Amazon Summit 2025 参加レポート
生成AIとクラウド革新の最前線から
これまでオンラインでいくつかのセッションを視聴するだけだったAmazon Summit。今年は会社のサポートを受けて、初めて現地での参加が叶いました。文章や資料でしか触れたことのなかった技術や戦略を、実際の導入事例や担当者の声を通じて体感できたこの経験は、私自身の業務と視野を大きく広げてくれました。
1. 基調講演:生成AIと“ビルダー”の時代
基調講演では、AWSが掲げる現在の戦略、すなわち「新たな価値の創造」「ビジネスモデルの変革」「人材育成(ビルダー)」が強調されました。
特に NRI や SUSMED など、生成AIを活用したサービスを導入している企業の実例を通じて、AI技術が単なる流行に留まらず、企業変革の中核となっていることが示されました。
- 紹介された主要サービス:
- Amazon Oracle Database@AWS, Amazon Elastic VMware Service (EVS)
- Amazon Aurora DSQL, Amazon Connect, Amazon Transform
- AI関連:AWS Bedrock, AWS Nova, Q Developer, Bedrock Guardrails
- インフラ:Graviton4, Trainum2, NITRO, Shield
中でも特に印象に残ったのは、次世代の生成AI基盤モデルである AWS Nova の紹介でした。
Novaは検索拡張生成(RAG)、プロンプトエンジニアリング、事前学習、ファインチューニング機能を備えており、生成AI活用の高度化を支援します。
さらに Bedrock Guardrails による有害コンテンツ・個人情報のフィルタリング機能も紹介され、LLMのガバナンス強化という視点も明確に示されていました。
2. セッションの要点
2-1. Palo Alto:AI時代のクラウドセキュリティ戦略
AI時代におけるセキュリティの課題は2つに大別されます:
-
従業員による生成AIの利用管理
- 使用状況の可視化
- 社内ポリシーによる制御と抑止
- AI Access Securityによるアクセス制限
-
企業が生成AIアプリケーションを構築する際のアーキテクチャ変化と対策
- 従来のWeb-サーバー-DB構成から、LLM、メモリ、アクションなどの要素を含む複雑な構成へと進化
- 攻撃対象の拡大と管理ポイントの増加
🔹 対応策:Prisma AIrs などによるセキュリティ統合管理
やや製品プロモーション色を感じる場面もありましたが、アーキテクチャ視点でのセキュリティ論点は興味深い内容でした。
2-2. IRET:AI×IoTによる日本製造業の変革
日本の製造業は、現場力と標準化の強みを「デジタル化」することで競争力の向上を目指しています。
● ケース①:三菱マテリアル 加工事業カンパニー
- 課題:データが未整理で分析困難/収集量が膨大
- 解決:
- AWS IoT SiteWise によりデータの構造化・蓄積を実現
- IoT Core + Data Firehose による分析基盤への連携
● ケース②:AI画像解析による部品カウントの自動化
- 課題:目視によるカウントの非効率と人為的ミス
- ソリューション:
- YOLOアルゴリズム を用いた画像認識AI
- Amazon SageMaker Pipelines によるモデル自動デプロイ
- S3 + CloudFront + API Gateway + Lambda + DynamoDB のサーバーレスSPA構成
✔️ 効果:高精度自動化、作業負荷軽減、費用対効果の最大化
● 補足事例:IHI機械システム
- 課題:手書きデータを含む非構造帳票の活用が困難
- 解決策:社内Boxストレージ + RAG + 検索機能 によるデータ活用
2-3. GMOペイメントゲートウェイ:マネージドサービス主導のアーキテクチャ
GMOは、EC2を使わず、ECS FargateやECS Anywhere、Aurora、API Gateway、DynamoDB などの マネージドサービス中心 にシステムを構築しています。
- ハイブリッド構成:オンプレミスとAWSをDirect Connectで接続
- 内部ネットワーク:Transit Gateway
- セキュリティ対策:
- マネージドサービス活用
- コンテナイメージスキャン
- ランタイム監視とセキュリティ対応
✔️ トラフィック急増時のバースト対策:CloudFront + Lambda + DynamoDB構成
2-4. PayPay × Snowflake:AI Data Cloudの最先端構成
PayPayは大規模データ処理とAI分析を実現するため、以下のデータパイプラインを構築:
- データ連携:AWS Glue + S3 + Snowflake Connector + Fivetran
- オーケストレーション:Amazon MWAA (Apache Airflow)
- 分析&可視化:Snowflake, Sigma, Superset, AWS ML/AIサービス
✔️ 巨大なデータ規模と高速クエリ処理を安定運用している点が印象的でした。
2-5. AWSオブザーバビリティ:CloudWatch Application SignalsとOpenTelemetry
アプリケーションの性能低下やマイクロサービスの障害箇所特定など、運用の課題に対して以下のソリューションが紹介されました:
-
Amazon CloudWatch Application Signals
- SLOモニタリング
- インシデントの早期発見
-
OpenTelemetry
- 分散トレーシング
- ゼロコード計装で開発者負担の軽減
✔️ 実際の開発現場でも導入してみたい具体的な手法が多く紹介され、非常に実践的な内容でした。
2-6. トヨタシステムズ:ROSAからHCPへの移行による基盤改革
Red Hat OpenShift Service on AWS(ROSA)を活用していたトヨタシステムズは、Hosted Control Plane (HCP) 導入によってブルー/グリーンデプロイ等の柔軟な運用を可能にしました。
✔️ 継続的なアップデートと生成AI連携による現場力強化の取り組みは非常に参考になりました。
2-7. AWS Security Incident Response:インシデント対応の最前線
AWSのセキュリティ対応サービスで、以下の機能を中心に構成されています:
- GuardDuty や他の検出サービスとの連携
- 脅威の優先順位付けと自動化対応
- 24時間365日対応可能なAWSセキュリティ専門家への相談体制
✔️ 実際の利用手順や自動化フローの紹介があり、セキュリティ対応の具体的なイメージを掴むことができました。
まとめ
今年のAWS Summitの主役はやはり「生成AI」でした。
AIを活用した実サービスが次々と登場し、**「乗り遅れてはいけない」**という危機感と共に、テクノロジーの進化を肌で感じました。
また、さまざまな企業の導入事例を通じて、課題に直面したときに、最適な技術で解決策を模索することの重要性を改めて実感しました。
自分自身もより多くを学び、考え、試していきたいという意欲が高まった、有意義な1日でした。