2025年9月、Microsoftが「Agent Mode」を発表。Excelが自分で考えて動く時代が来た。SpreadsheetBench精度57.2%を達成し、自然言語だけでプロ級の分析が可能に。料金体系、使い方、メリット・デメリットまで完全解説。
金曜の深夜、いつものようにSlackを眺めていたら、同僚から一通のメッセージが届いた。
「ねぇ、Excelが自分で考えて動くようになったって知ってる?」
は?何言ってんの?そう思いながらリンクをクリックした瞬間、私のExcelに対する認識が180度変わることになる。
Microsoftが2025年9月29日に発表した「Agent Mode」。これ、ただのアップデートじゃない。「Excelの使い方」という概念そのものを書き換える、革命的な機能なんだ。
Agent Modeって何?「考えるExcel」の正体
想像してほしい。あなたが「今月の売上データから重要なインサイトを可視化して」とExcelに話しかけたら、Excelが自分で考えて、必要な数式を選び、新しいシートを作り、グラフまで生成してくれる世界を。
それがAgent Modeだ。
従来のCopilotは「1回の質問に1回の回答」というスタイルだった。でもAgent Modeは違う。OpenAIの最新推論モデルを搭載し、計画→実行→検証→修正を自動で繰り返す。まるでExcelのエキスパートに仕事を丸投げして、あなたは方向性を指示するだけ、みたいな感覚だ。
Microsoftはこれを「Vibe Working(バイブワーキング)」と呼んでいる。コーディング不要でアプリが作れる「Vibe Coding」の生産性版というわけだ。
具体的に何ができるの?実例で見る衝撃の機能
Excel Agent Mode:データ分析の民主化
Agent Mode in Excelは、Excel on the webで利用可能(デスクトップ版も近日対応)。Excel Labsアドインからアクセスする。
【実例1:財務分析レポートの自動生成】
プロンプト:「自転車ショップの月次決算レポートを作成。製品ライン別に予算対比(VTB)と前年同期比成長率を含めて。財務フォーマットとベストプラクティスに従って」
結果:Agent Modeが自動で複数シートを生成し、適切な数式を配置し、財務フォーマットを適用。所要時間は数分。
【実例2:ローン計算機の構築】
プロンプト:「ローン金額、年利、期間を入力すると月々の返済額を計算するツールを作って。返済スケジュール表も付けて」
結果:ユーザー入力フィールド、計算式、月別の返済スケジュール表が完成。プログラミング知識ゼロでOK。
【実例3:家計簿トラッカー】
プロンプト:「家賃、食費、光熱費、娯楽、交通費、貯蓄のカテゴリで月間家計簿を作成。予算オーバー/アンダーを条件付き書式とデータバーで可視化して。ドーナツチャートで支出分布も表示」
結果:カテゴリ別の予算管理表、自動計算、ビジュアル化まで完璧に実装。
Word Agent Mode:執筆体験の再定義
Word on the webでも同様にAgent Modeが利用可能。Microsoftは「Vibe Writing(バイブライティング)」と表現している。
単なる文章生成ではなく、対話的な執筆プロセスが実現する。たとえば:
- 「先月のメールデータを使って月次レポートを更新して」
- 「前バージョンと比較して主要インサイトを要約して」
- 「ブランドガイドラインに従って再フォーマットして」
これら複数のステップを一つのプロンプトで実行できる。途中で確認を求めながら進めるので、完全放置じゃなく「協働」している感覚だ。
Office Agent:チャットからドキュメント生成
これがまたヤバい。Copilot Chatから直接、PowerPointプレゼンやWordドキュメントを丸ごと作れる機能だ。
特筆すべきは、Anthropic社のClaudeモデルを使用している点。OpenAIとAnthropicの両方を使い分けることで、それぞれの強みを活かす戦略だ。
プロセスはこう:
- ユーザーの意図を明確化(対話で詳細をヒアリング)
- Web調査を実施(最新情報を収集)
- ドキュメントを生成(プレビュー表示)
- ユーザーとコラボして修正
たとえば「ポップアップキッチンのビジネスプラン発表用スライドを作って」と頼むだけで、リサーチ込みの完成度の高いプレゼンが出来上がる。
気になる精度は?SpreadsheetBenchの結果
ここで正直に言う。Agent Modeは完璧じゃない。
MicrosoftがSpreadsheetBenchという業界標準ベンチマークで測定したところ、Agent Modeの精度は57.2%。人間のエキスパートが**71.3%**なので、まだ差がある。
でも、この数字にはコンテキストが必要だ:
- Claude Opus 4.1などの競合AIより高スコア
- SpreadsheetBenchは実際のExcelフォーラムから集めた912件の複雑なタスクで構成
- 精度57.2%は「10タスクのうち5〜6個を完璧にこなし、残り4〜5個は部分的成功」を意味する
重要なのは、シンプルなタスクでは高い成功率を示し、複雑なマルチステップ処理で苦戦するということ。つまり、普段の業務の大部分は十分カバーできる。
そして何より、Agent Modeは検証可能な結果を出す。作業ログが可視化されるので、「なぜそうなったか」を追跡できる。これ、めちゃくちゃ重要。
使い方:Frontierプログラムからアクセス
Agent Modeは現在、Frontierプログラムという早期アクセスプログラムで提供されている。
対象ユーザー
- 企業ユーザー:Microsoft 365 Copilotライセンス保持者
- 個人ユーザー:Microsoft 365 Personal、Family、Premium契約者
Excel Agent Modeの始め方
- Excel on the webにアクセス(
https://excel.newで新規作成も可) - 「ホーム」タブ →「アドイン」を選択
- 「Excel Labs」を検索してインストール
- Excel Labsアドインペインから「Agent Mode」を選択
- プロンプトを入力して実行
Word Agent Modeの始め方
- Word on the webでドキュメントを開く
- Copilotペインを開く(ホームタブまたはサイドバーから)
- ツールメニューから「Agent mode (Frontier)」を選択
- タスクを指示
Office Agentの始め方
- Microsoft 365 Copilot on the webにアクセス
- チャットで「Office Agent」を呼び出す
- PowerPointまたはWordドキュメント作成を依頼
注意:Office Agentは現在、米国のPersonal/Family契約者のみ利用可能。商用展開は今後予定。
料金体系:思ったより複雑
ここが少しトリッキーだ。Agent Mode自体に追加料金はかからないが、前提となるライセンスが必要。
企業向け
Microsoft 365 Copilot:月額30ドル/ユーザー
ただし、これはアドオン。以下のいずれかのベースライセンスが別途必要:
- Microsoft 365 Business Standard(月額12.50ドル〜)
- Microsoft 365 Business Premium
- Microsoft 365 E3/E5(月額数十ドル)
- Office 365 E3/E5(レガシープラン対応に!)
実質的なコスト:月額42.50〜87ドル/ユーザー
個人向け
- Microsoft 365 Personal:年額約12,984円(月額換算1,082円)
- Microsoft 365 Family:年額約21,000円(最大6人まで)
- Microsoft 365 Premium:詳細価格は地域により異なる
個人向けプランには、Frontier経由でAgent ModeとOffice Agentへのアクセスが含まれる。追加料金なし。企業向けと比べて圧倒的にコスパが良い。
Copilot Studioでカスタムエージェント構築も可能
さらに高度な使い方をしたい場合:
- スタンドアロン版:月額200ドル(25,000メッセージ分)
- 従量課金:0.01ドル/メッセージ(Azure契約必要)
メリット:誰でもExcelエキスパートになれる
1. スキルの民主化
従来、Excelの高度な機能(ピボットテーブル、複雑な数式、VBAマクロ)はエキスパートの領域だった。Agent Modeはそれを自然言語で操作可能にする。初心者でもプロ級の分析が可能になる。
2. 圧倒的な時間短縮
財務モデルの構築、データクリーニング、レポート作成といった作業が、数時間から数分に短縮される。私自身、テストで通常3時間かかる分析を15分で完了させた経験がある。
3. 透明性と監査可能性
AIが「ブラックボックス」じゃない点が素晴らしい。Agent Modeは作業過程をリアルタイムで表示し、どの数式を使ったか、なぜその選択をしたかが追跡可能。金融や法務などの厳格な業界でも使える。
4. 反復学習
失敗しても大丈夫。Agent Modeは自己検証→修正のループを回すので、最終的に正しい結果に到達する確率が高い。ユーザーはいつでも介入・修正できる。
5. マルチモデル戦略の恩恵
OpenAI(推論重視)とAnthropic(文章生成重視)を使い分けることで、各AIの長所を最大限活用。ベンダーロックインのリスクも軽減される。
デメリット・注意点:完璧じゃない現実
1. 精度の限界
57.2%の精度は「まあまあ」レベル。ミッションクリティカルな業務では必ず人間の検証が必要。特に財務報告、法的文書、医療データなどは慎重に。
2. 複雑タスクでの苦戦
マルチステップの複雑な処理、イレギュラーなデータ構造、高度なフォーマッティングでは失敗率が上がる。シンプルなタスクから始めるのが賢明。
3. Web版のみ(現時点)
デスクトップ版のExcel/Wordには未対応。オフライン作業ができないのは痛い。近日対応予定だが、タイムラインは不明。
4. 実行時間
複雑な処理は数分かかる場合がある。リアルタイムでの対話というより、「ちょっと待ってね」という感じ。緊急対応には不向き。
5. データプライバシーとガバナンス
特にOffice Agent(Anthropic製)を使う場合、データがどこを経由するかは要確認。企業のDPA(データ処理契約)を確認し、機密情報は慎重に扱うべき。
6. 料金の複雑さ
企業向けは「ベースライセンス+Copilotアドオン」で月額40〜80ドル以上。コストの正当性を証明するROI分析が必要。
7. 学習曲線
「自然言語で話せばOK」と言っても、良いプロンプトの書き方には慣れが必要。「具体的に」「段階的に」「検証条件を明示」といったコツを学ぶ時間は避けられない。
使う際の注意点:失敗しないために
プロンプトは具体的に
❌ 悪い例:「データを分析して」
✅ 良い例:「SalesDataテーブルから地域別・カテゴリ別の売上PivotTableを作成。スライサーを追加し、月次の折れ線グラフも生成。フィールド選択の理由も説明して」
段階的に進める
いきなり複雑なタスクを投げない。小さなステップに分割して、各段階で検証しながら進める。
作業中は目を離さない
Agent Modeはリアルタイムでワークブックを変更する。重要ファイルではバックアップを取るか、コピーで試すこと。「元に戻す」はできるが、大規模な変更後だと大変。
出力を必ず検証
AIが自信満々でも間違うことはある。特に数式の論理、データの前提条件、計算結果は人間が最終チェックすべき。
機密データには慎重に
Frontierプログラムは「プレビュー」扱い。本番環境の機密データで試す前に、組織のIT部門と相談する。
まとめ:Excelが「パートナー」になる未来
3時間かけて作っていた財務モデルが15分で完成する。
VBAを勉強しなくても高度な自動化ができる。
「Excelできる人」と「できない人」の差が縮まる。
Agent Modeは、生産性ツールとAIの関係を根本から変える。
でも誤解しないでほしい。これは「人間の仕事を奪う」技術じゃない。むしろ、面倒な作業から解放されて、本当に重要な判断や創造的な仕事に集中できるようになる技術だ。
精度57.2%は「まだ発展途上」を意味する。でも考えてみてほしい。ChatGPTが登場してまだ3年。この速度で進化すれば、1年後のAgent Modeは今とは比較にならないレベルに達しているはず。
今、この瞬間が「AI時代の生産性」の幕開けなんだ。
あなたもFrontierプログラムに参加して、未来の働き方を先取りしてみないか?
月曜の朝、あの同僚にメッセージを送った。
「試してみたよ。マジでヤバいね、これ」
そして私は、今まで3時間かけていた週次レポートを、コーヒー1杯飲む間に完成させている。
【今日から使える!Agent Mode活用チェックリスト】
- □ Microsoft 365 Personal/Family/Premiumに契約(または企業版Copilot)
- □ Excel Labsアドインをインストール
- □ 簡単なタスクから試す(家計簿、ローン計算など)
- □ プロンプトの書き方を練習
- □ 作業ログを確認する習慣をつける
- □ 重要ファイルは必ずバックアップ
さあ、新しいExcelの世界へ、ようこそ。
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