京セラコミュニケーションシステム株式会社 赤嶺です。
宜しくお願いします。
はじめに
2025年の大きな出来事といえば何といっても大阪・関西万博でしたね。
私も2度ほど家族で来場し、既存のテーマパークとは違う貴重な体験をしました。また、小学1年生と2歳の息子も彼らなりに楽しんでくれたように思います。
実は親会社である京セラはブロンズパートナーとして「いのちの未来」パビリオンに協賛を行っており、当社もその一員としてローカル5Gシステムの提供と運用を行いました。
本稿では「いのちの未来」パビリオンでローカル5Gシステムが果たした役割や得られた実績、またローカル5Gを用いた位置測位技術についてご紹介します。
対象読者
・ローカル5Gに興味をお持ちで、導入を検討されている方
・屋内位置測位に興味をお持ちで、導入を検討されている方
京セラと大阪・関西万博

京セラは「いのちの未来」パビリオンへの協賛をはじめ、その他万博各所においても製品の提供を行っておりました。以下がその内容です。
通信インフラやLED照明、複合機からセキュリティ製品まで、多種多様な製品の提供を行っており、幅広い事業領域を持つ京セラらしさが出ています。
詳細は以下サイトで確認することができます。
https://www.kyocera.co.jp/expo2025/
「いのちの未来」パビリオン
「いのちの未来」パビリオンは8つのシグネチャーパビリオンの一つで人型ロボット研究の第一人者である石黒浩氏がプロデュースしたパビリオンです。
最新のアンドロイドを展示するだけではなく、アンドロイドが発達した未来を舞台に、人間とアンドロイドの関係性、そして「いのち」とは何かを問いかける内容でした。
パビリオン内の50年後の未来では人として寿命を全うするか、アンドロイドとして生きるかという選択を迫られる世界になっています。
主人公であるおばあさんが家族(孫)との関係の中で葛藤する様子が描かれており、来場者の多くが涙する感動的なストーリーで、私も見るたびに感動を抑えられませんでした。
この展示体験を通して私が感じたのは仮にアンドロイドになるという選択ができる世界になっていたとしても、それは自分の意思ではなく、周りの人に生きていて欲しいと思われる必要があるんじゃないかなぁということです。
技術が発達した未来においては今よりも人と人との繋がりの重要性は増していくのかもしれません。
みなさんならどのような決断をくだすでしょうか。
パビリオンの詳細は以下リンクから確認可能です。(2026/2月現在)
ローカル5Gとは
ここで当社がパビリオンに提供したローカル5Gについて簡単にご紹介します。
みなさんが現在携帯電話で利用している通信規格は5Gと呼ばれるものです。
この5GはauやDoCoMoなどの通信キャリアがシステムを構築し、全国的にサービスを行っているものですが、ローカル5Gとはこの5Gシステムを独自に構築して利用するシステムを指します。
通信事業者が提供する5Gはイベントなどで利用者が増加すると接続しづらくなったり、ダウンロード速度が遅くなったり(実際に万博会場でもこの問題は発生しました)と他者の利用状況によって影響を受けてしまいます。
一方、ローカル5Gは構築したシステムを自分たちで専有して利用することができるため、高速大容量、低遅延、多接続という5Gの特徴を最大限に生かすことが可能です。
また、Wi-Fiと比較して広くエリアが取れる、SIMを用いたセキュアな通信が可能、セルと呼ばれるエリア間の移動がスムーズに行えるといったことも特徴的です。
パビリオンで果たしたローカル5Gの役割とは
ここではローカル5Gがパビリオンの展示においてどのような役割を果たしたのかご説明します。
まず来場者は入口でイヤホン一体型のローカル5Gデバイスを受け取った後に30-40名程度のグループで展示エリアへ移動します。来場者が展示エリアに入ると所有しているデバイスがその旨を検知します。
次にデバイスはローカル5G経由で展示エリアへ到達したことをサーバーへ通知を行います。通知を受信したサーバーはデバイスに対して音声ガイダンスの再生タイミングをローカル5G経由で通知します。このユーザー毎のデバイスとサーバーとの通信がローカル5Gの果たす主な役割となっていました。
次に再生タイミングを受信したデバイスは展示内容に同期して音声ファイルや字幕を再生し、来場者はシアターの映像と同期された音声ガイダンスや字幕を視聴するという流れです。
ローカル5Gによる通信が動作しないと来場者は音声ガイダンスが利用できないため、この展示においていかに重要な役割を担っていたか、ご理解頂けると思います。
前人未踏の多接続環境への挑戦
今回パビリオン内でローカル5Gを利用するにあたって大きな挑戦となったのは300人を超える同時接続ユーザーに対して安定的な通信環境を提供するというものでした。
ローカル5Gにおいて300人を超える同時接続数というのは国内初でグローバルでも稀有な事例でした。
ではこの多接続環境においてどのような課題やリスクが発生するのでしょうか?
その一つとしてセル間干渉と呼ばれる事象の発生が挙げられます。
一つの無線機でカバーするエリアをここではセルと呼んでいます。
一つのセルには収容できるユーザー数が限られているので、多くのユーザーを収容するにはこのセルを複数構築する必要があります。
エリアを作る際は一般的に一つの周波数を利用しますが、その際セル間干渉と呼ばれる事象が発生し、通信速度の低下や接続不良などを引き起こしてしまう可能性があります。
屋外でのエリア構築では無線機間の距離が広く取れますが、今回のように屋内で接続ユーザー数や通信速度の拡張を目的として複数セルを構築すると、無線機間の距離が十分に取れず、その結果セル間干渉の発生リスクが高まります。
セル間干渉の対策

そこで当社はセル間干渉に対して2つの対策を行いました。
1つ目は複数周波数によるエリア構築です。
複数周波数を用いることで図に記載の通り4つのセルに3つの周波数を割り当てることができ、異なる周波数セル間におけるセル間干渉は抑制できましたが、2Fのセル3とセル4は同じ周波数のままですので、まだセル間干渉のリスクは残っています。
そこで次に取った対策が2つ目のリソースブロックの分割です。
リソースブロックとはユーザーデータを送る際に使うリソースの基本単位のことですが、セル間干渉は同じリソースブロックを隣接セル同士で同時に利用することにより発生します。
そこで当社はこのリソースブロックを半分ずつ、セル3には若番から、セル4には老番から割り当てることにしました。そうすることでお互いに同じリソースブロックを使うことがなく、干渉を抑制することができました。
運用後のチューニング
様々な手法を用いてセル間干渉の抑制や通信環境の安定化を図りましたが、実際に運用が始まってからも様々な問題に直面しました。
それが人体ロスによるエリアの変化です。
パビリオン内に多くの来場者が入場すると、来場者の人体ロスにより電波環境が変化してしまいます。その結果、特定のセルにユーザーが集中し、負荷が偏ってしまう状況が発生しました。こうなると負荷のかかったセルがボトルネックとなり来場者の入場制限をせざるをえなくなります。
そこでハンドオフに関連するパラメータを調整し、最繁時においてセルの収容バランスが均等になるような最適化を行ったことで制限なく来場者を迎え入れることができました。
このようにリソースを専有し、利用環境に応じた調整を行えることがローカル5Gの最大の魅力です。
半年間における運用実績
様々な工夫をおこないながら、無事半年間に渡る運営期間をやりぬくことができました。半年間の運営実績は以下の通りとなりました。

ローカル5Gを用いた位置測位技術
パビリオンの運営には直接利用はされませんでしたが、実は今回利用したローカル5Gにはローカル5Gの電波を用いた屋内位置測位技術が搭載されていました。
測位方式は端末から基地局へ送信されるSRS信号(Sounding Reference Signal)※1 を用いたUL-TDoA方式※2 です。
※1:SRS信号(Sounding Reference Signal)
端末から基地局に向けて送られる、上りリンクの電波状態を測定するための信号
主な役割は以下。
①チャネル品質の測定(Channel Quality Estimation)
基地局が上りリンク(端末→基地局)の全帯域の品質を把握し、状態の良い周波数へデータの割り当てや、最適な変調方式(MCS)を決定する。
②ビームフォーミングの最適化
基地局が「どの方向から電波が届いているか」を計算し、その端末に対して最適なビームを向ける。
③TDDにおける下りリンクへの応用(Reciprocity)
5Gで主流のTDD方式(同じ周波数を時間で区切って送受信する方式)では、上りと下りの電波特性がほぼ同じになるため、上りのSRSを測るだけで、下りリンク(基地局→端末)の最適化も同時に行う。
④アンテナ切り替え(Antenna Switching)
端末側の送信アンテナと受信アンテナを切り替えながらSRSを送ることで、基地局は端末の全アンテナの受信状態を把握。
※2:UL-TDoA(Uplink Time Difference of Arrival)方式
端末からの信号が、複数の基地局に届くまでの時間差を利用して位置を特定する方式。
3つの基地局で受信した端末からの信号の時間差を3点測位することにより端末の場所を特定する。
パビリオン内での位置測位技術の実証結果
以下が5つの部屋に40名のグループを模擬して端末を配置し、計200名を同時接続した状態で端末の位置を測位した結果です。
精度は平均2-3m程度でしたが、各部屋にどの端末がいるかを確認することができました。
本技術はAIモデルを用いて位置推定を行っているため、このAIモデルが改善されていけば更に測位精度向上が見込めます。
私たちの活動 ― ローカル5G・屋内測位技術を中心に ―
私たちはネットワーク技術をベースとして、新しいサービスを創出し、世の中の面倒を解決することをミッションとして活動しております。
ローカル5Gの設計、構築、エリア評価、運用など、トータルインテグレーションを提供すると共に、ローカル5GやWi-Fiといった無線および監視カメラ映像を用いた高精度屋内位置測位技術など先進技術を基盤として、業務の効率化につながるソリューションを開発しています。
https://www.kccs.co.jp/company/research/
終わりに
今回は大阪・関西万博でのローカル5G活用事例とローカル5Gを用いた屋内位置測位技術をご紹介しました。
ローカル5Gに興味があるが、導入に向けて課題をお持ちの方などはぜひ当社へご相談ください。
また当社では屋内位置測位についてもローカル5Gに限らずWi-Fiや監視カメラ映像を用いたソリューションを提案することができますので、屋内位置測位の導入についてもお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございます。



