はじめに
先日、Salesforce関連の怪しい営業メールが届いたので、セキュリティエンジニアの視点から技術的に分析してみました。フィッシングメールの見分け方や、メールヘッダーの読み方について解説します。
受信したメール概要
送信者: Lxxx Sxxx lxxx.s@kxxx.com
件名: AI + Salesforce = 売上加速(東京開催)
内容: Salesforce関連のイベント案内と事前相談の営業メール
一見すると普通の営業メールに見えますが、詳しく分析すると多くの問題点が見つかりました。
技術的な問題点の分析
1. SPF認証の失敗
spf=softfail (google.com: domain of transitioning lxxx.s@kxxx.com
does not designate 209.85.220.41 as permitted sender)
問題点:
- SPF(Sender Policy Framework)認証が
softfailになっている - 送信者ドメインが指定したIPアドレスからの送信を許可していない
- なりすましメールの典型的な特徴
2. 送信時刻の不整合
From header: Mon, 6 Oct 2025 12:31:09 +0530 (インド時間)
Received: Mon, 06 Oct 2025 00:01:20 -0700 (PDT)
問題点:
- 時差を考慮しても約30分の差がある
- メールサーバーの設定ミスまたは意図的な偽装の可能性
3. メール形式の不自然さ
multipart/alternative構造:
Content-Type: multipart/alternative; boundary="000000000000c69e130640780494"
--000000000000c69e130640780494
Content-Type: text/plain; charset="UTF-8"
Content-Transfer-Encoding: base64
--000000000000c69e130640780494
Content-Type: text/html; charset="UTF-8"
Content-Transfer-Encoding: base64
問題点:
- テキスト・HTML両方がbase64エンコード
- 通常の営業メールでは不必要に複雑
- 内容の隠蔽を意図している可能性
内容面での問題点
1. 件名の不自然さ
base64デコード結果:
AI + Salesforce = 売上加速(東京開催)
- 英語と日本語の不自然な混在
- 典型的なスパムメールの件名パターン
2. 宛先の問題
To: txxx.kxxx@fxxx.co.jp,
hxxx.axxx@fxxx.co.jp,
txxx.hxxx@fxxx.co.jp
- 同一企業の複数人への一斉送信
- 個人を特定した営業というより無差別送信の様相
3. 本文内容の問題
- 具体性に欠ける抽象的な表現
- 緊急性を煽る文言(「11月開催」「事前ディスカッション」)
- ROI実現等の誇大な表現
HTMLメールとトラッキングの分析
HTMLメール構造
<div dir="ltr">
<p style="font-family:-apple-system,BlinkMacSystemFont,...">
こんにちは チーム、
</p>
<!-- 以下本文 -->
</div>
トラッキング要素のチェック
以下の典型的なトラッキング要素は検出されませんでした:
- ✅ 1x1ピクセル透明画像なし
- ✅ 外部サーバーへの画像読み込みなし
- ✅ JavaScriptなし
- ✅ トラッキングビーコンなし
ただし、HTMLメールである限り、何らかの形で開封追跡される可能性は否定できません。
セキュリティ対策の推奨事項
1. メールクライアント設定
- 外部画像の自動読み込みを無効化
- HTMLメールよりテキスト表示を優先
- 不明な送信者からのメールは慎重に扱う
2. 企業での対策
# SPFレコードの例
v=spf1 include:_spf.google.com ~all
# DMARCレコードの例
v=DMARC1; p=quarantine; rua=mailto:dmarc@yourdomain.com
- SPF、DKIM、DMARC設定の徹底
- メールセキュリティソリューションの導入
- 従業員へのセキュリティ教育
3. 個人での対応
- 即座に削除 - 返信・クリック厳禁
- 会社への報告 - 情報共有で被害拡大防止
- ドメインブロック - 今後の類似メール防止
まとめ
今回分析したメールは、以下の理由からフィッシング/詐欺メールの可能性が高いと判断されます:
- SPF認証失敗
- 送信時刻の不整合
- 不自然なメール構造
- 誇大な営業内容
メールセキュリティにおいて重要なのは、技術的な検証と内容の精査の両面からアプローチすることです。疑わしいメールを受信した際は、感情的に判断せず、冷静に分析することをお勧めします。