2025年になってもまだ生成AIを業務で使えずにいるエンジニアが直面している5つの壁について、最新の調査データを基に深掘り。セキュリティの思考停止、知識不足、経営陣の理解不足、仕事を奪われる不安、組織の変化への抵抗という現実的な課題と、現場エンジニアができる具体的なアクションプランを提示します。
2025年、まだ生成AIを使っていないエンジニアがいる理由:現場の声から見える5つの壁
金曜の夜、とあるエンジニアの飲み会で聞いた話。
「うちの会社、まだ生成AI禁止なんですよ。ChatGPTもGitHub Copilotも使えません」
え、2025年になって?
実は、これが現実なんです。
ファインディ株式会社の調査によると、IT/Webエンジニアの91.8%は業務で生成AIを使用している一方で、総務省の調査では日本企業の生成AI活用方針を定めている企業は42.7%にとどまり、米国・ドイツ・中国の約8割と比較すると約半数という状況。
つまり、エンジニア個人は使いたがっているのに、会社がついてきていない。
今日は、2025年の今でも生成AIを業務で使えずにいるエンジニアが直面している「5つの壁」について、最新の調査データを基に深掘りしていきます。
第1の壁:セキュリティという名の「思考停止」
「情報漏洩が怖い」の裏側
日本企業の約7割が「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクが拡大すると思う」と回答しています。
でも、ちょっと待ってください。
多くの企業が「セキュリティリスク」を理由に生成AI導入を見送っていますが、実際のところ、具体的なリスク評価をしっかり行っているでしょうか?
トレンドマイクロのエバ・チェン社長は、自社での実例を交えて興味深い指摘をしています:「社内人事システムのデータに対するアクセスコントロールに問題がありました」
つまり、問題は生成AI自体ではなく、データガバナンスの不備なんです。
解決策は意外とシンプル
実際に生成AIを安全に運用している企業は、以下の対策を講じています:
- オプトアウト設定によるデータ学習の無効化
- 社内向けプライベート環境での生成AI運用
- 段階的な導入(まずは社内文書作成から)
「リスクがあるから使わない」ではなく、「リスクを管理して使う」という発想の転換が必要な時期に来ています。
第2の壁:「どう使えばいいのか分からない」症候群
日本企業特有の慎重さ
生成AIを利用する中で感じている課題として「活用ノウハウや知識不足」が54.0%で最多という調査結果があります。
これ、実はすごく日本らしい現象だと思いませんか?
海外では「とりあえず使ってみて、ダメなら修正」というアプローチが主流なのに対し、日本企業は「完璧な使い方を学んでから導入」を好む傾向があります。
エンジニアの本音
日本では「どのように、どの業務に取り入れていいのか分からない」が21.4%でトップでした。
でも、これって本当にエンジニア個人の問題でしょうか?
実際のところ、多くのエンジニアは個人的にChatGPTを触った経験があります。問題は、会社として組織的な活用方針が示されていないこと。
「とりあえず触ってみなよ」と言える雰囲気作りが重要なんです。
第3の壁:経営陣の理解不足と意思決定の遅さ
数字が物語る日本の現実
PwCの国際比較調査で衝撃的な事実が明らかになりました:
日本は活用の推進度こそ平均的ですが、他国に比べて効果創出の準が低くとどまっています
つまり、「やってはいるけど、成果が出ていない」状態。
この背景には、経営層の生成AIに対する理解の浅さがあります。
「効率化ツール」で終わっている日本企業
海外の成功企業は生成AIを単なる効率化ツールではなく、業務や事業構造の抜本的改革の手段と捉え、業務プロセスへの本格的な組み込み、ガバナンス体制の整備、従業員への価値還元に取り組んでいます。
一方、日本企業の多くは「コスト削減のツール」程度の認識にとどまっています。
これでは、現場のエンジニアがいくら「使いたい」と言っても、経営陣は腰が重いままです。
第4の壁:「AIに仕事を奪われる」という不安の正体
90%のエンジニアが感じている危機感
約90%のエンジニアがAIによる仕事の代替を意識しているという調査結果があります。
でも興味深いのは、具体的な対策をとっている人は限られていることがわかった。現状「認識と行動のギャップ」が起こっており、多くのエンジニアが変化の必要性を感じつつも具体的な行動に移せていないこと。
「奪われる」から「使いこなす」へ
ガートナーのデーブ・ミッコ氏は適切な比喩で説明しています:「電卓は数学の問題を解くための強化・補助はしたが、数学そのものは単なる計算ではなく、問題解決のプロセスそのものです。ソフトウェア・エンジニアリングも単なるコーディングを超えるものであり、AIによって高度なスキルを持つソフトウェア開発者の必要性がなくなることはありません」
つまり、生成AIはエンジニアを置き換えるのではなく、エンジニアの能力を拡張するツールなんです。
第5の壁:組織の変化への抵抗
中小企業ほど導入が遅れている現実
従業員規模が大きいほど導入・利用が進んでいる状況が確認でき、特に、全社で導入している企業の割合は、従業員数が1,000人以上の企業とそれ以外で倍以上の差が見られます
この格差の背景には、以下の要因があります:
- IT投資予算の違い
- 専門人材の有無
- 変化に対する組織の柔軟性
業界による温度差も顕著
業種別では情報通信業や金融業,保険業で導入・利用が進んでいる一方、卸売業,小売業や各種サービス業では10%前後となっており、業種によってかなりの差が見られます
つまり、あなたの会社で生成AIが使えないのは、業界全体の問題かもしれません。
現場のエンジニアができること:5つのアクション
1. 小さく始める
まずは個人的な学習から。プライベートでChatGPTを使って、具体的な成果を社内で共有しましょう。
2. セキュリティ対策を提案する
「使えない理由」ではなく、「安全に使う方法」を調べて提案する。
3. ROIを数値化する
「生産性が20%向上しました」という具体的なデータを集める。
4. 社内勉強会を開催
生成AIの利用をさらに進める上での改善点については、社内事例/ユースケースの共有(50.8%)が最も多く、プロンプト/テンプレートの共有(43.8%)、社内教育/研修の実施(41.6%)と続いています
知識の共有が組織の変化を促します。
5. 外部の成功事例を持ち込む
他社の事例や業界動向を経営陣に伝える。
まとめ:2025年は「分水嶺の年」
「2025年の崖」とは、経済産業省が警鐘を鳴らした概念で、日本企業がデジタル化や生成AIの導入に遅れを取ると、2025年以降、年間で約12兆円もの経済損失が発生すると予測されています
つまり、今年は本当に「やるか、やらないか」の分水嶺なんです。
2025年の今でも生成AIを使っていないエンジニアがいる理由は、技術的な問題ではありません。組織の問題、マインドセットの問題、そして情報格差の問題です。
でも、逆に言えば、これらの壁を乗り越えた企業とエンジニアには、大きなチャンスが待っています。
あなたの会社は、どちら側にいますか?
【この記事で参考にした最新調査データ】
- ファインディ株式会社「IT/Webエンジニアの転職市場・キャリア動向・AIの活用状況に関する調査」(2025年3月)
- 総務省「令和6年版 情報通信白書」企業向けアンケート(2024年)
- PwC Japan「生成AIに関する実態調査 2025春 5カ国比較」
- 情報通信総合研究所「企業における生成AI活用の格差浮き彫りに」調査(2024年11月)
- その他、複数の業界調査レポート
読了時間:約8分
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