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今さら聞けないシリーズ2「Beyond the Twelve-Factor App」再入門

Last updated at Posted at 2026-01-13

ヘッドシェフのメニュー開発術「Beyond the Twelve-Factor App」

안녕하신게라!パナソニック コネクト株式会社クラウドソリューション部の加賀です。

前回の記事では、「シェフのバイブル」である「The Twelve-Factor App(以下12FA)」を学び、一つの厨房で常に安定した味(再現性と安定性)を提供するための「守りの基礎」を固めました。
その活躍が認められ、あなたは今、新2号店のヘッドシェフに抜擢されました。
しかし、安定だけではこの新しい店を成功に導くことはできません。常連のお客様を飽きさせず、新しいお客様を惹きつけるには、「新しい価値=新しいメニュー」を迅速かつ安全に提供し続ける「攻めの戦略」が必要です。

このシリーズは、そんな混沌とした開発現場を「再現性高く、迅速かつ安全に価値を届けられる理想のレストラン」へと変革するための旅路です。

  1. シェフのバイブル「The Twelve-Factor App」を学び(完了!)、
  2. ヘッドシェフのメニュー開発術「Beyond the Twelve-Factor App」 を手に入れ(本記事)、
  3. セントラルキッチン活用のための「Cloud-Native」で厨房を設計し、
  4. ミシュラン調査員も認める「Site Reliability Engineering」 の品質を追求する

今回は、その第2弾。12FAが「守りの聖典」だったとすれば、「Beyond the Twelve-Factor App」は、現代のクラウドネイティブ環境に合わせた12FAの発展形であり、「顧客を魅了し続けるための攻めの戦略書」と言えるでしょう。

さあ、新たなメニューでお客様を驚かせ続けるための、ヘッドシェフの視点を手に入れましょう。

この記事で学べること

この記事では、「Beyond the Twelve-Factor App」を初めて学ぶ方から、以前学んだけれど改めて全体像を整理したい方までを対象としています。

単に原則の変更点を羅列するのではなく、ヘッドシェフのメニュー開発術という比喩を交えながら、12FAで築いた「守りの基礎」が、現代の「攻めの戦略」へとどう発展するのか、その本質を深く理解することを目指します。

  • 「Beyond the Twelve-Factor App」とは?
    この原則が生まれ、どのような思想に基づいているのか、その核心に迫ります。
  • 新メニュー開発のためのアップデートされた原則
    12FAの原則を「新メニュー開発」の観点からどう発展させるべきか?
  • 顧客を魅了し続ける3つの新戦略
    1. API第一(API First)
      新しい注文方法(顧客接点)に即座に対応する
    2. テレメトリ(Telemetry)
      お客様の声(データ)を聴き、次のヒットメニューを予測する
    3. セキュリティ(Security)
      どんな斬新な料理でも「食の安全」を保証する

「Beyond the Twelve-Factor App」とは?

Beyond the Twelve-Factor App」とは、2016年にKevin Hoffmanが提唱した、モダンなソフトウェア開発のための原則12FAを、さらに現代のクラウドネイティブな開発環境に合わせて発展させた考え方です。

レストランの比喩で言うなら、12FAで安定した厨房は作れましたが、新2号店のヘッドシェフであるあなたには、次のような経営陣やお客様からの期待が寄せられます。

  • 「季節限定の新作メニューを、来週からすぐに出したい!」
  • 「最近流行りのデリバリーサービスと連携して、販路を拡大したい!」
  • 「お客様がスマホで注文から決済までできる仕組みを導入したい!」

「Beyond the Twelve-Factor App」は、このようなお客様の期待を超える体験を提供し続けるために、新しいアイデアを素早く形にし、お客様に届け、その反応を見てさらに改善していく…そのような俊敏なメニュー開発サイクルを支えるための現代的な戦略なのです。

新メニュー開発のためのアップデートされた原則

既存の12FAの原則も、ヘッドシェフの「新メニュー開発」という視点で見ると、その解釈がさらに進化します。

V. ビルド、リリース、実行 (Build, Release, Run) → デザイン、ビルド、リリース、実行 (Design, Build, Release, Run)

ビルド・リリース・実行の3ステージの最上位に、顧客体験やビジネス価値を起点とした「デザイン」フェーズを追加します。これにより、「何を作るか」の意思決定の質を高め、開発全体の方向性を明確にします。
→ デザインから始まる価値創造サイクル。

  • シェフの常識 (12FA)
    下ごしらえ(ビルド)、メニュー決定(リリース)、調理(実行)の各段階を分ける。
  • ヘッドシェフの戦略 (Beyond 12FA)
    その最上位に「どんなお客様に、どんな驚きを提供したいか(Design)」という顧客体験の設計が来ます。この設計思想が、後の全プロセスを導きます。単にシステムを構築するだけでなく、「顧客価値」を起点にすることで、開発のブレがなくなり、本当に求められるメニューを迅速に生み出せます。

単に「動くシステムを作る」のではなく、「誰の、どんな課題を、どのように解決するのか」を明確にするデザイン思考(Design Thinking)やユーザーストーリーマッピングから始めます。この設計段階で、APIの仕様、ユーザー体験、セキュリティ要件などを定義し、後続のビルド・リリース・実行フェーズの指針とします。
具体的には、ドメイン駆動設計(DDD)やユーザーストーリーマッピングといった手法を用いて、ビジネスドメインの本質的な課題を解決する設計を目指します。

VI. プロセス (Processes) → ステートレスで共有ナッシングなプロセス (Stateless, Share-Nothing Processes)

プロセス間でメモリやファイルシステムだけでなく、データベースなどの永続化レイヤーも共有しない(Share-Nothing)アーキテクチャを採用します。
→ 柔軟な人員配置により新メニュー開発を加速させる。

  • シェフの常識 (12FA)
    各シェフは独立して作業し、スケーラビリティを確保する。
  • ヘッドシェフの戦略 (Beyond 12FA)
    この原則は、新作メニューの試作(開発)にも応用されます。各試作チームは、他のチームと調理場や道具だけでなく、データベースなどの永続化された状態を保持する「食材倉庫」も一時的なデータ(キャッシュ)を置く「作業台」も共有しない(共有ナッシング)ことで、互いに影響を与えることなく、並行して複数の新メニュー開発をスピーディに進めることができます。これにより、各チームが自律的に機能するマイクロサービスアーキテクチャの実現が加速され、組織全体のスケーラビリティが向上します。

X. 開発/本番一致 (Dev/prod parity) → 環境の完全な一致 (Full Environment Parity)

環境差異に起因するバグを根本から排除し、イノベーションのスピードを向上させます。
→ 「試作品は美味しかったのに…」という言い訳は、もはや通用しない。

  • シェフの常識 (12FA)
    試作厨房(開発環境)と本番厨房の設備を「できるだけ」一致させる。
  • ヘッドシェフの戦略 (Beyond 12FA)
    「できるだけ」ではなく「完全に」一致した「ポータブル試作キッチン(コンテナ)」を全シェフに配布します。これにより、ヘッドシェフが思いついた斬新なアイデアを、若手シェフがその場で、リスクなく、本番と全く同じ条件で試作できます。イノベーションの速度が格段に向上します。この理想は、DockerコンテナとKubernetesによるImmutable Infrastructure(不変なインフラ)を構築することで、現実のものとなります。

顧客を魅了し続ける3つの新戦略

ここからは、ヘッドシェフがお客様を飽きさせないために導入すべき、「Beyond the Twelve-Factor App」で追加された、3つの「攻め」の戦略です。

API第一(API First)

システムの機能を最初にAPI仕様として定義し、フロントエンドとバックエンドの開発を並行して進めます。
→ 新しい注文方法(顧客接点)に即座に対応する。

  • なぜ (Why)
    口頭注文にしか対応していないレストランは、急に現れた「デリバリー」や「モバイルオーダー」といった新しい注文方法に対応できません。最初に伝票の形式を決めておけば、どんな新しい注文方法も「伝票に変換する」だけで対応でき、ビジネスの柔軟性を高め、ビジネスチャンスを逃しません。
  • どうやって (How)
    まず「注文」とは何か、「在庫確認」とは何か、といった機能の仕様(伝票の書式)を定義します。厨房は、その伝票だけを見て調理するように徹底します。これにより、新しい顧客接点(モバイルアプリ開発など)と厨房開発を並行して進められます。この開発スタイルを支えるのが、OpenAPI Specification (Swagger) のようなAPI記述言語であり、マシンリーダブルな仕様が開発者間の契約書となります。
  • アンチパターン
    • 新しい注文方法のたびに、厨房の仕組みを根本から作り変えている。
    • 特定の常連客(特定のフロントエンド)のためだけの、裏口からの口頭注文に対応してしまう。

テレメトリ (Telemetry)

ログ、メトリクス、トレースの3つの柱(Three Pillars of Observability)を体系的に収集・分析し、システムの状態把握とデータ駆動の意思決定を可能にします。
→ お客様の声(データ)を聴き、次のヒットメニューを予測する。

  • なぜ (Why)
    「勘」や「一部の常連の声」だけで次のメニューを決めるのは危険です。お客様が本当に求めているものを理解するには、「どのメニューが一番人気か」「お客様はどの料理で待つことが多いのか」「どのコースの組み合わせが一番注文されるか」といった客観的なデータに基づき、改善や新メニュー開発の精度を上げることが重要です。
  • どうやって (How)
    お客様の注文履歴(ログ)、人気メニューのランキング(メトリクス)、注文から提供までの時間(トレース)などを収集・分析します。これにより、「AとBのセット販売が人気だから、新しいセットメニューを開発しよう」といったデータ駆動の意思決定が可能になります。この可観測性(Observability)を実現するため、Prometheusでメトリクスを、Jaegerでトレースを収集・可視化するなどの実践が一般的です。
  • アンチパターン
    • アンケートBOXを置いているが、誰も中身を見ていない(データを収集しているが見ていない)。
    • 料理長の「俺の舌が一番正しい」という鶴の一声で、すべてのメニューが決まる。

セキュリティ (Security)

セキュリティを開発プロセスの最後に追加するのではなく、設計段階から組み込みます(Shift-Left、Security by Design)。
→ どんな斬新なメニューでも「食の安全」を保証する。

  • なぜ (Why)
    新しい価値を提供することに夢中になるあまり、食の安全(セキュリティ)をおろそかにしては、レストランの信頼を根本から失います。「攻め」のメニュー開発は、「守り」の品質保証と一体であって初めて意味を持ちます。
  • どうやって (How)
    新しい食材(ライブラリ)を仕入れる際に、自動で毒物(脆弱性)がないかスキャンする仕組みを導入します。また、新しい調理法を考案する段階で、衛生管理の専門家(セキュリティ専門家)がレビューに参加し、設計段階でリスクを潰し込みます(シフト・レフト)。CI/CDパイプラインにSAST(静的解析)やSCA(ソフトウェア構成分析)ツールを組み込むことで、この「セキュリティのシフトレフト」を自動化・習慣化します。
  • アンチパターン
    • 「新メニュー開発が最優先!安全確認は後回しだ!」という文化。
    • 完成した新メニューを、提供直前になって初めて試食し、重大な問題が発覚して大幅遅延や提供中止になる。

ヘッドシェフから、次のステージへ

今回は、守りの基礎を固めたシェフが、お客様を魅了するヘッドシェフへと進化するための「攻めの戦略」を学びました。

  • API Firstで、変化する顧客ニーズに俊敏に対応し、
  • Telemetryで、お客様の声をデータで聴き、次の価値創造に繋げ、
  • Securityで、攻めながらも揺るぎない信頼を守り抜く。

12FAが「いつ来ても同じ美味しい料理が食べられる」という信頼の基盤だとしたら、「Beyond the Twelve-Factor App」は、その上で「次は何を食べさせてくれるんだろう?」という期待を創造するための戦略書です。
この3つの戦略が、あなたのレストランを「ただ美味しい店」から、「いつ来ても新しい驚きと感動がある、忘れられない店」へと昇華させたのです。

次回予告

さて、ヘッドシェフであるあなたの活躍で、新2号店は前代未聞の大成功を収め、その評判は海を越え広まっています。
オーナーはあなたの働きを労いつつ、「もはや君は一店舗のヘッドシェフではない、次のステップに進む時が来た」と告げ、レストラン事業の未来を左右する壮大なミッションを提示します。

「君が2号店で確立した成功モデルを、世界中に展開したい。だが、どうすれば…?」

「いやいやオーナー、いきなり世界中に店舗を展開するのは危険です!まずはパイロット店舗(数店舗)で新システムを稼働させ、お客様の反応や運用データを見てから、段階的に各国へ展開(ロールアウト)していきましょうよ!」

と、勢いツッコんでから、あなたは考え込みます。

  • 「各店舗にゼロから厨房を作り、シェフを一人ひとり育てていたら、味がブレるし、時間もコストもかかりすぎる…」
  • 「ビジネスの成長スピードを維持したまま、品質を均一化し、効率的に多店舗展開する仕組みはないものか?」
  • 「新メニューのアイデアを、世界中の店舗に一斉に、かつ安全に届けるにはどうすれば?」

これらは、もはや一店舗のヘッドシェフではなく、レストラン帝国全体の生産システムを設計する「セントラルキッチン設計者」の視点です。そして、その段階的な展開と、需要に応じた柔軟な拡張を可能にするのが、クラウドネイティブの思想なのです。

次回の第3弾、「セントラルキッチン活用のための "Cloud-Native"」では、一店舗の成功を、世界中で再現可能なビジネスモデルへと昇華させるための究極の設計思想について探求します。ご期待ください!


お断り
記事内容は個人の見解であり、所属組織の立場や戦略・意見を代表するものではありません。
あくまでエンジニアとしての経験や考えを発信していますので、ご了承ください。

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