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SSDの分類(2/4):データセンター向けSSD

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はじめに

 「Solid State Drive (SSD)の分類」の説明として、前回「コンシューマ向けSSD」について説明しました。今回は第2回として「データセンター向けSSD」について説明します。

  • 第1回:コンシューマ向けSSD
  • 第2回:データセンター向けSSD
  • 第3回:エンタープライズ向けSSD
  • 第4回:インダストリアル向けSSD

 これらSSDの分類には、性能、寿命、機能などいわゆるスペック上の違いがこめられています。その違いはSSDが使われるシステムや環境の違いに由来します。つまり、この分類を正しく理解するには、各分類のSSDがどのようなシステムや環境で使用されることを想定しているのか、ということの理解が欠かせません。

まとめ

  • データセンター向けSSDは、データセンターという特殊な環境でデータストレージとして使われるSSDを指す
  • システムやソフトウェアによる支援を受けられるため、寿命や信頼性において他の用途とは異なる特徴が求められる

データセンター向けSSDを使う機器の定義

 今回もまずデータセンター向けSSDが使われる機器を定義します。

 データセンター向けSSDは、もちろんデータセンター内での使用が前提です。具体的な機器はストレージ装置(ストレージアレイなど)です。一旦運用を開始すれば24時間365日電源投入され続けます。電源をはじめ、温度や湿度、そして振動などの動作環境は適切に管理されます。ストレージとホスト間の通信も適切な品質が確保されます。

 データセンターでは、SSDだけでなく、ハードディスクドライブ(HDD)や、よりレイテンシの短いStorage Class Memory (SCM)のようなストレージも使われます。これらのストレージの中でSSDは、アクセスレイテンシについてDRAMやSCMよりは長いもののHDDよりも短いことが期待されます。このとき読み書きレイテンシの「ブレ」が小さいことを求められます。

 また、データセンターのストレージサービスは可用性(availability)が重視されます。このため、1台のドライブが故障したり寿命を迎えたりしてもサービス提供が継続できるよう、多数のドライブを運用して冗長性を確保します。データセンターのストレージシステムでは、この冗長性確保などを目的として、多数のストレージを効率良く運用するためのソフトウェアが介在し、負荷の平準化なども実現されます。

 加えて、データセンターのストレージサービスは同時に複数(多数)のクライアントからのアクセスを処理します。このため、データセンター内で使われるストレージは多数のアクセスを効率良く処理して性能を発揮することが求められます。

 ここで重要なポイントは、動作環境は適切に管理されること、ドライブ台数が多いこと、SSDを効率良く運用するためのソフトウェアが介在すること、多数のアクセスを処理しなければならないこと、です。

データセンター向けSSDの特徴

 上記対象機器の定義などを踏まえて、前回と同じくデータセンター向けSSDの特徴を7つの項目でまとめたものが表1です。

表1:データセンター向けSSDの特徴

項目 内容
データアクセス性能 多数のアクセスを性能のブレが少なく処理することを重視
寿命 交換間隔とワークロードに見合う寿命が必要
信頼性 運用に合わせた信頼性が求められる
消費電力 動作時の平均的な消費電力が低い
価格 安い(多数運用するため)
統計情報やカスタマイズ対応 データセンター向け標準仕様への準拠を含め幅広い対応が必要
入手方法 代理店経由など

 入手方法を除いた6項目についてレーダーチャートを描くと図1のようなイメージになります。あくまでも筆者のイメージです。

データセンター向けSSDの特徴(レーダーチャートイメージ)
図1:データセンター向けSSDの特徴(レーダーチャートイメージ)

 それでは各項目について説明します。

データアクセス性能

 データセンター向けSSDは、そのデータアクセス性能として製品使用開始直後から寿命末期まで、常時読み書きされている状態で可能な限り一貫したバラつきの少ない性能を求められます。一時的(短時間)でも構わないのでとにかく高いピーク性能が求められるコンシューマ向けSSDとは対照的です。

 これは、データセンターが提供するサービスの質がバラつくことを防ぐためです。データセンターのサービス品質はService Level Agreement (SLA)で規定されますが、SLAの内容は「99%のアクセスがXX ms未満」などと表現されます。つまり、性能が高すぎても低すぎてもマズいのです。

 このため、データセンター向けSSDではSLCキャッシュが無効化されたり、Garbage Collectionによる性能低下度合いを低減するためにOver Provisioning (OP)を多めに設定されたりします。また低消費電力状態が無効にされることも多いです。

 加えて、データセンター向けSSDのホストインターフェースはどんどん高速化しています。データセンター向けSSDは最新のホストインターフェースを採用することが多く、最近発表されたデータセンター向けハイエンドSSDではPCIe 5.0を採用する製品が増えています[1][2]。PCIe 6.0の採用も視野に入れられています[3]

寿命

 データセンターでは多数のSSDを運用してサービスを実現しています。サービスの停止は死活問題のため、データセンター側で様々な冗長性を持たせます。たとえば、データを複数のドライブやサイトに分散させる、ドライブが1台寿命に到達しても他のドライブでサービス継続が可能な仕組みにする、などです。

 このためデータセンターでは、SSDの寿命を管理し、SSDを交換前提で運用します。もちろんドライブ1台1台の寿命が長いに越したことはありませんが、他の指標、たとえば性能や価格と比べると優先度が落ちることが多いです。「寿命が多少短くても性能が良くて価格が安ければ総保有コスト(Total Cost of Ownership: TCO)で安上がりになる」という考えかたに基づくものです。

 実際、QLC NANDフラッシュメモリを使用したデータセンター向けSSDも登場しています[4]

信頼性

 データセンター向けSSDは、データセンターという管理された環境で動作します。このため、極端な環境での動作は想定しません。温度(高温や低温)や振動などの各種動作環境は、データセンター内さらに言えばSSDが格納されるラック内の環境を想定します。たいてい強制冷却(空冷や液冷)を完備し、揺れもなく、安定した電源や通信が期待できます。

 データの長期記憶特性(データリテンション特性)は、ドライブの電源が常に投入されていることを前提に見積もられます。コンシューマ向けSSDでは長期間の非通電(電源オフ)状態を考慮する必要がありますが、データセンター向けSSDであればそのような状態のことはあまり考慮されません。

 このためデータセンター向けSSDのデータ記憶特性は、寿命末期でも非通電状態での放置で数か月などの仕様であることが多いです。

消費電力

 データセンター向けSSDは動作中の消費電力が低いことを求められます。これは、データセンターでは多数のドライブが常時稼働状態で運用されるからです。運用中は、全てのドライブができる限りまんべんなくアクセスされるようにデータが配置されます。アクセスに偏りがあると運用効率が下がるためです。

 加えて、データセンター事業者はSSDが低消費電力状態から復帰する際に通常より時間(レイテンシ)がかかることを嫌いSSDの低消費電力機能を使用しないことが多いです。

 このような事情から、データセンター向けSSDには各ドライブの動作中の消費電力が低いことが求められます。

価格

 データセンター向けSSDの価格を知ることはとても難しいですが、これまでに指摘した通りデータセンターでは多くのドライブが運用されるため価格に対する要求が強いことは確かです。もちろん、絶対的な価格で言えばコンシューマ向けSSDより高いと思いますが……

 近年NANDフラッシュメモリメーカーが最新のNANDフラッシュメモリをデータセンター向けSSDに投入するのは、新しいNANDフラッシュメモリの価格競争力を期待したものです。

統計情報やカスタマイズ対応

 データセンター向けSSDは、その他のSSDと比較して多種多様な統計情報およびカスタマイズが求められ、実際に実装されていることが多いです。

 例えば、データセンターで使われる様々な機器の標準仕様を定める団体Open Compute Project (OCP)が策定したデータセンター向けNVMe SSD仕様[5]には、数多くの仕様が追加されています。

 以前上記仕様を調査した際は(こちらこちら)、統計情報として詳細なSSDの内部状態(バッドブロックの数やエラー訂正の回数など)が追加され、カスタマイズとしてPower Loss Protection (PLP)やサーマルスロットリング発動温度さらにはデータ保持特性算出時の温度設定やレイテンシの監視機能などが追加されています。

 最近発表されたデータセンター向けNVMe SSDは、上記OCPのデータセンター向けNVMe SSD仕様に準拠していることを謳う製品が多いです[1][2][4][6]

入手方法

 データセンター向けSSDは、街の量販店はもちろんインターネット上の通販サイトなどでもまず購入できません。

 データセンター向けSSDを製造販売するメーカーと直接取引するか、代理店が設定されている場合は代理店を経由して購入することになります。また、サーバを導入する際にそのサーバの動作検証済みドライブを購入する場合は、サーバメーカー経由で購入することもあります。

 サポートも購入したルート次第となることがほとんどです。購入時の契約次第ですが、例えば代理店経由で購入した場合は代理店が問い合わせ窓口になることがほとんどです。サポートの手厚さも、契約およびルート次第です。

さいごに

 今回の記事では、データセンター向けSSDの特徴を説明しました。データセンターという特殊な環境で使用されるため、特に寿命や信頼性においてシステムの支援を前提とした特徴を持ちます。

 ただその分だけ価格や統計情報およびカスタマイズなどに強い要求が存在します。

 SSDはその使いかたで性能や寿命が大きく変わる製品です。使用もしくは検討しているSSDがどのような用途を前提としているのかを理解すると、SSDのスペックの見かたが変わるかもしれません。

 次回は「エンタープライズ向けSSD」について説明する予定です。

References

[1] キオクシア株式会社、KIOXIA CD8P-V シリーズ(E3.S)(Preliminary)、2023年8月16日閲覧
[2] FADU, "ECHO PCIe 5.0 SSD", Retrieved on August 16, 2023
[3] FADU, "Flash Memory Summit 2022 Executive Platinum Sponsor Keynote by Jihyo Lee, FADU CEO & Co-Founder and Ross Stenfort, Meta", August 7, 2022
[4] Solidigm, "Solidigm D5-P5430 Product Brief", May 14, 2023(2023年8月16日閲覧)
[5] Open Compute Project, "Datacenter NVMe SSD Specification" [PDF], version 2.0, July 30, 2021
[6] Samsung Semiconductor, "Samsung Begins Mass Production of Data Center SSD Customized for Hyperscale Environments", Feb. 24, 2021(2023年8月21日閲覧)

ライセンス表記

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この記事はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

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