執筆者:小畑 啓、監修:山﨑政憲
6.1 パフォーマンスのボトルネックを特定する方法
パフォーマンスボトルネックの典型的な原因
システムのパフォーマンスが低下した際に、どこでボトルネックが発生しているのかを迅速に特定し、適切に対策を講じることが重要です。
ボトルネックの主な原因は、CPUやメモリ、ディスクI/O、ネットワーク帯域の制限などリソースの不足によるものが多いです。
また、非効率なアルゴリズムやスレッド競合、ロックの多用、データベースの遅延も原因になります。
ボトルネック特定の流れ
Instanaの4つの主要機能(メトリクス分析、分散トレーシング、異常検知、ログ分析)を活用して、ボトルネックを特定します。
必要に応じて、サービス間の依存関係から他のサービスへの影響も把握するとより効果的です。(下図参照)
① メトリクス分析でシステムの負荷を確認
メトリクス分析でCPUやメモリ使用率などを確認し、異常な高負荷がないかを特定・対処します。
② 分散トレーシングで処理の遅延ポイントを特定
遅いリクエストを特定し、API・DB・外部サービスのどこで遅延が発生しているかを分析します。
③ AIによる異常検知で急激なパフォーマンス低下を特定
AIによる異常検知でスパイクやエラーレート上昇を確認し、影響を受けたコンポーネントを特定・分析します。
④ ログ分析でエラーメッセージを確認
エラー発生時間とパフォーマンス低下を照合し、対象コンポーネントの詳細エラーを分析します。
6.2 キャパシティプランニング
キャパシティプランニングの概要
キャパシティプランニングは、将来の負荷増加に備えて、必要なリソースを適切に見積もり、パフォーマンスを維持するための計画です。需要予測、現在の利用状況の分析、将来の成長見込みに基づいて、適切なインフラ増強や調整を行います。
適切なキャパシティプランニングを行うことで、コスト最適化とパフォーマンス維持を両立可能です。適切なキャパシティプランニングを行わないと、以下のような問題が発生します。
| 問題 | 影響 |
|---|---|
| リソース不足 | サービスのパフォーマンス低下、ユーザーの不満が増大 |
| 過剰プロビジョニング | コストの無駄、不要なインフラ支出 |
| スケーリングの遅れ | トラフィック急増に対応できず、システム障害発生 |
キャパシティプランニングの手順
キャパシティプランニングの手順は、大きく分けて「現状把握」「需要予測」「計画策定」「評価と調整」の4つの段階に分けられます。
これらの段階を経て、システムやリソースの最適な利用計画を立て、将来の需要増に対応できるようにします。
① 現状把握
システムのハード・ソフト構成やネットワーク状況を把握し、処理内容や負荷の頻度を分析します。また、CPUやメモリなどリソースの使用状況を確認し、性能低下の原因となるボトルネックを特定します。
② 需要予測
将来のビジネス成長やサービス拡大を見据えて情報を収集し、将来的なシステム負荷を予測します。特にピーク時の最大負荷を想定し、必要なリソースを見積もることが重要です。
③ 計画策定
予測された需要に基づいて、必要なシステム性能とリソースを見積もります。その上で最適なシステム構成を検討し、導入に向けた具体的な計画を策定します。これにより、将来的な負荷に対応できる体制を整えます。
④ 評価と調整
システム導入後はパフォーマンスを継続的に監視し、得られたデータを分析して計画との差を評価します。その評価結果をもとに、必要があればリソース追加や構成変更などの調整を実施します。
これらの手順を繰り返すことで、常に最適なシステム構成を維持し、将来の需要増にも柔軟に対応できるようになります。
6.3 改善点の提案とリファクタリングの進め方
改善点を提案するための視点
システムの健全性を維持して、パフォーマンスや可読性、拡張性を向上させるためには、定期的な改善とリファクタリングが必要です。
Instanaを活用すると、ボトルネックや技術的負債をリアルタイムで可視化し、最適な改善点を提案できます。改善点を特定する際には、主に以下の視点からシステムを分析します。
| 視点 | チェックポイント | 使用するInstanaの機能 |
|---|---|---|
| パフォーマンス | APIレスポンスタイム、DBクエリの最適化 | Tracing、Infrastructure、 Analytics |
| リソース最適化 | CPU、メモリ、ネットワーク負荷 | Infrastructure,、Alerts & Events |
| コード品質 | 重複コード、長すぎるメソッド、低凝集度 | ログ分析、コードレビュー |
リファクタリングの進め方
リファクタリングは以下の手順に沿って行います。
① 改善点を特定:Instanaの主要機能を活用してボトルネックを特定
② 優先順位の決定:パフォーマンス・影響範囲・コストなどを考慮して優先順位を決定
③ 変更の計画:小さな単位に分割してリファクタリングを実施
④ 影響範囲のテスト:ユニットテストや負荷テストを実施
⑤ デプロイとモニタリング:Instanaで改善効果を検証
SREエンジニアは、コードの整理やシステムの近代化に関するガイドライン(リファクタリングドキュメント)を作成します。
システムの信頼性と効率性を高めるとともに、運用プロセスを改善するので、より効率的なシステム構築が可能です。
6.4 継続的改善を組織に根付かせるには
継続的改善の必要性
システムの品質とパフォーマンスを維持・向上させるためには、継続的な改善を組織の文化として定着させることが不可欠です。しかし、単に技術的な最適化を行うだけではなく、プロセス・チーム・ツールの最適化を並行して進めることが重要になります。
問題発生時のみの対応や短期的な優先事項、改善効果の不透明さ、責任の曖昧さは障壁となってしまいます。これらを克服し、継続的改善を定着させるための具体的な施策が求められます。
継続的改善を組織に定着させる戦略
継続的改善を文化として根付かせるためには、経営層の理解と支援を得て、仕組み・プロセス・文化の3つの要素を組み合わせることが重要です。
また、改善活動の効果を定量的に可視化し、関係者に共有することで、優先度を高めます。
定期的な振り返りの場を設け、課題の洗い出しと対策を習慣化することも有効です。
さらに、責任者を明確にし、小さな改善から着実に実行することで、改善の継続とスケールを促進します。
