本記事の目的
普段、AI Agent プラットフォームを提供している Sionic AI にて働いている私が、最近のシステム開発の現場の変化で感じたことを書いています。
AIコーディングエージェントによって、実装の進め方は大きく変わりつつあります。では、そのとき人間にはどんな仕事が残るのでしょうか。30年ほど開発現場に関わってきた経験と、現場での実体験を手がかりに考えてみます。
本記事は、ポエムです。私の感想です。
自己紹介
思えば 30年 システム開発の現場で生計を立てています。
私が最初にSE/プログラマとして仕事を始めた 1990年代の日本は、だれでもプログラマ・SEの仕事(いわゆるSESの仕事ですが)に就くことができる時代でした。ただし、この だれでも座れる椅子 は日本のIT産業の最下層に位置するポジションであり、現代では考えられないぐらいのブラック企業の無茶なしわ寄せを、まともに受ける立場でした。
私が実際に体験したブラックエピソードを列挙すると
- 同僚が気がくるって灯油かぶって焼身自〇
- 月の残業時間200時間も給料明細を見ると2時間に書き換えられている
- 社員寮から夜逃げした社員が実家の目の前で部長・課長に取り押さえられる
- 入社したてのなんのITスキルがない新人を「入社三年目」としてうその経歴を叩き込みクライアントに紹介
- 200人ぐらい入る大部屋に出社すると野戦病院のように通路に人が寝ていて、その患者を踏み越えて自席に向かわなければいけない
等々。
そのブラック企業から30歳ごろ転職した先で、多くの国内外の企業との協業や海外勤務等を経て、今は AI に関わる会社で AI Agent開発ツールの導入支援の仕事をしています。
ここ数年の変化
かつて、IT業界の中で「優秀」とされて出世していく人は 多くの人足を指揮して、時間と労力をかけて、多くのコスト・犠牲を払ってでもプロジェクトを何とか達成する人 であり、その後ろにある屍の数は評価には影響ありませんでした。(私が経験した現場では)
味方の戦車を犠牲にして敵の石油基地を破壊した際、サダム・フセイン大統領に対して「大統領、お喜び下さい。偉大な戦果です。私の予想より、2台も犠牲が少ない」
ラジー少佐
~ マスターキートン 第5巻『カルーンの鷲』より
ここ数年の最大の変化は AIコーディングエージェント ではないでしょうか?
コーディングエージェントは2021年あたりから出てきていたようですが、私は「そんな夢みたいな話あるわけない」と素通りしてしまいました。イノベーター理論のアーリーアダプターにはなれない人種です。
それでも2023年に出てきた Amazon Q を使ってみて驚愕しました。(多くの人は GitHub Copilot や Cursor から入ってるようです)
アウトプットの品質という面で実運用をする上では人間によるレビュー(実際には現在でもそうですが)が必要と強く言われるものの まず動くもの、たたき台 としては十分内容でした。
その後、2025年中ごろ、Amazon Q をベースとしたプロトタイプ開発支援をある建設業の会社様に提案する機会がありました。提案相手は先方のいわゆる決定権を持っている方々でした。私の中では進化しているとは言え、2023年には出てきてたネタなので今更それほどのインパクトは与えられないかなぁと考えていたのですが、結果的には「AIがここまで進化しているのか!」といった驚きをもって受け取っていただきました。その際、開発の現場の最新の情報と一般の認知にはこのぐらいのタイムラグがあるんだと実感しました。
AIコーデイングエージェントの歴史
実際の歴史をAIさんに振り返ってもらいました。
| 時期 | 主な製品・研究 | できるようになったこと | 歴史上の意味 |
|---|---|---|---|
| 2017年ごろ:前史 | DeepCoderなど | 入出力の例から、条件を満たす短いプログラムを探索する | 人が目的を示し、機械がコードを作る研究段階 |
| 2021年6月 | GitHub Copilot技術プレビュー | 編集中のコードから、次の行や関数を提案する | AIによるコード補完が実用化へ |
| 2022年〜2023年 | ChatGPT、ReAct研究 | 自然言語でコードについて相談する。研究では推論・ツール操作・結果の観察を組み合わせる | 対話型の支援と、行動するエージェントの基礎が発展 |
| 2024年11月 | Cursorの初期エージェント機能 | 必要な情報を選び、ターミナルを操作する | 日常のコードエディターにエージェントを組み込む |
| 2025年2月 | Claude Code研究プレビュー | ターミナルから開発タスクを委任する | コマンドラインでのエージェント利用が進展 |
| 2026年 | Codexアプリ、Cursorクラウドエージェントの拡張 | 複数エージェントの並行管理、画面操作による検証、動画・画像による成果確認 | 人間の役割が、個々の操作から作業の指示・監督・レビューへ広がる |
AIコーディングエージェント以後 生き残れる人材
先に述べたように、かつては多くの人を指揮して多くのコストと犠牲をかけてでもプロジェクトを実行できる人が求められていましたが、AIコーディングエージェントの登場・発展によりこの数年でその状況は大きく変わってきています。
現代においては、人ではなく AI を指揮して高い生産性のもとでアウトプットを出せる人材 がこの業界で生き残れる時代になってきていると考えています。
今回、こちらの動画を非常に興味深く参考にさせていただきました。
- 中島さんが2026年3月ごろからコーディングはAIに任せて信頼しているほど性能が上がっている
- AI活用により生産性3~10倍を目指せる
- 米国では新人エンジニアの採用をいったん止めている
- たとえて言うなら、今までは私(中島さん)がバイオリン奏者だったのが指揮者になった
動画では、顧客の現場で課題の理解から開発・導入まで担うFDEという職種も紹介されています。
FDEという職種の目的は「お客様のやりたいことを聞き出して実現する」のではなく「全体像を把握して本当に有効な成果を提供する」ということにあると言われています。
実際どうなるのか?
ここからは、完全に私の感想になります。
先ほどの動画のような FDEという職種が日本で定着するにはまだ時間がかかるのではないかと思っています。まず、受ける側の日系企業が FDEをスッと受け入れるとはとても思えない。ITの現場と一般世界のタイムラグもあると思います。
ただし、開発プロセスの多くを人ではなくAIに実行させるという変化は必ず起きる、というか発生していてこの波に乗れない人・会社の淘汰は起きていくと思います。
こうなると、重要になってくるのは AIに対するインプット を正しく定義できるかどうかです。システム開発において仕様定義(AIに対するインプット)が非常に重要ですが、そこを置き去りにしてまずAIに入力して体裁の整った資料・コードを見て満足されている方をよく見ます。
AIを使っていわゆる壁打ちをして仕様を決めていくというやり方は非常に有効ですが、壁打ちしている間に出てくる「決めなければいけないことをステークスホルダー含めて議論して固めていく」ということができない人はAIを有効に活用しているとは言えないと考えています。
また、生成された資料やコードが、関係者と合意した目的を満たしているかを確かめることも、人間の役割として残ります。
まとめ
AIコーディングエージェントによって、開発の進め方はすでに変わり始めています。
その中で人間に求められるのは、解くべき課題と成果の基準を関係者と定め、AIを使って実現し、結果を確かめることだと考えています。
という個人の感想でした。