はじめに
Nous Research が開発するオープンソースAIエージェント Hermes Agent が、2026年4月16日にバージョン v0.10.0(コードネーム: The Tool Gateway Release)をリリースしました。
今回の最大のアップデートは Nous Tool Gateway の導入です。これまでエージェントに各ツール(Web検索・画像生成・TTS・ブラウザ自動化)を追加するには個別のAPIキーが必要でしたが、v0.10.0からは Nous Portal サブスクリプション1つ でこれらすべてのツールを利用できるようになりました。
この記事では、Nous Tool Gateway の仕組みと設定方法、118スキル同梱の自己学習ループ、16以上のプラットフォームに対応したMessaging Gateway、そしてエージェントの人格を定義するSOUL.mdシステムについて解説します。
この記事で学べること
- Nous Tool Gatewayの仕組みと設定手順
- 118スキルバンドルとClosed Learning Loopの活用法
- Messaging Gatewayでエージェントをチームに展開する方法
- SOUL.mdでエージェントのアイデンティティをカスタマイズする方法
対象読者
- AIエージェントフレームワークに興味があるエンジニア
- APIキー管理を簡略化したい開発者
- OSSエージェントをチームに展開したい方
前提環境
- OS: Linux / macOS / WSL2(Windows)/ Android Termux
- Python: 3.11以上(手動インストールの場合)
- Nous Portal アカウント(Tool Gateway利用の場合)
TL;DR
- Nous Tool Gateway: Nous Portalサブスク1つでWeb検索・画像生成・TTS・ブラウザ自動化を利用可能
- 118スキル同梱: MLOps・GitHub・リサーチ・スクレイピング等のスキルをバンドル
- Closed Learning Loop: 5回以上のツール呼び出しを経たタスクを自動的にMarkdownスキルとして保存、次回から40%高速化
- Messaging Gateway: Telegram・Discord・Slack・WhatsApp・Signal等16以上のプラットフォームを1デプロイで統合
- SOUL.md: エージェントのアイデンティティをMarkdownで定義するシステム
Nous Tool Gatewayとは
従来の課題
Hermes Agentに各種ツールを追加する場合、これまでは以下のAPIキーをそれぞれ取得・管理する必要がありました。
| ツール | プロバイダー | 管理が必要なキー |
|---|---|---|
| Web検索 | Firecrawl | FIRECRAWL_API_KEY |
| 画像生成 | fal / FLUX.2 [pro] | FAL_KEY |
| TTS | OpenAI | OPENAI_API_KEY |
| ブラウザ自動化 | Browser Use | BROWSER_USE_API_KEY |
複数のAPIキーを管理するオーバーヘッドが、セットアップの障壁となっていました。
Nous Tool Gatewayの仕組み
v0.10.0で導入された Nous Tool Gateway は、Nous Portal サブスクリプションを持つユーザーが、単一のサブスクリプション認証 を通じて上記4ツールを利用できる仕組みです。
Hermes Agent → Nous Tool Gateway → Firecrawl (Web Search)
→ fal / FLUX.2 [pro] (Image Gen)
→ OpenAI TTS
→ Browser Use
- 個別のAPIキーは不要(Nous Portalのサブスク認証のみ)
- ツールごとのオプトイン設定(
use_gateway: true) - 直接APIキーが存在する場合でもGatewayを優先
利用可能なツール
| ツール | プロバイダー | 用途 |
|---|---|---|
| Web検索 | Firecrawl | リアルタイムWeb情報取得 |
| 画像生成 | fal / FLUX.2 [pro] | 高品質AI画像生成 |
| テキスト読み上げ | OpenAI TTS | 音声出力生成 |
| ブラウザ自動化 | Browser Use | Webブラウザの自動操作 |
Gatewayの設定方法
ステップ1: モデル選択でNous Portalを指定
hermes model
# → 対話形式でモデル選択
# → "Nous Portal" を選択するとGatewayが自動的に有効化
ステップ2: 有効化するツールを選択
hermes tools
# → 各ツールカテゴリが表示される
# → Nous Subscriptionを選択すると use_gateway: true が設定される
ステップ3: 設定を確認
hermes status
# → ゲートウェイの接続状態と有効化されたツールを確認
生成される設定ファイル(~/.hermes/config.yml)の例:
model:
provider: nous_portal
model: <モデル名> # hermes model コマンドで選択したモデルが自動設定される
tools:
web_search:
use_gateway: true # Firecrawl経由
image_generation:
use_gateway: true # fal / FLUX.2 [pro]経由
tts:
use_gateway: true # OpenAI TTS経由
browser:
use_gateway: true # Browser Use経由
自己ホストGatewayの設定
カスタムGatewayエンドポイントへの接続は環境変数で制御できます。
# ~/.hermes/.env
TOOL_GATEWAY_DOMAIN=your-gateway.example.com
TOOL_GATEWAY_SCHEME=https
TOOL_GATEWAY_USER_TOKEN=your-token
118スキルと自己学習ループ
スキルシステムの概要
Hermes AgentのスキルはMarkdownファイルとして管理されます。v0.10.0では以下のカテゴリを含む 118スキル がバンドルされています。
- MLOps関連
- GitHubオペレーション
- リサーチ・情報収集
- Webスクレイピング
- コード実行・テスト
- データ分析
スキルファイルは agentskills.io とも互換性があり、コミュニティのスキルをインポートすることも可能です。
Closed Learning Loop(自己学習ループ)
Hermes Agentの特徴的な機能が Closed Learning Loop です。Nous Researchによると、5回以上のツール呼び出しを経たタスクでは、エージェントが自動的に以下の内容を含むMarkdownスキルドキュメントを作成します。
- 手順 (Procedure): タスク実行の手順
- 注意点 (Pitfalls): 実行中に遭遇した問題
- 検証手順 (Verification): 完了確認の手順
次回、類似タスクが発生した場合、FTS5(全文検索)によってスキルが取得され、エージェントはゼロから推論するのではなく既存スキルから着手できます。
TokenMix.aiのベンチマークによると、自己作成スキルによってリサーチタスクの実行時間が40%削減されたと報告されています1。
スキルコマンド
# 利用可能なスキルを確認
hermes skills list
# スキルの詳細を表示
hermes skills show <skill-name>
# スキルを手動でインポート
hermes skills import <path-to-skill.md>
Messaging Gateway
v0.10.0のMessaging Gatewayでは、1回のデプロイで複数のメッセージングプラットフォームからHermes Agentを操作できます。
対応プラットフォーム
| プラットフォーム | 用途 |
|---|---|
| Telegram | モバイルからの操作 |
| Discord | チーム・コミュニティ向け |
| Slack | 企業チーム向け |
| モバイル・ビジネス向け | |
| Signal | プライバシー重視 |
| CLI | ターミナル操作 |
| Matrix | セルフホスト向け |
| Mattermost | OSS企業チャット |
| Email / SMS | メール・SMS経由 |
| DingTalk / Feishu | アジア市場対応 |
Messaging Gatewayのセットアップ
# ゲートウェイ起動
hermes gateway
# プラットフォームの設定(対話型ウィザード)
hermes gateway setup
# → API Token、ボットID、チャンネルマッピング、許可リストを設定
一度デプロイすれば、スマートフォンからエージェントに指示を送り、デスクトップで実行させることができます。各プラットフォームからの操作は同一コンテキストを共有します。
SOUL.md — エージェントのアイデンティティ定義
SOUL.md は、Hermes Agentのアイデンティティを定義する設定ファイルです。システムプロンプトの最初に配置され、エージェントの話し方・価値観・制約を自然言語で記述します。
SOUL.mdの場所と編集
# SOUL.mdを編集(ファイルが存在しない場合は新規作成)
nano ~/.hermes/SOUL.md
設定例
# SOUL.md
あなたはITインフラ管理を専門とするアシスタントです。
- 変更前に必ず確認を行う
- 不確かな場合は憶測せず、明示的に述べる
- すべての操作をログに記録する
- セキュリティを最優先に考える
/personality コマンドによるセッション上書き
SOUL.mdはデフォルトの人格を定義しますが、セッション単位で/personalityコマンドで上書きできます。
/personality teacher # 教育的な説明モードに切り替え
/personality creative # クリエイティブなブレスト・発想モードに
/personality analyst # データ分析・調査特化モードに
この設計により、SOUL.mdで共通の基本人格を維持しつつ、タスクごとに異なるアプローチを適用できます。
インストールと初期設定
クイックインストール
Linux・macOS・WSL2・Android Termuxに対応したインストールスクリプトが用意されています。
curl -fsSL https://raw.githubusercontent.com/NousResearch/hermes-agent/main/scripts/install.sh | bash
インストール後、以下のコマンドで起動します。
hermes
手動インストール(Python)
Python環境での手動インストール手順です。
# リポジトリのクローン(サブモジュール含む)
git clone --recurse-submodules https://github.com/NousResearch/hermes-agent
cd hermes-agent
# 仮想環境の作成と有効化(uv推奨)
uv venv
source .venv/bin/activate
# 全依存関係のインストール
uv pip install -e ".[all]"
# 起動
hermes
初回セットアップ
# モデル・プロバイダーの設定
hermes model
# ツールの確認と設定
hermes tools
# ステータス確認
hermes status
# Messaging Gatewayのセットアップ(オプション)
hermes gateway setup
v0.9.0からの変更点まとめ
| 機能 | v0.9.0 | v0.10.0 |
|---|---|---|
| ツール設定 | 個別のAPIキーが必要 | Nous Tool Gateway(1サブスク) |
| 同梱スキル数 | 非公開 | 118スキル |
| メッセージングプラットフォーム | 16プラットフォーム | 16+プラットフォーム(Gateway統合) |
| 人格設定 | 設定ファイルのみ | SOUL.md + /personality
|
| コミット数(リリース差分) | - | 180+コミット |
まとめ
Hermes Agent v0.10.0は 「ツールのセットアップ負荷を取り除く」 というシンプルなアプローチで、OSSエージェントの実用性を大きく向上させたリリースです。
- Nous Tool Gateway: APIキー管理が不要になり、Web検索・画像生成・TTS・ブラウザ自動化を即座に利用可能
- Closed Learning Loop: タスクの経験から自動的にスキルを生成し、繰り返し作業を40%高速化
- Messaging Gateway: 1デプロイで16以上のプラットフォームからエージェントを操作
- SOUL.md + /personality: セッション単位でエージェントの行動特性をカスタマイズ
エージェントが「使うほど賢くなる」設計は、長期的な生産性向上において特に注目すべきポイントです。
参考リンク
- NousResearch/hermes-agent(GitHub) — 公式リポジトリ
- Hermes Agent Release v0.10.0 — v0.10.0リリースノート
- Nous Tool Gateway ドキュメント — Gateway設定ガイド
- Messaging Gateway ドキュメント — 各プラットフォームの設定手順
- Skills System ドキュメント — スキルシステムの詳細
- インストールガイド — 環境別のインストール手順