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AI が原因を当てても、「思いついた」わけじゃない —— 推論の3分類で見分ける

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Last updated at Posted at 2026-08-06

AI にバグの原因を聞くと、けっこう当ててきます。

でも、たまにとんでもなく的外れなことを言う。しかも自信満々で。

この差が気になって論文を読んだら、こんな一文がありました。

identifying the error is distinct from generating the fix
(エラーを特定することと、直し方を生み出すことは別物である)

当たったからといって、AI が原因を「思いついた」とは限らない。見たことがあるだけかもしれない。

その話をします。


推論は3つの式で表せる

論文は Google DeepMind の Tom Zahavy が2026年1月に出した LLMs can't jump。ICML 2026 に採択されています。

持ち出しているのは、パースという哲学者による推論の分類です。1839年生まれ。哲学の話に聞こえますが、論文がプログラマ向けに置き換えてくれていました。

  • Rule = 関数
  • Case = 入力
  • Result = 戻り値

この3つのうち、何が分かっていて何を求めるか。それだけで推論の種類が決まる、と。

名前 日常の作業だと
Rule + Case → Result Deduction コードを実行して、出力を確かめる
Case + Result → Rule Induction ユニットテストを通す関数を書く
Rule + Result → Case Abduction 結果を見て、原因のほうを作り出す

上2つは、やっていることが想像つくと思います。関数と入力があるから答えが決まるのが Deduction。入力と答えを見て関数を当てにいくのが Induction。

3つ目が分かりにくいので、例を出します。

朝、芝生が濡れている(Result)。雨が降れば芝生は濡れる(Rule)。じゃあ夜に雨が降ったんじゃないか(Case)

証明はできていません。スプリンクラーかもしれないし、犬が水をこぼしたのかもしれない。それでも「たぶんこれだ」と原因のほうを作り出す。これが Abduction です。

真実を保証してくれるのは Deduction だけ。論文の表現だと It is the only mode that guarantees truth。あとの2つは、外れる可能性を含んでいます。


AI は上2つが得意で、3つ目には仕組みがない

論文の見立てはこうでした。

状態
Induction もう習得済み。というか学習そのものがこれ
Deduction 急速に攻略中。AlphaProof が数学オリンピック級の問題を解いている
Abduction そもそも仕組みがない

3つ目が論文の主張です。言い方が結構きつくて、前提さえ与えられれば定理の証明はできるだろうけど、その前提を思いつくほうは structurally incapable(構造的にできない)と書いてあります。

タイトルの jump はここから来ています。


じゃあ、あの「当たった」は何だったのか

ここが本題です。

AI がバグの原因を当てることは、実際にあります。ただ、あれって「似たパターンを学習データで見たことがある」だけでも説明がつくんですよね。

つまり Induction です。Abduction ではない。

似た事例が学習データにあれば当たる。なければ外す。しかも、どちらの場合も同じ口調で返ってくる。 個人的にはここが一番厄介だと思っています。

動画生成モデルへの指摘が、同じ構造の話でした。

generate a falling apple not because they model gravity, but because falling is the dominant continuation of unsupported object in their training distribution
(落ちるリンゴを生成できるのは、重力をモデル化しているからではない。学習分布のなかで「支えのない物体の続き」として落下が支配的だから)

それっぽい映像は作れる。でも重力を分かっているわけじゃない。

バグの原因を当てるのも、これと同じかもしれない。 それっぽい答えは返ってくる。でも、原因を理解して導いたわけではないかもしれない。


なぜ Abduction ができないのか

一応、論文が挙げる理由も書いておきます。

例として出てくるのが、アインシュタインの思考実験です。

もし人が屋根から落っこちたら、その人は自分の重さを感じないんじゃないか

ここから「重力と加速度は局所的に区別つかない」(等価原理)にたどり着きます。

重要なのは、この発想がデータから出ていないことです。当時、裏付けになる観測データはほとんどありませんでした。

じゃあ何を材料にしたのか。体の感覚です。落ちる感覚と、重力で押される感覚。この2つが区別つかないことを、体で知っていた。

論文はこれを manipulative abduction(Magnani et al., 2009)と呼んでいます。thinking by doing ——やってみて考える推論です。

LLM にはこの「体で分かっている」部分がない。だから Abduction の仕組みも持てない、という論の運びでした。


で、どこを自分が握るか

論文の枠組みを、そのまま普段の作業に当てはめてみます。

作業 論文の枠組みから言えること
仕様が決まってる実装 Rule + Case → Result 得意とされる側
テストを通す実装 Case + Result → Rule 得意とされる側
ログから傾向を出す Case + Result → Rule 得意とされる側
前例のないバグの調査 Rule + Result → Case 仕組みがないとされる側
そもそも何を作るべきか Rule + Result → Case 同上

分けてみて気づいたのは、上3つと下2つでは「間違いへの気づきやすさ」が違うということでした。

上3つは、間違っていればテストや実行結果ですぐ分かります。

でも下2つは、間違っていても最初は分からない。 「原因はこれです」と言われて納得して、しばらく経ってから違うと気づく。手戻りが大きいのはこちらです。

答えを聞くこと自体は問題ないと思います。ただ、その答えが「似た事例の記憶」なのか「筋の通った推論」なのかは、鵜呑みにせず自分で確かめる。分けて考えるだけでも、だいぶ違いそうです。


論文について、3つだけ注意

1. これはポジションペーパーです。 主張を述べる文書であって、実験で証明したわけではありません。ベンチマークの結果と同じ扱いをすると読み間違えます。

2. 「だから AI は無理」という論文ではありません。 解決策もちゃんと出しています。「中で操作できる世界モデル」を作るべきだ、という提案です。Genie のような、動画を眺めるだけでなく介入できるモデルを想定しています。Genie は、ラベルなしの動画だけから学習して、生成した画面の中でキャラを動かせるモデルです。

3. 著者本人が誤読を訂正しています。 X で「これを『DeepMind が AI for science に冷や水を浴びせてる』と受け取る人がいるけど、違う。個人のポジションペーパーで会社の見解ではない」と書いています。ただし論文には © 2026 Google DeepMind の表記もあるので、両方書いておきます。


まとめ

  • 推論は3つの式で表せる。Rule(関数)/ Case(入力)/ Result(戻り値)
  • AI が得意なのは Rule + Case → ResultCase + Result → Rule
  • 仕組みがないとされるのが Rule + Result → Case。結果から原因を作り出すほう
  • AI が原因を当てても、それは似た事例を見たことがあるだけかもしれない
  • 当たっても外しても同じ口調で返ってくる。だから答えの中身は自分で確かめる

「原因はこれです」と言われたとき、それが記憶なのか推論なのかを一度考えてみると、無駄な手戻りが減りそうです。


参考

  • 論文 PDF: LLMs can't jump(Tom Zahavy, Google DeepMind、2026年1月27日)
  • ICML 2026 ポスター
  • L. Magnani et al. Abductive cognition: The epistemological and eco-cognitive dimensions of hypothetical reasoning, Springer, 2009

※ 引用は原文と日本語訳を併記しています。訳は読みやすさを優先しているので、正確な表現は PDF をご確認ください。

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