はじめに
先日参加したドメイン駆動設計(DDD)に関する勉強会で出された課題に取り組みました。
課題の内容は、AIに「美容室を5店舗経営している社長」を演じてもらい、システム開発者の立場でヒアリングするというものです。
ヒアリングした内容をもとに業務を「コア・支援・汎用」のサブドメインに分類し、ドメインビジョンステートメントを書いて、そのフィードバックをもらうまでが一連のワークです。
結論から言うと、「他社よりリピート率が高い」ことまではわかったのに、それを生み出している具体的な行動を特定できないまま分類してしまいました。
ヒアリングの中にヒントはあったのに、拾えていなかったのが一番の学びです。
この記事では、練習のやり方、自分の分類とフィードバック、そして「どう聞けばよかったか」を整理します。
練習のやり方
AIに次のような指示を出しました。
あなたは美容室を5店舗経営している社長です。
私はシステム開発者で、新しい業務システムを作るためにヒアリングをします。
・あなたの会社が他社に勝っている本当の理由を、あなた自身で一つ設定してください。
・その理由は、聞かれない限り自分からは話さないでください。
・業務について聞かれたら、具体的なエピソードを交えて自然に答えてください。
・質問が表面的であれば、表面的な答えを返してください。
・私が「フィードバック」と入力したら、私が貼り付ける分類と文章を評価してください。
ポイントは**「本当の強みを隠してもらう」ことと、「表面的な質問には表面的に答えてもらう」**ことです。
こうすると、質問の質がそのまま得られる情報の質に反映されます。
最後に自分で業務を分類し、ドメインビジョンステートメントを書いて評価してもらいました。
ヒアリングの流れ(ざっくり)
この記事に出てくる会社・数字・エピソードは、すべてAIが演じた架空の設定です。
| 自分の質問 | 社長の答え(要約) |
|---|---|
| どんな業務フローがありますか? | 予約→受付→カウンセリング→施術→会計。裏でシフト・発注・給与計算 |
| 一番大切にしていることは? | お客様に満足してもらうこと(※建前っぽい答え) |
| カルテは紙ですか? | 施術後に記入。会話で出た話を書いている子もいる |
| 本部への報告は? | 毎日LINEで売上・客数・次回予約の件数を報告 |
| リピーターはどのくらい? | 新規の再来率が6割弱(業界は3割程度) |
| なぜリピートが多い? | 技術とカウンセリングだと思う。次回予約は7割取れている |
| 次回予約は皆さん同じ? | スタッフで4〜9割の差がある。トップの店長はカルテ裏に会話をメモしている |
太字のところが、あとから振り返るとヒントだった部分です。
自分の分類
| 業務 | 分類 | 理由 |
|---|---|---|
| 予約管理 | 支援 | 重要度は高いがどこもやっている |
| 接客・顧客管理 | コア | ヒアリングシートとカルテ管理でリピーターを獲得している |
| 会計 | 汎用 | どの会社も必須 |
| 発注 | 汎用 | どの会社も必須 |
| シフト管理 | 支援 | 接客の質を上げるために重要 |
| 本部への報告 | 汎用 | 必ず必要 |
| 給与計算 | 汎用 | どの会社も同じ |
| 新人教育 | 支援 | 接客の質を上げるために必須 |
| 採用 | 汎用 | どの会社も同じ |
「接客・顧客管理」をコアにして、ステートメントには「ヒアリングに時間をかけ、会話をメモして信頼関係を築き、リピート率を上げている」と書きました。
答え合わせ:設定されていた本当の強み
AIが設定していた強みはこれでした。
会話から拾ったお客様の生活イベント(旅行・卒業式・異動など)をカルテ裏にメモし、会計時にそれを根拠に「次に来る理由」を添えて次回予約を提案している。
ただしこれは一部スタッフの個人ノウハウで、仕組みになっていない。
方向性は合っていましたが、範囲が広すぎました。
「ヒアリングシート」や「施術記録」はどの美容室でもやっていることで、差別化要因ではありません。
本当のコアは 「生活イベントの記録 → 次回来店理由の提案 → その場で予約獲得」 という一連の流れでした。
学び1:他社との違いを「具体的な行動」まで掘れていなかった
「リピート率が業界水準より高い」ことはわかりました。
でも「じゃあ何がそれを生んでいるのか」を具体的に掴まないまま、分類に進んでしまいました。
振り返ると、ヒントはヒアリングの中にありました。
- カルテの話で「会話で出た話を書いている子もいる」と言われていた
- 本部への報告項目に「次回予約の件数」が入っていた
どちらも、「それは何に使っているんですか?」「なぜそれを毎日報告させているんですか?」と一歩踏み込めば、強みに早くたどり着けたはずです。
経営者は自分の本当の強みを「当たり前のこと」だと思っていることが多いので、本人が強調しないけど数字が突出しているところを掘る必要があると感じました。
こう聞けばよかった
抽象度の高い質問で「他社との違い」を見つけたら、そこを起点に「なぜ?」を重ねて具体的な行動まで下りていく流れです。
なぜリピート率が高いのか?
→ その場で次回予約が取れているから
なぜその場で予約が取れるのか?
→ 「次に来る理由」を具体的に提案できているから
なぜ具体的に提案できるのか?
→ 会話から生活イベントを記録して、それをもとに話しているから
それは全員ができているのか?
→ できていない。スタッフで4〜9割の差がある
なぜ差があるのか?
→ 一部のスタッフの個人ノウハウで、仕組みになっていないから
ここまで聞けていれば、コアドメインの特定と**システムで解決すべき課題(ノウハウの属人化)**の両方が見えていました。
ほかにも、次のような質問が有効だと教わりました。
| 質問の型 | 例 |
|---|---|
| 数字で差を聞く | 同業他社と比べて一番差がある数字は何ですか? |
| ばらつきを聞く | 成績の良いスタッフとそうでないスタッフは何が違いますか? |
| 瞬間を特定する | その数字は来店のどの場面で生まれていますか? |
| 欠落を想定する | もし〇〇さんが辞めたら、何が一番困りますか? |
| 具体を聞く | 最近一番うれしかったお客様とのエピソードは? |
「一番大切にしていることは?」のような質問は、建前の答えが返ってきやすいので注意が必要だと感じました。
学び2:サブドメインは「機能」ではなく「能力」の単位で分ける
自分は「予約管理」「会計」のように、画面や機能の単位で業務を分けていました。
そのせいで、予約管理をひとまとまりにして「支援」にしていました。
でも実際は、予約管理は2つに分かれていました。
| 中身 | 分類 |
|---|---|
| ネット予約・電話予約の受付 | 汎用(既存サービスで十分) |
| 会計時の次回予約提案 | コア |
コアが汎用的な業務の中に紛れていたわけです。
サブドメインは機能ではなく「その会社が何をうまくできるか」という能力の単位で切ると見えてくる、というのが一番印象に残りました。
分類理由の軸も足りていなかった
自分の分類理由は「どこもやっている」「重要だから」の一軸になっていました。
フィードバックでは、次の観点が抜けていると指摘されました。
- 競争優位性:他社との差を生んでいるか
- 複雑さ:暗黙知に依存していないか(今回はスタッフで成果が4〜9割とばらつく)
- 変わりやすさ:改善し続ける対象か
また、「重要度が高い」はコアの理由になりません。会計も給与計算も重要ですが、差別化要因ではないので汎用です。
学び3:コアを特定しないと「ただの電子化」で終わってしまう
フィードバックでは、強みを知らないままカルテを電子化すると、自由記述の会話メモが削られてコアを壊すかもしれない、と指摘されました。
自分のヒアリングを振り返ると、まさにその方向に進んでいました。
紙管理による情報伝達の課題に目が行き、「カルテを電子化して全店で共有する」ことを解決策として考えていたからです。
でも、実際に一番必要だったのは自由記述欄を残すこと、なんならそこをもっと書きやすくすることだったと思います。
もちろん全店で共有できたほうがいいです。
ただ、次回予約率が高いスタッフは、メモの精度が高く、それを次の来店で活かせていました。 そしてそれが会計時の予約獲得につながっています。
共有の仕組みだけ整えても、書かれるメモの質が上がらなければ、リピート率には効きません。
「メモの精度」とは何か
ここで言う精度は、たくさん書いていることでも、正確に書いていることでもありません。
トップの店長が書いていたのは「8月に沖縄旅行」「来年3月に娘さんの卒業式」のような、時期がわかる先の予定でした。
時期がわかるからこそ、「出発の1週間前にどうですか」と具体的に提案できます。
つまり精度とは、次に来る理由になる情報を拾えているかどうかだと考えました。
「いつ行かれるんですか?」と時期まで聞けているかが、メモの価値を決めています。
自分ならこう作る
この考えをもとに、システムとしての打ち手を考えてみました。
- 施術中の会話を音声で取得し、内容をテキスト化する
- その中から時期のある予定を抽出し、色付きで目立つように表示する
- 会計で次回予約の話になったとき、その予定の前に整えられるよう来店時期の候補をレコメンドする
スタッフが「メモを書く」負担を減らしつつ、トップの店長がやっていた「時期を拾う→その前に提案する」流れを、誰でも再現できるようにするイメージです。
実際に導入するなら、会話を録音することへのお客様の同意など、配慮すべき点も出てくると思います。
同じ「カルテのシステム化」でも、コアがわかっているかどうかで優先順位がまったく変わります。
| 最優先にすること | |
|---|---|
| コアがわかっていない場合 | 電子化して共有する |
| コアがわかっている場合 | 会話メモを書きやすくし、次の来店で活かせるようにする |
コアを確実に特定し、それをベースにしたシステムでないと、現場には刺さらないと感じました。
書き直したドメインビジョンステートメント
フィードバックで書き直し例ももらいましたが、学びを踏まえて自分でも書き直してみました。
コアドメインは「次回予約の獲得」である。
施術中の会話からお客様の生活イベントとその時期を聞き取って記録し、会計時にそれを根拠とした来店時期を提案することで、次回予約率約7割という、他店を大きく上回る水準を実現している。これが一番の強みである。
一方で、これを実践できているのは一部のスタッフに限られ、メモの質や提案の仕方にスタッフ間で差がある。
今後の店舗展開や事業拡大に向けては、このノウハウを全スタッフで共有し、再現できるようにする必要がある。
AIの例では「次回来店の創出」となっていましたが、自分は**「次回予約の獲得」**にしました。
強みが生まれているのは会計時にその場で予約を取る瞬間であり、そのほうが具体的で、成果も次回予約率として測れるからです。
元のステートメントは「ヒアリングに時間をかける」「信頼関係を築く」など、どの美容室でも言えることが中心でした。
書き直した版では、他社が何をしていなくて、自社が何をしているのかを具体的に書けたと思います。
まとめ
- 「他社より〇〇が高い」がわかったら、そこで止まらず「なぜ?」を重ねて具体的な行動まで掘る
- 本人が強調しない「当たり前」の中に強みがある。数字が突出しているところを見逃さない
- サブドメインは機能ではなく能力の単位で分ける。汎用業務の中にコアが紛れていることがある
- 分類の理由は「重要かどうか」ではなく、競争優位性・複雑さ・変わりやすさで考える
- コアを知らずにシステム化すると、コアを壊す可能性がある
AIにロールプレイしてもらう練習は、強みを隠してもらうことで自分の質問の浅さがはっきり見えるので、ヒアリングの練習としてかなり良かったです。
今後実務で同じような場面が出てきたときも、「なぜ?」を繰り返して強みの根幹にある具体的な行動を特定し、それがどう強みになっているのかを理解してから、何をシステム化するかを考えるようにしたいです。