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SSDの分類(3/4):エンタープライズ向けSSD

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はじめに

 「Solid State Drive (SSD)の分類」の説明として、「コンシューマ向けSSD」と「データセンター向けSSD」を説明してきました。今回は「エンタープライズ向けSSD」を説明します。

 これらSSDの分類には、性能、寿命、機能などいわゆるスペック上の違いがこめられています。その違いはSSDが使われるシステムや環境の違いに由来します。つまり、この分類を正しく理解するには、各分類のSSDがどのようなシステムや環境で使用されることを想定しているのか、ということの理解が欠かせません。

まとめ

  • エンタープライズ向けSSDは、大規模計算機環境において、データストレージというよりはキャッシュのような一時的なデータストアとして使われるSSDを指す
  • 性能に対する要求が最も高く、ついで寿命や信頼性に対する要求が高い

エンタープライズ向けSSDを使う機器の定義

 まずエンタープライズ向けSSDが使われる機器を定義します。

 エンタープライズ向けSSDが使われる機器は、企業もしくは研究機関の大規模コンピューティングシステム(レガシーシステム含む)内のキャッシュ装置およびストレージ装置です。ミッションクリティカルシステムであることも多いです。

 「データセンター向けSSDとどこが違うの?」と疑問に思われる方が多いと思います。確かに後者のストレージ装置の場合はデータセンターが提供するストレージサービスと似ていますので、その場合、求められる性能や機能はデータセンター向けSSDのものと似ています。

 一方データセンター向けSSDと大きく異なる特徴のひとつは、記録されるデータの生存期間です。特にキャッシュ装置に使用された場合、書き込まれたデータはほどなくして読み出されて計算や加工に使用され不要なデータとなり上書きされる、もしくはより大容量のストレージに記録されます(追い出される)。

 つまりこの用途で用いられるSSDはデータセンター向けSSDと異なり書き込みの比重が高く、代わりに他の用途と比較してデータ保持期間は短くて構わないことになります。これは、相対的に高価なDRAMを補完する形でSSDを導入することも要因のひとつです。

 動作環境はデータセンター向けSSDと同様に管理された環境です。設置場所がデータセンター内であることも多いです。つまり、電源をはじめ、温度や湿度、そして振動などの動作環境は適切に管理され、通信も適切な品質が確保されます。

 ここで重要なポイントは、高い書き込み性能が求められることと動作環境が適切に管理されることです。

エンタープライズ向けSSDの特徴

 上記対象機器の定義を踏まえて、エンタープライズ向けSSDの特徴を7つの項目でまとめたものを表1に示します。

表1:エンタープライズ向けSSDの特徴

項目 内容
データアクセス性能 高い書き込み性能と性能のブレが少ないことを重視
寿命 書き込みが多いワークロードであり長寿命が必要
信頼性 高い信頼性が求められる
消費電力 動作時の平均的な消費電力が低い
価格 高い
統計情報やカスタマイズ対応 サポート重視
入手方法 代理店経由など

 入手方法を除いた6項目についてレーダーチャートを描くと図1のようなイメージになります。あくまでも筆者のイメージです。

エンタープライズ向けSSDの特徴(レーダーチャートイメージ)
図1:エンタープライズ向けSSDの特徴(レーダーチャートイメージ)

 それでは各項目について説明します。

データアクセス性能

 エンタープライズ向けSSDのデータアクセス性能は、製品使用開始直後から寿命末期まで、ドライブの内部状態(有効なデータの量など)にかかわらず低レイテンシでかつバラつきが少ないことを求められます。しかも、24時間365日読み書きされている状態が前提です。

 これは一時的(短時間)でも構わないのでとにかく高いピーク性能が求められるコンシューマ向けSSDとは全く異なり、かつデータセンター向けSSDに近い要求仕様です。データセンター向けSSDと異なるのは、レイテンシの短さと基準となる性能がそもそも高いことです。

 図2はよくあるメモリ階層を非常に簡略化したイメージ図です。エンタープライズ向けSSDに対する性能要求が高い理由のひとつには、図2のようにエンタープライズ向けSSDがDRAMに近い用途で用いられることが挙げられます。

メモリ階層イメージ
図2:メモリ階層イメージ

 この要求を満足するため、データセンター向けSSDと同じくSLCキャッシュが無効化されたりGarbage Collection (GC)による性能低下度合いを低減するためにOver Provisioning (OP)が多めに設定されたりします。また読み書きレイテンシのブレを防ぐために低消費電力状態が無効にされることも多いです。SSDがアイドル(暇)になることはなく、低消費電力状態に遷移する時間的余裕がほぼないからです。

 この記事の作成時点では、エンタープライズ向けSSDにはSerial Attached SCSI (SAS)をインターフェースとする製品とPCI Express (PCIe) / NVM Express (NVMe)をインターフェースとする製品の2種類があります[1][2]

 SASはSCSIと共にエンタープライズストレージ(HDD, SSD)を長年支えてきたインターフェースであり、ドライブとしての信頼性や特性そして管理ソフトウェアを含めた過去資産の活用(流用)を重視する場合に選ばれることが多いです。新規システムではPCIe / NVMe SSDの採用が多いとみられます。

寿命

 エンタープライズ向けSSDもシステムにおいては多数運用されます。ただし、エンタープライズ向けSSDが多数運用される目的はデータセンター向けSSDのようなシステムに冗長性を持たせることではなく、並列性増加による性能向上を得ることです。このためエンタープライズ向けSSDにはデータセンター向けSSDよりも長い寿命が求められます。

 エンタープライズ向けSSDも、その寿命が管理され交換前提で運用される点は同じです。しかし滅多に停止させられないシステムに組み込まれることも多く、交換間隔をできるだけ長くするためにSSDには長い寿命が求められます。さらに言えば、カタログスペックよりも導入予定システムの実ワークロードにおける寿命が重視されます。これは適切な交換計画を立案するために必須の情報だからです。

信頼性

 エンタープライズ向けSSDの動作環境は、データセンター向けSSDと同様に管理された環境です。このため、極端な環境での動作は想定しません。

 データの長期記憶特性(データリテンション特性)は、他の用途のSSDと比較して短いです。これはデータセンターSSDと同じくドライブの電源が常に投入されていること、そしてキャッシュのような用途であればSSDに記録されたデータの生存期間がそれほど長くないことが理由です。

 このためエンタープライズSSDのデータ記憶特性は、データセンター向けSSDと同様の、寿命末期でも非通電状態での放置で数か月などの仕様であることが多いです。

 ただしデータセンター向けSSDと異なるのは、ドライブ単体に高い信頼性が求められることです。寿命についての説明で触れたように、エンタープライズ向けSSDがシステムで多数運用されるのは冗長性を確保するためではなく性能を向上させるためです。このためSSD単体の信頼性はデータセンター向けSSDよりも高いことが求められます。

消費電力

 エンタープライズ向けSSDは、データセンター向けSSDと同じく動作中の消費電力が低いことを求められます。これは常時稼働状態で運用されるからです。

 加えて、SSDが低消費電力状態に遷移するような暇もなく、読み書きレイテンシのブレを防ぐため、SSDの低消費電力機能を使用しないことが多いです。

 このような事情から、エンタープライズ向けSSDでは各ドライブの動作中の消費電力が低いことが求められます。

価格

 エンタープライズ向けSSDもその価格を知ることはとても難しいですが、データアクセス性能、寿命、そして信頼性への高い要求を考えると、データセンター向けSSDより高価だと考えられます。特に「ガチ」のエンタープライズ向けSSDは相当高価だと考えられます。そのようなエンタープライズ向けSSDを製造しているメーカーが多くないことも一因です。

統計情報やカスタマイズ対応

 エンタープライズ向けSSDは、データセンター向けSSDほど統計情報やカスタマイズは求められません。まさに「性能勝負!」という感じです。

 一方でより手厚いサポートが求められると考えられます。顧客(ベンダ)が実施する長期間の受け入れテストおよび(実環境を含む)動作検証を支えるサポート体制が求められます。

入手方法

 エンタープライズ向けSSDも、データセンター向けSSDと同様にメーカーと直接取引するか、代理店が設定されている場合は代理店を経由して購入することになります。システム導入時にそのシステムの動作検証済みドライブを購入する場合はインテグレーター経由で購入することもあります。

 サポートも購入したルート次第となることがほとんどです。購入時の契約次第ですが、例えば代理店経由で購入した場合は代理店が問い合わせ窓口になることがほとんどです。サポートの手厚さも、契約およびルート次第です。

さいごに

 今回の記事では、エンタープライズ向けSSDの特徴を説明しました。突出したデータアクセス性能を求められるエンタープライズ向けSSDは、データセンター向けSSDと似た特徴を持ちつつも、運用方法(ポリシー)の違いにより寿命や信頼性においてより高い要求を満たします。

 SSDはその使いかたで性能や寿命が大きく変わる製品です。使用もしくは検討しているSSDがどのような用途を前提としているのかを理解すると、その製品のスペックの見かたが変わるかもしれません。

 最後となる第4回は「インダストリアル向けSSD」について説明する予定です。

References

[1] Kioxia、エンタープライズSSD、2023年9月5日閲覧
[2] Samsung、エンタープライズSSD、2023年9月5日閲覧

ライセンス表記

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この記事はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

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