はじめに
平面を等面積の領域に分割するとき、境界線の長さを最小化する形状は正六角形です。
この形は、ハチの巣からJWSTまで様々な場所で応用されています。
では、このような六角形の規則的な配列を、数学的に再現することはできるのでしょうか。
この記事を読むとハニカム構造の背後にある位相幾何と双対性が見えるようになる
まずはこのGIF動画を見てみてください。
ランダムな点群から六角形の構造が現れる様子が直感的にわかると思います。
ここではボロノイ分割と呼ばれるやり方を用いて、形成過程をシミュレーションしています。平面上に点をランダムに配置して各位置を最も近い点に割り当てることでボロノイ領域を作っています。
領域の作り方は、実はとてもシンプルです。下の図を見てください。
まず、平面上に複数の点をランダムに配置します。
次に、平面上のあらゆる位置について、最も近い点を探します。
最も近い点が切り替わる場所に境界線を引くと、図のように平面が多角形の領域に分かれます。
この分割方法をボロノイ分割と呼び、最初に配置した点を母点、各点が担当する領域をボロノイ領域と呼びます。
数学的には、母点 $p_i$ に対応するボロノイ領域 $V_i$ を次のように定義します。
V_i = \left\{x \in \Omega \;\middle|\; \|x-p_i\| \leq \|x-p_j\|,\quad \forall j \neq i \right\}
ここで、$\Omega$ は分割する平面領域、$\|x-p_i\|$ は位置 $x$ と母点 $p_i$ の距離を表します。
図の青い領域は、中央の点 P が他のどの点よりも近くなる位置の集合です。隣り合う領域の境界では、2つの母点までの距離が等しくなるため、境界線は母点同士を結ぶ線分の垂直二等分線の一部になります。
ボロノイ分割とは「どの点に最も近いか」という単純なルールから、多角形の幾何学的構造を作り出す手法のこと
次に、各領域の重心へ点を移動させます。この操作を繰り返すアルゴリズムが
「ロイド法」と呼ばれています。
この操作を繰り返すことで、ランダムな点群が六角形の構造に収斂していくのです。
ロイド法の繰り返し
では、これを実際に数百回繰り返すと、どのような変化が起こるのでしょうか。
今度はこちらの動画を見てみてください。
驚くべきことに、点を重心へ移動させるだけで、不規則だった領域が次第に均一化され、六角形に近い構造が自然に現れます。
右側のグラフは、ボロノイ領域全体に占める六角形の割合を示しています。初期状態では約25%でしたが、わずか8回の反復で約60%、数百回の反復後には80%を超えています。
では、なぜ重心への移動という単純な操作が、六角形の規則的な配列を生み出すのでしょうか。その理由を理解するには、この操作が何を最小化しているのかを考える必要があります。
なぜ六角形になるのか
次のような関数を考えます。
E=\sum_{i=1}^{N}\int_{V_i}\|x-p_i\|^2\,dA
これは、各ボロノイ領域の内部にあるすべての位置から、その領域を担当する点までの距離を測り、距離の2乗を足し合わせたものです。つまり、この値が小さいほど、平面上の各位置と、それを担当する点との距離が全体として小さくなります。
ロイド法は、この $E$ を小さくする方向へ点を移動させています。
あるボロノイ領域 $V_i$ の重心を $c_i$ とすると、次のように表せます。
c_i=\frac{1}{A_i}\int_{V_i}x\,dA
ここで $A_i$ は領域の面積です。
実は、先ほどの距離の2乗の積分は、次のように分解できます。
\int_{V_i}\|x-p_i\|^2\,dA
=
\int_{V_i}\|x-c_i\|^2\,dA
+
A_i\|p_i-c_i\|^2
右辺の第1項は領域の形状が決まれば一定です。
その一方で、第2項は必ず0以上で、点 $p_i$ が重心 $c_i$ に一致したときに0になります。
つまり、領域内の各位置からの距離の2乗の総和を最小化する点は、まさにその領域の重心になるのです。
1種類の正多角形だけで平面を隙間なく敷き詰められるのは、正三角形・正方形・正六角形だけです。同じ面積 $A$ にそろえ、重心 $c$ からの距離の二乗を積分すると、
\frac{1}{A^2}\int_V\|x-c\|^2\,dA
\approx
\begin{array}{ll}
0.19245 & \text{(正三角形)}\\
0.16667 & \text{(正方形)}\\
0.16038 & \text{(正六角形)}
\end{array}
となります。この3種類の規則的な敷き詰めでは、六角形がロイド法の減らす量 $E$ を最も小さくできます。
球面上のボロノイ分割
平面では、ロイド法を繰り返すことでボロノイ領域は六角形を中心とした構造へ整っていきます。では、舞台を平面から球面へ移したらどうなるでしょうか。
球面は局所的には平面に見えても、大域的には曲率をもつ閉じた空間です。そのため、平面で成り立っていたことがそのまま維持されるとは限りません。
見ての通り、球面では六角形だけで分割を完結させることはできません。
サッカーボールやフラーレンにも見られるような球面上で構造を作ろうとすると、どこかで五角形など、六角形以外の領域が必要になります。
なぜ球面では六角形だけにならないのか
これは、オイラーの多面体定理から数学的に説明できます。
球面を多数の多角形に分割したとき、頂点の数を $V$、辺の数を $E$、領域(面)の数を $F$ とすると、次の関係が成立します。
V-E+F=2
これは球面と同じ位相を持つ閉じた多面体で必ず成立する関係式です。
ここで、ボロノイ分割の各頂点には、通常3本の辺が集まります。そのため、頂点と辺の数には次の関係があります。
3V=2E
左辺の3は1つの頂点に集まる辺の数、右辺の2は1本の辺が2つの頂点を結んでいることに対応します。
この式をオイラーの公式に代入すると、
\frac{2E}{3}-E+F=2
整理して、
6F-2E=12
が得られます。
さらに、$F_n$ を「$n$ 本の辺を持つ領域の数」と定義します。
すべての領域の辺の数を足し合わせると、各辺は隣接する2つの領域から数えられるため、
F=\sum_n F_n\qquad 2E=\sum_n nF_n
となります。これらを先ほどの式に代入すると、
\boxed{\sum_n (6-n)F_n=12}
という関係式が導かれます。
これが、球面上の多角形分割を支配する制約になっています。
例えばすべての領域が六角形だったとすると、$n=6$ なので左辺は0になって破綻します。
では、五角形と六角形だけを使うとどうなるでしょうか。この場合、
(6-5)F_5+(6-6)F_6=12
したがって、
\boxed{F_5=12}
このように、六角形が何個あっても五角形は必ず12個必要になります。
ただし、今回のGIFでは五角形と六角形以外にも、四角形や七角形などが現れます。その場合には必ずしも五角形が12個になるわけではありません。
例えば、五角形・六角形・七角形だけが存在する場合は、
F_5-F_7=12
が成立します。七角形が1つ増えれば、それを補うために五角形も1つ余分に必要になります。
点の数を変えてみると....
球面上では、配置した点の数がそのまま面の数に対応するため、点の数を変えることで様々な多面体に対応する構造を再現できます。
同じ72点でも初期配置によって異なる構造が現れます。
4点では正四面体、32点ではサッカーボール型の分割が現れます。また、同じ点数でも初期配置によって異なる構造に収束することがあり、ロイド法の結果が必ず一意に決まるわけではありません。
応用 : ドロネー三角形分割とは
最後に、さっきのサッカーボールがジオデシックドームになる様子を動画で見て欲しいです。
ボロノイ分割で隣接する領域の点同士を結ぶと、分割の「双対」にあたるドロネー三角形分割が現れます。上の動画では、サッカーボール状の分割が三角形のネットワークへ変わっていく様子がわかると思います。
ボロノイ分割とドロネー三角形分割の双対関係は次のようになっています。
- ボロノイ分割の1つの領域 ↔ ドロネー分割の1つの点
- ボロノイ分割で隣接する2領域 ↔ ドロネー分割でその2点を結ぶ辺
- ボロノイ分割で3つの領域が接する頂点 ↔ ドロネー分割の1つの三角形
という対応があります。
同じ球面上の構造を、ボロノイ分割では「領域の集まり」として、ドロネー分割では「点のつながり」として見ていることになります。
この三角形ネットワークは実際の構造物にもよく現れます。
その代表例がジオデシックドームです。

図:山梨県富士吉田市の富士山レーダードーム館。撮影:Alpsdake / 出典:Wikimedia Commons / ライセンス:CC BY-SA 4.0
ジオデシックドームとは、球面に沿って配置された多数の三角形フレームからなるドーム構造です。三角形は形が崩れにくく、荷重を全体に分散しやすいため、軽量でありながら高い剛性を実現できます。ドロネー分割のような三角形ネットワークは、球面を安定して近似する構造として工学的にも扱いやすく、ドーム設計の基本になっています。
実は、ドロネー三角形分割には非常に興味深い幾何学的性質があります。
1番最初にボロネイ分割を紹介したときの図がありました。
これにドロネー三角形分割を適用してみましょう。
図の灰色の三角形の中にある白い点に注目してください。この点は3つのボロノイ領域が接する頂点であり、周囲の3つの赤い点から等距離にあります。
3つの赤い点を $p_i,p_j,p_k$、青い点を $c$ とすると、
\|c-p_i\|=\|c-p_j\|=\|c-p_k\|=R
が成立します。
つまり、青い点 $c$ は、赤い3点を頂点とする三角形の外心であり、$R$ は外接円の半径です。
ここで重要なのは、図の破線で描かれた外接円の内部には、他の赤い点が存在しない、という性質です。
なぜなら、もし円の内部に別の点 $p_l$ があれば、
\|c-p_l\|<R
となり、青い点 $c$ から最も近い点が、三角形の3頂点ではなくなってしまいます。これは、$c$ が3つのボロノイ領域の共有頂点であることと矛盾します。
したがって、他のすべての点について、
\|c-p_l\|\geq R
が成立しなければなりません。
このように「各三角形の外接円の内部に他の点が存在しない」という条件を「空円条件」と呼びます。
つまり、ボロノイ分割の頂点とドロネー三角形の外心が対応することも、両者の双対関係を特徴づける性質の一つなのです。
まとめ
本記事では、自然界や人工物に現れる六角形の構造を出発点として、ボロノイ分割とロイド法によって幾何学的な秩序が生まれる過程をシミュレーションしました。
ランダムに配置した点を各領域の重心へ移動させるだけで、六角形を中心とした規則的な構造が現れることを確認しました。さらに、球面上ではオイラーの多面体定理による制約が存在することや、ボロノイ分割とドロネー三角形分割が双対関係にあることも紹介しました。
こうした幾何学は、宇宙開発とも関係しています。
例えば、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡は、18枚の六角形の鏡を組み合わせた構造になっています。大きな集光面を構成するうえで都合のよい形状です。

出典:NASA, James Webb Space Telescope Mirror Seen in Full Bloom
もちろん、これらの構造がすべてロイド法によって設計されているわけではありません。
しかし、限られた空間をどのように分割し、幾何学的な配置を最適化するかという問題は、自然界の構造から宇宙望遠鏡の設計まで、さまざまな場面に共通しています。










