こんにちは、京セラコミュニケーションシステム 青木(@KCCS-YuyaAoki)です。
前のおはなしに引き続き気候変動関連の連載3話目となります。今回はサプライチェーン排出量を算出するための「温室効果ガスプロトコル(GHG Protocol)」について調べてみました。
本記事は2023年8月ごろに作成しております。引用している文章などはこの時点での最新となります。
連載記事一覧(全6話)
IT視点でGXを語る 第01話 ~地球温暖化について本気出して考えてみた~
IT視点でGXを語る 第02話 ~温室効果ガス(GHG)の排出はどこから?~
IT視点でGXを語る 第03話 ~GHG Protocolと自社のGHG排出量の算出~ ★本記事★
IT視点でGXを語る 第04話 ~GHG Protocol Scope3とサプライチェーンを巻き込んだ取り組み~
IT視点でGXを語る 第05話 ~製品・サービスのGHG排出量「カーボンフットプリント」とは~
IT視点でGXを語る 第06話 ~さまざまな排出量削減の取り組み~
GHG Protocolとは
第01話、第02話ではGHG排出量を削減していかなければならないことを述べましたが、そのためにはまず現在の排出量を測る必要があります。そんなときに活躍するのがGHG Protocolです。
GHG Protocol(Greenhouse Gas Protocol)とは、事業者の温室効果ガス排出量を算定・報告する際の国際的な規準のことです。
GHG Protocolでは、事業者自身による直接的な排出だけでなく、事業に伴う間接的な排出も対象とし、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を算出します。具体的には「原材料調達・製造・物流・販売・廃棄」など、サプライチェーン全体から発生する温室効果ガス排出量を算出するのに活用され、この一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量をサプライチェーン排出量と呼びます。
またGHG Protocolではサプライチェーン排出量を3つのスコープ(Scope1, Scope2, Scope3)に分類し、Scope3はさらに15のカテゴリに分類して算出します。
出典)環境省「サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて」p.3より
CO2排出量算定の基本
それでは具体的に算定方法を見ていきましょう。
まず前提として、GHG Protocolにおいては排出量についてCO2換算排出量で算出するのが基本となっています。CO2換算排出量は
100 t-CO2eq
のように記載し、これは100tのCO2に相当する量という意味になります。第01話でもご紹介しましたように温室効果ガス(GHG)はいくつかの種類が定義されています(下図)。この中の地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)を用いてCO2換算排出量に変換していると考えて頂ければと思います。
出典)温室効果ガスインベントリオフィス/全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/)より
たとえばメタンについて見ますと地球温暖化係数=25となっていますが、これはメタン 1tあたりの温室効果は二酸化炭素 25tに相当するという意味になります。
そして肝心の計算方法ですが、CO2換算排出量(以下、CO2排出量といいます)は、活動量に排出原単位を乗じることで算定が可能となっています(下図)。
出典)環境省「サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて」p.54より
これだけですとまだ何のことやら分からないですよね。
ということで───
実際に計算してみよう
具体的にイメージするため、自動車の運転を例に計算をしてみたいと思います。
【条件】
- 自社が所有する営業活動用の車を運転した。
- 1年間で1500リットル(=1.5kl)のガソリンを消費し、3万km走行した(燃費20km/l)。
- 車はガソリン車である。
- 1年間のCO2排出量を計算する。
- その他環境条件は考慮しない。
CO2排出量の計算式は活動量×排出原単位でした。
まず排出原単位ですが、こちらは環境省および経済産業省が運営するグリーン・バリューチェーンプラットフォームの中で、排出原単位データベースV3.3として公開されています。
出典)グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「排出原単位データベースV3.3」より抜粋
上記の表から、ガソリンの排出原単位は2.322t-CO2eq/kl(1キロリットル燃焼する毎に2.322トンのCO2が排出される事とする)であることがわかります。
そして1年間で1.5klのガソリンを消費したので、活動量は1.5klとなります。
よって、上記条件におけるCO2排出量は
CO2排出量 = 1.5kl × 2.322t-CO2eq/kl = 3.483t-CO2eq
と求めることができます。
なお、自社の営業用の自動車の利用の場合は、Scope1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)として算出することになります。
EV車の場合どうなるの?
第02話で「EV車はエコなのか?」というクイズを出しました。EV車の中でもとくにBEV(Battery Electric Vehicle)のケースを考えてみましょう。BEVはガソリンを使わず電気のみを使って走り、エンジンがないのが特徴で、近年では米国のテスラ社がとても有名です。
【条件】
- 自社が所有する営業活動用の車を運転した。
- 1年間で5000kWhの電力を消費し、3万km走行した(電費6km/kWh)。 ★変更点★
- 車はBEV車である。 ★変更点★
- 1年間のCO2排出量を計算する。
- その他環境条件は考慮しない。
先ほどと同様、CO2排出量=活動量×排出原単位が原則となります。活動量は今回の場合5000kWhですが、排出原単位はどのように考えるのが良いでしょうか。
今回の場合は、電気の消費1kWhあたりの排出原単位を使うことができます。詳細は割愛しますが、環境省の運営する温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度のページから参照することが可能となっています(小売電気事業者や契約メニュー毎に排出係数は異なります)。
今回は、とある小売電気事業者から電気の供給を受けており、当該事業者から公表されている排出係数が0.000434t-CO2eq/kWhであることとします。この条件におけるCO2排出量は
CO2排出量 = 5000kWh × 0.000434t-CO2eq/kl = 2.17t-CO2eq
と求めることができます。そして電力の消費については、Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)として算出することになります。
なお、再生可能エネルギーを電力源とした再エネ100%電力メニューを準備している小売電気事業者も多数いますので、そのメニューを契約した場合、排出係数を0t-CO2eq/kWh(ゼロ)として計算できます。つまりその場合はCO2排出量もゼロになります。
再エネ100%電力メニューは、環境省ホームページ(こちら)からご確認頂くことが可能です。
第02話では「EV車がエコかどうかは、一概には言えないよね」という話でしたが、このようにより具体的に示すことができました。これはGHG Protocolの良さの1つなのではないかと筆者は考えます。
以上と同様の手順で、Scope1と2に該当するあらゆる活動に基づいて排出量を算出することで、自社の活動によるGHG排出量を測定できるようになっています。
───今回はここまでとなります。
次回は、自社の活動に関連する他社の排出を算出するGHG Protocol Scope3について見ていきます。
【次のおはなし】
IT視点でGXを語る 第04話 ~GHG Protocol Scope3とサプライチェーンを巻き込んだ取り組み~