はじめに
今回は「アプリのアイコンデザインがユーザーのダウンロード行動に与える影響」について今年(2025 年)に発表された "The Impact of APP Icon Design Aesthetics on User Downloads" という論文から学んでいきたいと思います。
(エッホエッホ🦉 最新の論文をみんなに届けなきゃ エッホエッホ🐥)
論文
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タイトル
The Impact of APP Icon Design Aesthetics on User Downloads -
著者
Yifang Wang, City University of Macau -
引用
Wang, Yifang. "The impact of Application icon design aesthetics on user downloads." Intelligent Human Systems Integration (IHSI 2025): Integrating People and Intelligent Systems 160.160 (2025).
概要
アプリのアイコンデザインは、ブランド認知度の向上やユーザーのアプリ選択に影響を与える重要な要素である。しかし、既存の研究では、アイコンの機能性やテキスト属性に重点が置かれ、美的要素(デザインの美しさ)に関する研究は少ない。本研究では、色、要素の複雑さ、対称性の 3 つの視点から、APP アイコンの美的デザインがユーザーのダウンロード行動に与える影響を分析する。
APP アイコンの分類
APP アイコンは、以下の観点で分類することができる
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機能的分類
- 企業やサービスのロゴ(例:LINE など)
- 一般的な機能アイコン(例:Youtubeアプリの再生ボタン)
2. デザイン的分類
- ピクセル化(例:単純な線や形状)
- シルエット(例:背景と一体化したアイコン)
- フラット(例:シンプルなベクターデザイン)
- マイクロテクスチャ(例:背景がうっすら透けて見えるようなデザイン)
- 擬似リアル(例:3D 効果や影を使用したアイコン)
APP アイコンの歴史
APP アイコンのデザインは、大きく 3 つの段階を経て発展してきた
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初期(簡素化時代)
ストレージやディスプレイの制約により、シンプルなデザインが主流。基本的な形状と単純な輪郭を使用。 -
中期(リアル志向時代)
スキューモーフィズム(Skeuomorphism) が流行。影や光沢を用いたリアルなデザインが好まれたが、視認性の低下が問題となった。 -
現在(ミニマリズム時代)
フラットデザインが主流に。シンプルで明快なデザインが視認性向上と操作性向上に貢献
実験
本研究では、APPアイコンのデザイン美学(色、複雑さ、対称性)がユーザーのダウンロード行動に与える影響 を調査するため、ランキングのデータ分析とユーザーインタビュー を組み合わせた実験を実施した
データ分析
- 「Qimai Data」のランキングデータを使用し、4つの主要なAPPカテゴリからダウンロードランキング3位 のアプリを収集
- それらのAPPアイコンを分析し、デザインの共通点を抽出
結果
色(Color)、要素の複雑さ(Complexity)、対称性(Symmetry)の3つの要素に共通するパターンがあることが明らかになった。
色(Color)の影響
- アイコンの色数は3色以内 に制限されている傾向があった
- 明るく、暖色系(赤・オレンジ・黄色)が多く使用されている
- 色彩心理の観点から、明るい色はユーザーの目を引き、親しみやすさを与えることが示唆される
要素の複雑さ(Complexity)(※論文では中国のアプリが例にされていますが日本人にも馴染みのあるアプリに置き換えています)
- アイコンのデザインはシンプルなものが多く、要素が少ない
- 背景は単色またはグラデーション が多用され、視認性が高い
- 吹き出しアイコン(メッセージ)
- デザイン要素のタイプ
- 文字中心(例:radiko、PayPay)
- シルエットやキャラクター要素(例:東京都防災アプリのサイ)
幾何学模様を活用(例:ChatGPT)
- シンプルすぎず、適度な特徴を持たせることでブランド認識を強化している。
対称性(Symmetry)の影響
- 完全対称のデザインは少なく、「わずかに非対称」のアイコンが多かった
- わずかな非対称性が視覚的な動きを生み、よりダイナミックで印象的なデザインになる。
例:PayPayのロゴ、東京都防災アプリ(少し傾がある)
メッセージの吹き出し(左右非対称) - 完全な対称よりも、適度な非対称性が視線を引きつけ、ユーザーの興味を引く可能性が高い
データ分析のまとめ
- データ分析の結果、以下のような傾向が明らかになった
- アイコンの色は3色以内に抑えられ、明るい暖色系が多い(視認性向上)
- 要素はシンプルだが、フォント・シルエット・幾何学模様の適度な組み合わせが特徴的
- 完全対称ではなく、わずかに非対称なデザインが視覚的な魅力を高める
インタビュー
APPアイコンのデザインがユーザーのダウンロード行動に与える影響 を調査するため、オンラインとオフラインを併用したユーザーインタビューを実施
インタビューの方法
- 実施方法
オンライン(ビデオ通話・アンケート)
オフライン(対面インタビュー) - 自由回答形式を採用
形式的なアンケートではなく、参加者が自由に意見を述べられるよう誘導
録音および逐語記録を行い、発言内容を分析
質問内容
- アイコンのデザインスタイル(フラット or 立体感のあるデザイン)
- 色の組み合わせ(明るい色 or 暗い色)
- 要素の複雑さ(シンプルなアイコン or 装飾の多いアイコン)
- 対称性(完全対称 or わずかに非対称)
- アイコンの印象がダウンロード行動に影響するか
インタビュー結果
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デザインスタイル
フラットデザイン(または微細なテクスチャを加えたもの)が好まれる
影や立体感のあるデザインは、古く見えるとの意見が多い -
色の影響
明るい色(特に赤・オレンジ・黄色)がユーザーの目を引きやすい
色の数は 3色以内が理想的(多すぎると視認性が低下する) -
要素の複雑さ
シンプルなデザインが好まれるが、適度な個性が重要
例:アイコン内にブランドの特徴的な形状を加えることで、認識しやすくなる -
対称性
完全対称よりも、わずかに非対称のデザインが魅力的 という意見が多数
インタビューの結論
- フラットデザインで、明るい色を使い、適度にシンプルで、わずかに非対称なアイコンが好まれる
- アイコンデザインが視認性や印象に影響を与え、結果としてダウンロード数の増加につながる可能性がある
結論
実験の結果、ユーザーが好むアイコンデザインには 4 つの原則があることがわかった
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シンプルで明快なデザイン(Simplicity and Clarity)
フラットデザインが好まれ、視認性と操作性が向上する -
適切な色使い(Multiple Color Principles)
色の組み合わせは 3 色以内が理想的
明るい色(赤・オレンジ・黄色)が視認性を向上させる -
バランスの取れた非対称性(Balanced U-Shaped Principle)
完全な対称よりも、若干の非対称がデザインの魅力を高める -
適度な複雑さ(The Principle of Slight Complexity)
シンプルすぎず、適度に要素を含むことで、アイコンの印象を強める
まとめ
APPアイコンのデザインは、アプリの成功に直結する重要な要素である!
適切なデザイン(フラット+明るい色+適度な非対称+シンプルな要素)を採用することで、ユーザーの注目を集め、ダウンロード数を増加させる可能性が高い!
論文を読んでみて
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色のもたらす効果
以前紹介した論文でも、明るい色が Happy(幸福感) や Surprise(驚き) を与えることが示されていました。また、赤色にはユーザーに 警戒的な反応を与える効果があるという結果もありますが、黄色などの明るい色と組み合わせることで、楽しさや親しみやすさを表現できることが改めて分かりました! -
アイコンの歴史(変遷)
下記の記事では、アプリアイコンの変化が 画像付きで分かりやすくまとめられており、特に 中期(リアル志向時代)から現在(ミニマリズム時代)への移り変わりがよく理解できます。
ストレージやディスプレイの制約がなくなったことで、より豊かな表現が可能になったはずなのに、むしろシンプルなデザインが好まれるようになったというのは、とても興味深いポイントです。シンプルで直感的なデザインのほうが、現代のユーザーにとって 視認性が高く、使いやすいということなのかもしれませんね。
- 文化圏による違い
今回の研究は主に中国のデータを基にしているため、日本や欧米市場では違った結果が出るのではないかという点が気になりました。
アプリのアイコンをデザインする際には、ぜひ参考にしたい興味深い研究でした!
おまけ
弊社ロゴを使ってアプリアイコンを作成してみました。
アプリを作るときは、フラットデザインに明るい色を組み合わせ、ちょっとだけ非対称にして…
( ・´ー・`)どや ダウンロード間違いなし
やりすぎて「なんか違うな…」にならないように、バランス感覚も大事にしましょう。