前書き
こんにちは。プロデュース推進グループの玉井です。
CAMPFIRE入社2年目にして初めてアドベントカレンダーに参加させていただきした!
マーケティングとして入社して以来、インサイドセールスチーム・BizOpsチームと様々なチームに異動しながらHubSpotの導入と運用立ち上げに大きく関わらせていただきました。
前ツールのMarketoからリプレイス完了という節目を迎えた今、さまざまなポジションでツールの導入設計から運用構築まで行ってきた記録としてこの場をお借りしてアウトプットさせて頂きます。
お声がけいただきましたkyaryさんありがとうございます!
MarketoとHubSpotのデータの違いについて語る
こちらの記事でMarketoとHubSpotの移行が難しい理由を、機能ではなく「データの見え方」の違いから整理します。
導入の全貌に関しては別途noteで投稿させていただく予定です。
<リリース後リンクはここに>
はじめに
MarketoからHubSpotへ移行する話をすると、だいたい最初に聞かれるのはこんな質問です。
「どの機能が足りなくて大変でしたか?」
「設定はどれくらい複雑でしたか?」
正直に言うとそこは一番しんどいところではありません。
本当に詰まったのは、同じ名前のデータなのに話が通じない瞬間です。
スコアの意味がズレる!
ワークフローは動いているのに、営業の判断に使えない!
履歴は残っているのに、顧客の状態が説明できない!
項目は確かに移している。ツールも問題なく動いている。
それでも運用だけがうまくいかない。
当時はこの違和感の正体をうまく言葉にできませんでした。
あとから振り返って分かったのはMarketoとHubSpotは、データを見るときの「主語」が違うということです。
この記事ではなぜMarketoとHubSpotは「そのまま移行できない」のかを、機能比較ではなくデータ思想の違いから整理します。
MarketoとHubSpotは「何を中心に世界が回っているか」が違う
前提としてMarketoはMAツールであり、HubSpotはCRMツール。
設計思想や成り立ちが異なることを理解するのが移行・活用の第一歩でした。
Marketoの思想:イベントドリブン/プログラム中心
Marketoの世界は、施策(プログラム)を中心に回っています。
- フォーム送信
- メール開封
- クリック
- 特定条件を満たしたかどうか
といった「何が起きたか」が軸です。
スマートキャンペーンを使い、条件とトリガーを組み合わせてイベントを処理していく。顧客は、そうしたイベントの集合体として扱われます。
この施策は、誰に・どう反応されたのか?
Marketoが得意なのはこんな問いです。
HubSpotの思想:オブジェクトドリブン/顧客中心
一方HubSpotは顧客を中心に世界を捉えます。
- Contact
- Deal
- Company
- Custom Object
といったオブジェクトが主語です。
重要なのは、顧客が「今どんな状態にいるか」。アクティビティやイベントは、その顧客の履歴として紐づいていきます。
この顧客は、今どのフェーズにいるのか?
この問いがHubSpotは得意です。
この違いを感覚的に表すなら、
Marketoは「ディレクトリ構造」
HubSpotは「メッシュ構造」
に近いと感じています。
Marketoでは、データはプログラムや施策の階層の中に整理され、「どの施策配下で起きたか」という文脈で意味を持ちます。
一方HubSpotでは、顧客や案件といったオブジェクトを中心に、行動や履歴が相互に関連づけられ、関係性をたどって多方向から参照できる構造になっています。
これはデータベース実装の違いというよりデータをどう捉え、どう理解するかという思想の違いです。
- Marketoは「施策をどう動かすか」に強い
- HubSpotは「顧客をどう捉えるか」に強い
どちらが優れているという話ではなく、得意な問いが違うということ。それが移行時の混乱の出発点になります。
なぜこの違いが“そのまま移行できない”原因になるのか
様々なところで”なぜ?”が発生しました!
スマートキャンペーンはなぜ置き換えられないのか
Marketoでは、スマートキャンペーンが施策の心臓部です。
条件・トリガー・アクションを細かく組み合わせ、イベントを起点に世界を動かします。
HubSpotにもワークフローがあります。機能だけ見れば「似ている」と感じるかもしれません。ただしどこを起点に動くかが違います。
- Marketo:イベントが起点
- HubSpot:顧客の状態が起点
そのためスマートキャンペーンをそのまま置き換えようとすると成立しないケースが多く発生します。必要なのは機能移植ではなく、概念の再構成でした。
スコアリングはなぜ“意味ごと”持っていけないのか
Marketoのスコアは、イベントの積み重ねとして設計されていることが多くあります。
一方HubSpotでは、スコアは営業やCSが次に何をするか判断する材料です。同じ「スコア」という名前でも、
- 何の意思決定に使うのか
- 誰が見るのか
が違います。数値だけコピーしても、意味が一致しなければ運用は破綻するということです。
「同じメール配信」なのに思想が合わない理由
メール配信も同様で、
- Marketo:施策単位での反応管理
- HubSpot:顧客履歴としての接点管理
配信自体はどちらでも可能です。しかし、営業やCSが見る文脈そのものごと変わります。
結果として、
- 履歴はある
- でも「今の顧客状態」が説明できない
という状態が生まれました。
データ移行ではなく「概念移行」が50%を占める
このプロジェクトを通じて強く感じたのは、次の感覚です。
Marketo → HubSpot 移行は データ移行50%、概念移行50%
フィールドはコピーできる、履歴も移せる。
でもそのデータが何のために存在しているか・どんな判断に使われていたかはそのままでは移せません。
移行前に必要だったのは、設定作業ではなく、概念の棚卸しでした。
実際に詰まったポイント
MarketoからHubSpotへの移行で一番時間を取られたのは、設定作業そのものではありませんでした。
本当に重かったのは、4年ほどにわたって担当者が入れ替わりながら運用されてきたMarketoが、完全に“遺跡化”していたことです。
- なぜ存在しているのか分からないフィールド
- 誰が、何のために作ったのか説明できないワークフロー
- 壊したら何が起きるか分からない施策
- 同じ概念なのに、チームや時期ごとに定義が違うデータ
これらはツールの問題というより、意思決定の履歴が堆積した結果でした。
データの「違い」を理解するだけで、まず一仕事
繰り返しになりますが、難しかったのはMarketoとHubSpotのデータの捉え方そのものが違うことです。
- Marketoは施策・イベントを軸にデータが整理される
- HubSpotは顧客や案件といったオブジェクトを軸に関係性が張られる
同じ「フィールド」や「履歴」に見えても、前提となる主語が違うためそのまま対応関係を作ることができません。まずは「これはMarketoの世界でその時の担当者が何を意味して作ったのか」を一つずつ読み解く必要がありました。
構造の違いを、実務にどう落とすかという壁
さらにもう一段難易度を上げたのがここです。
MarketoとHubSpotの構造の違いを理解しても、それをそのまま今の業務に当てはめられるわけではありません。なぜなら、そもそもの実務フロー自体がチームごとにバラバラだったからです。
- 同じ「リード対応」でも判断基準が違う
- 同じ「案件化」でも入力タイミングが違う
- データを見る目的がチームによって異なる
結果として、データ構造を移す前に、業務の設計そのものを見直す必要がありました。
詰まりの正体は「移行」ではなく「再定義」
振り返ると、このフェーズでやっていたのは単なる移行作業ではありません。
- 過去4年分の判断を読み解き
- データの意味を再定義し
- 業務フローを揃え
- その上で、ようやく新しい構造に落とし込む
移行は、歴史を翻訳し直す作業だったのだと思います。
だからこそ時間がかかったし、同時に、この工程を飛ばしていたらどんなツールを使っても破綻していたと感じています。
5. これからリプレイスする人への現実的なアドバイス
機能比較から入らない
「HubSpotで〇〇はできますか?」
この問いから入ると、遠回りになります。
先に考えるべきなのは
- 誰が
- いつ
- 何を判断するためのデータか
です。
業務プロセスを判断軸にする
どのツールが正しいかではなく今の業務にとってどの思想が自然かを基準にしてください。ツールは業務の写像なので、業務が歪んでいればデータ構造も歪みます。
半年〜1年かかる前提で計画する
MAリプレイスは工数を積めば早く終わる作業ではありません。
考える時間を最初から織り込んだ計画が必要です。
専任できるMA経験者を置く
片手間・兼務ではほぼ確実に行き詰まります。
- 思想を理解している
- 判断できる
この条件を満たす人を専任で置く必要があります。
全部を再現しない覚悟を持つ
HubSpotはMarketoの代替ではありません。
旧Marketoの複雑なデータをそのまま持ち込まず、勇気をもって捨てる。
この割り切りができたので、移行を前に進めることができました。
おわりに
振り返るとこのフェーズでやっていたのは単なる「移行作業」ではありませんでした。
- 過去4年分の判断を読み解き
- データが使われてきた文脈を確認し
- チームごとにバラついていた実務を揃え
- そのうえで、新しい構造に落とし込む
過去の運用を否定せずに理解し直し、次に進むための形に翻訳する時間だったと思います。
だから時間がかかりましたし、ここを飛ばしていたらどんなツールに移行しても同じ問題を繰り返していたはずです。
この経験が、「Marketo → HubSpot移行はデータ移行50%、概念移行50%」という実感につながりました。
来期は集めることができたデータを生かして何ができるか形にするフェーズがようやくやってきます。今後もたくさんのメンバーを巻き込み、大きな横断プロジェクトは続きます。
今回の学びが誰かの役に立ちますように!
