はじめに
最近、AI AgentやGitHub Copilotを活用した開発支援が急速に普及しています。
要件整理、設計レビュー、テストケース作成、コード生成など、多くの場面でAIが活用されるようになりました。
その中で私自身が強く感じていることがあります。
それは、「AIへのプロンプト設計と、上司と部下の1on1は本質的によく似ている」ということです。
以前、「最近どう?」しか聞けなかった1on1で、メンバーが退職届を出してきた話の失敗談を読んだ際、この考えがより明確になりました。
その記事では、マネージャーが毎週1on1を実施していたにも関わらず、メンバーの退職意向に気付けなかったという話が紹介されていました。
毎回の会話が、「最近どうですか?」、「困っていることありますか?」という抽象的な質問だけで終わっていたからです。
実はこの失敗、AIとの対話でもまったく同じことが起きています。
AIは曖昧なプロンプトを補完してしまう
例えばAIに対して、
Web3システムの設計書を作って
と依頼したとします。
AIは設計書を作ってくれます。
しかし、
- どのブロックチェーンを使用するか
- スマートコントラクトがあるのか
- 対象はNFTかステーブルコインか
- オンチェーン処理はどこまでか
- AWSなどの外部クラウドサービスを利用するのか
といった重要な前提条件がなければ、AIは不足している情報を自ら補完しながら回答を生成します。
一見もっともらしい成果物になりますが、実際にはユーザーの意図と異なる解釈で作られているケースが少なくありません。
AIが間違えたわけではありません。
質問した側が必要な情報を渡していないだけです。
1on1も同じ構造になっている
部下との1on1で、
最近どう?
と聞いたとします。
部下は何を答えればよいのでしょうか?
- プロジェクトの話か
- 技術の話か
- 人間関係か
- キャリアか
- 健康面か
分かりません。
その結果、
特に問題ありません
という無難な回答になります。
しかし実際には、
- 設計レビューに時間を取られている
- 技術的負債の対応に疲弊している
- 顧客調整が辛い
- 将来のキャリアに悩んでいる
といった課題を抱えているかもしれません。
AIも人間も、曖昧な問いに対しては、自分なりの解釈で回答を作るという点で共通しています。
良い1on1は良いプロンプト設計と同じ
AI活用が進む中で、「良いプロンプトとは何か」について様々な議論があります。
多くの事例で共通するのは、
- 前提条件を与える
- 対象を明確にする
- 出力形式を指定する
ということです。
これは1on1にもそのまま当てはまります。
悪い例
最近どう?
良い例
今週一番時間を使った作業は何?
の方が具体的になります。
さらに、
その作業の中で一番ストレスを感じた部分は?
まで聞けば感情面も見えてきます。
そして最後に、
今後もその作業を担当したいと思う?
と聞けば将来の意向も把握できます。
これはまさにAIプロンプトにおける、次の考え方そのものです。
- Context
- Input
- Output
AI Agentが持つスキル定義と人材マネジメント
AI Agentには「Skill」や「Capability」という概念があります。
例えば、
- 設計レビューが得意
- コード生成が得意
- テストケース作成が得意
- AWS構築が得意
といった形で役割を定義します。
そして、その定義に応じて適切なタスクを与えます。
実は人材マネジメントも同じで、私たちはスキルシートを持っています。
そこには、例えば次のような情報が記載されています。
技術スキル
- AWS
- Docker
- Kubernetes
- Solidity
- Java
プロジェクトスキル
- 要件定義
- 設計
- テスト
- リーダー経験
マネジメントスキル
- 顧客折衝
- 課題管理
- 品質管理
にも関わらず1on1になると、
最近どう?
だけで終わってしまうケースがあるのです。
これはAI Agentに対して、
なんか良い感じにやって
と言っているのと変わりません。
スキルベースで会話を設計する
部下のスキル情報が事前に整理されているのであれば、それを起点に会話を組み立てるべきです。
例えばインフラ構築を得意とするメンバーなら、次のような流れで会話を設計できます。
1. 事実
- 最近構築した環境で一番苦労したところは?
- 手順書作成と実構築で工数が大きかったのはどちら?
- 当初想定と実績で差が出た作業は?
2. 感情
- その作業の何がストレスだった?
- 楽しく感じた部分はあった?
- また担当したいと思う?
3. 将来
- 今後伸ばしたい技術領域は?
- 構築より設計にシフトしたい?
- 次の案件ではどんな役割をやりたい?
これはまさに、AI Agentにロールを与えた上で最適な質問を行うのと同じ考え方です。
これから重要になるのは「認識合わせ力」
AI時代になると、「会話力が重要になる」と言われることがあります。
しかし個人的には少し違うと感じています。
本当に重要になるのは、認識のズレをどれだけ減らせるかです。
AIとの対話でも、人との対話でも、課題の本質は同じです。
- 何を前提にしているのか
- 何を期待しているのか
- どこに困っているのか
- どのような結果が欲しいのか
を正しく伝えられなければ、相手は不足した情報を補完して解釈します。
その解釈が偶然合っていればよいですが、多くの場合はズレが生じます。
AIの誤回答も、人間同士のコミュニケーションミスも、その多くはここから始まります。
まとめ
AIプロンプト設計と1on1は、一見まったく別のものに見えます。
しかし本質的には、「相手から必要な情報を引き出すための対話設計」という点で同じです。
抽象的な質問は抽象的な回答しか生みません。
AIも人間も、足りない情報を自分なりに補完してしまいます。
だからこそ、
- 事実を聞く
- 感情を聞く
- 将来を聞く
という流れが重要になります。
そして、その際には、
- スキルセット
- 経験
- 担当領域
- キャリア志向
を事前情報として活用する必要があります。
AI Agentにスキル定義を与えるように、人との対話にも相手のコンテキストを反映させます。「認識のズレを減らすために、相手に合わせて質問を設計する力」こそが、人間同士のコミュニケーションでも、人間とAIのコミュニケーションでも、最も価値のあるスキルになっていくと思います。