP tools を叩き、35秒後に samples/ にファイルが落ちる。会話の流れを途切れさせずに絵が返ってきます。
MCP は HTTP なので curl でも叩ける
ここまでの流れは Claude Code 前提で書きましたが、MCP 自体は streamable-http なので、Claude Code なしでも curl で叩けます。cron や他ツールから呼びたい人向けに、生の JSON-RPC 例を置いておきます:
curl -sL -X POST http://100.72.192.8:7861/mcp/ \
-H "Content-Type: application/json" \
-H "Accept: application/json, text/event-stream" \
-d '{
"jsonrpc":"2.0","id":1,
"method":"tools/call",
"params":{"name":"wangp_generate","arguments":{
"source":{
"settings":{
"prompt":"満月の下、雪原に佇む一本の桜の木",
"model_type":"z_image","num_inference_steps":8,"batch_size":1
},
"_api":{"return_media":true}
}
}}
}'
# → {"job_id":"82d4101d9b3f45ecbb68aea224ca5130", ...}
以降は wangp_get_job で polling。cron・シェルスクリプト・n8n から呼び出すのも同じ要領です。
コスト、そして解約
肝心のコストです。ChatGPT Plus 月$20 × 12ヶ月 = 年間 3.6万円 ($1=150円換算)。 私のPCは BTO実勢で40万円 (i7-14700KF + RTX 4070 12GB + 32GB RAM)。画像生成"だけ"で回収すると約11年かかります。私が45歳になる頃に元が取れる計算。
なので 「回収」を真面目に語るのは無理筋です。実際は開発・ゲーム・SNS運用・機密プロンプト回避・副業 (Salad) の複合資産として買っているわけで、画像生成は電気代を除けば追加コストゼロで手に入ったオマケです。
既存PCに RTX 4070 単体追加 (6-9万円) なら 2-3年で回収、これは現実的な数字です。DIY派・GPU換装できる人にはこちらを勧めます。
誰にお勧めか
- RTX 4070 12GB (または 3060 12GB) を既に持っている人: Wan2GP install で 30-80GB DL、それだけで DALL-E 級の画像生成が家に来ます
- 月$20+ を画像生成に払っている人: 9万円のGPUを1枚追加すれば 2-3年で回収
- 機密プロンプトを外部に送りたくない人: ローカル完結、外部 API 一切なし。契約情報や社内アイディアを含むプロンプトも「送っていいのかな?」の逡巡なしに投げられます
- Claude Code ユーザー: MCP tools が11本手に入って、会話中に絵が生まれる UX がついてきます
一方で、動画生成はまだ実用外。Wan 14B が 65分/枚では日常使えません。Wan 1.3B か FastWan 5B が現実解ですが、これは別記事で書きます。
回収期間は11年です。それでも、月$20 を SaaS に払い続けるより、家のPCで自由にやる方を選びました。
📘 この記事の内容をさらに詳しく知りたい方へ
実践Claude Code: コンテキストエンジニアリングで開発が変わる -- Claude Code から MCP を叩いてエージェント化する設計思想を、CE の観点でまとめました。本記事の Wan2GP MCP 統合はその応用例です。
参考リポジトリ:
- deepbeepmeep/Wan2GP - v12.3で検証
-
/wan2gp/salad/gpuskill の詳細は本文§7に載っています (個人リポジトリで管理、公開版は準備中)


