執筆者:小畑 啓、監修:山﨑政憲
5.1 Instanaによる根本原因分析(RCA)の手法
RCA(Root Cause Analysis)とは?
RCAは問題の真の原因を明らかにし、再発防止と安定運用を実現するための分析手法です。その基本ステップには、問題の特定・データ収集・原因分析・対策実施が含まれます。
RCAは業種を問わず役立ちますが、特にIT領域で効果を発揮します。RCAでは、体系的な分析プロセスに沿って、今日の複雑なインフラの問題をすばやく正確に特定できます。
また、システムに影響が広がる前に問題の根本原因を特定することで、リスクを軽減し、コストを大幅に削減できます。RCAは非常に効果的であるため、多くの業界で導入されています。
根本原因の特定方法
問題の根本原因は、業種や組織に応じた方法で特定され、ソフトウェア開発ではRCA専門チームがインシデント対応の一環として分析を行います。
RCAは、インシデント後の事後レビューに含まれる重要なプロセスです。
基本的なフレームワークには、以下のステップが含まれます。
・問題の特定:最初のステップは、問題の種類と症状を明確にすることです。問題がわかったら、根本原因を調査する間、疑わしい要因を隔離して問題が広がるのを防ぐことが重要です。
・データの収集:問題を識別したら、できるだけ多くのデータを集めます。対象には、インシデントレポート、スクリーンショットやログといった形式での証拠、関係者の証言などがあります。このデータに基づいて、一連のイベント、関係したシステム、問題の発生期間、全体的な影響等を調べます。
・根本原因の究明:RCAチームでブレーンストーミングセッションを実施し、根本原因を究明します。RCAマネージャーは参加者同士が口論にならないよう場を取り仕切ります。
・解決策の実施:根本原因がわかれば、いくつかの解決策が浮かび上がります。RCAチームは、どの解決策が最適で、いつ実施すべきかを判断します。解決策を実施したら、状況を監視して効果を確認する必要があります。
Instanaを活用したRCAの実践
InstanaはAIによる異常検知や分散トレーシングで、障害の発生源を自動的に特定し、迅速な対応を支援します。Instanaを活用したRCAは、リアルタイムメトリクス・分散トレーシング・AI異常検知の組み合わせにより効率的に行えます。
異常検知では、レスポンス遅延やエラー増加をAIが自動で察知し、影響コンポーネントを特定します。分散トレーシングにより、遅延やエラーの発生元となるサービスやAPIを可視化できます。メトリクス分析ではCPUやメモリのスパイクを確認し、リソースの問題を把握することが可能です。
さらにログ分析を通じて、詳細なエラーメッセージから具体的な原因を特定します。これにより、API遅延やHTTP 500エラーの根本原因特定・対処にも有効です。
5.2 典型的な問題とその解決方法
典型的な問題とその対策
Instanaを活用することで、システムの異常をリアルタイムで検出し、迅速に対応することが可能です。典型的な問題と対策をまとめると、下表のようになります。
分散トレースの詳細については、分散トレースとは何ですか?を参考にしてください。
| 問題の種類 | 考えられる原因 | Instanaでの検出方法 | 解決方法 |
|---|---|---|---|
| APIのレスポンスが遅い | 高負荷、DB遅延、ネットワーク問題 | 分散トレースで遅延の発生箇所を特定 | クエリ最適化、キャッシュ導入、負荷分散 |
| HTTP 500エラーが発生 | アプリケーションのバグ、DB接続エラー | Errors & Alerts でエラー率を監視 | ログ分析、エラーハンドリング強化 |
| リソースやCPU使用率が高い | 高負荷、無限ループ、スロークエリ | Infrastructure Monitoring でCPUメトリクスを確認 | 負荷分散、リソース制限、コード最適化 |
具体的な解決方法
表で取り上げた問題の詳細とその解決方法は、下記の通りです。
① APIのレスポンスが遅い
・APIの平均レスポンスタイムが通常より2倍以上遅い
・特定のリクエストがタイムアウト
APIの平均レスポンスタイムが通常の2倍以上となり、特定リクエストがタイムアウトします。
Instanaの「Analytics」で、遅延リクエスト等を特定できます。
解決策として、DBクエリ最適化、API Gatewayの負荷分散強化、非同期処理やバッチ処理の導入が有効です。
② HTTP 500エラーが発生
・HTTP 500エラーが急増
・一部のユーザーがアクセスできない
HTTP 500エラーが急増し、一部のユーザーがアクセスできない状況になります。
InstanaのEvents & Alertsでエラーを監視し、「Analytics」でHTTP 500リクエストを分析、ログで例外の発生箇所を特定できます。
解決策として、例外処理の強化、DB接続設定の最適化、サーキットブレーカーの導入が有効です。
③ リソースやCPU使用率が高い
・サーバーのCPU使用率が100%に張り付く
・パフォーマンスが大幅に低下
サーバーのCPU使用率が100%に達し、パフォーマンスが大幅に低下します。
InstanaでInfrastructureや「Analytics」から高負荷リクエストを特定し、プロファイラで原因を分析できます。
解決策として、Auto Scalingによる負荷分散、コードの最適化、CPUリミットの設定が有効です。
5.3 実際のトラブルシューティング事例
Instanaを活用すると、POSシステム、ECサイト、CRM(Customer Relationship Management)などのシステムで発生する問題を迅速に特定し、解決できます。
トラブルシューティングの事例の詳細については、下記の記事を参考にしてください。
記事は3本あり、POSシステム、ECサイト、CRMの順に取り上げています。
Instanaを活用したトラブルシューティングの流れは以下の通りです。
・「Events & Alerts」で異常をリアルタイム検出
・「Analytics」で遅延やエラーの発生元を特定
・「Infrastructure」でリソースのボトルネックを確認
・「Logs」で具体的なエラーメッセージを分析
・改善策を実行し、SLO達成状況を継続監視
5.4 インシデント後のポストモーテム
ポストモーテムとは?
ポストモーテムは、インシデント後に行う振り返りの取り組みを指します。その成果として、インパクト・原因・対応・再発防止策などをまとめたドキュメントが作成されます。
ポストモーテムを使用するメリットは、適切な対策、再発防止策を検討することで、サービスの信頼性を向上させることにあります。営業、技術など、垣根を越えて対策と再発防止策を検討することで、各チーム間の連携が強化されることにも繋がります。
ポストモーテムの基本ステップ
ポストモーテムの基本的なステップは、事実の整理、影響範囲の評価、原因の分析、対応の評価、再発防止策の提案、という流れで進めます。
これらのステップを順番に実施することで、インシデントから学び、今後の改善に繋げることができます。
① 事実の整理:インシデントが発生した日時、場所、影響を受けたシステムやサービス、顧客への影響などを簡潔に説明します。時系列で何が起きたのかを明確にすることで、関係者が状況を把握しやすくなります。
② 影響範囲の評価:インシデントによって、どのようなシステムやサービスが影響を受けたのか、その影響の程度を評価します。顧客への影響、業務への影響、経済的な損失などを考慮して、影響度を判断します。
③ 原因の分析:根本原因の特定には、ヒューマンエラーだけでなく、システムやプロセス、体制面も含めた多面的な分析が必要です。表面的な原因だけでなく、背景にある構造的な課題を明らかにします。これにより、再発防止策の精度と実効性が高まります。
④ 対応の評価:インシデント発生時の対応を評価し、何が上手くいったのか、何が改善できるのかを検討します。対応のスピード、正確性、有効性などを評価します。
⑤ 再発防止策の提案:チーム内外へ透明性のある共有を行い、知見を蓄積します。また、原因分析と対応評価の結果を踏まえ、再発防止策を提案します。
これらのステップを順番に実施することで、インシデントから学び、組織全体の改善に繋げることができます。
また、ポストモーテムは、インシデントの発生を完全に防ぐことが難しい場合でもリスクを最小限に抑えるための有効な手段となります。